第34話 余韻
翌日。
商店街は朝から騒がしかった。
「聞いたか?」
「ああ」
「不良達が全滅したって話だろ?」
あちこちで同じ話題が飛び交う。
五十人。
全員病院送り。
地元ではちょっとした事件だった。
「誰がやったんだ?」
「知らん」
「でも寺院を襲うつもりだったらしいぞ」
「馬鹿だな」
魚屋の主人が呆れた顔をする。
「祥子ちゃんには昔から世話になってるってのに」
「ああ」
八百屋の主人も頷いた。
「観光客が絡まれた時も助けてくれたしな」
「うちの孫なんか迷子になった時に探してくれたぞ」
「商店街の荷物運びも手伝ってくれるし」
「祭りの時なんか毎年駆り出されてるな」
周囲から笑いが漏れた。
祥子は地元では有名だった。
拳法の師範。
寺院の娘。
そして面倒見の良い姉御分。
土産物屋の老人が苦笑する。
「まぁ、ちょっと金にがめついとこあるけどな」
「あー」
全員が納得した顔になった。
「体験入門のチラシ配りまくってるしな」
「商店街の掲示板、半分くらい引導流だぞ」
「この前なんか魚買ったついでに体験入門勧められたぞ」
「また勧誘されたのか」
「三回目だ」
「諦めろ」
再び笑いが起きる。
だが不良達の話になると空気が変わった。
「それに比べてあいつらはなぁ……」
老人がため息を吐く。
「観光客に絡む」
「店の商品壊す」
「注意すりゃ逆ギレ」
「警察が来る頃には逃げる」
「ろくなもんじゃなかった」
周囲も苦い顔で頷いた。
「正直、少し静かになったな」
「言うな言うな」
そう言いながらも、誰も否定しなかった。
◇
寺院。
祥子は頭を抱えていた。
「絶対あの子よね……」
昨日。
名誉師範代。
今日。
不良五十人壊滅。
偶然とは思えない。
門下生が不思議そうな顔をする。
「師範、何か心当たりが?」
「ありすぎるのよ」
「ありすぎるんですか」
祥子は立ち上がった。
「確認しないと」
◇
警察署では事情聴取が行われていた。
「何があった?」
警察官が聞く。
だが不良は答えない。
震えている。
「誰にやられた?」
「…………」
「名前は?」
不良の顔色が変わった。
「ひっ」
それ以上は何も言わない。
別の不良も同じだった。
「おい、どうした」
「何か見たんだろ?」
不良は首を振る。
そして布団を頭から被った。
警察官達は顔を見合わせる。
まるで共通の悪夢でも見たようだった。
◇
祥子は寺院の関係者から別荘の場所を聞き、山を下りた。
「いやいやいや」
歩きながら呟く。
「でも証拠ないし」
「でもタイミングが完璧だし」
「でも普通やらないでしょ五十人相手に」
そこで止まる。
少し考える。
「……やりそうなのよね」
頭が痛かった。
◇
別荘。
祥子は玄関の前まで来た。
本来ならインターホンを押すべきだろう。
だが待てなかった。
勢いよくドアを開ける。
「ちょっと――!」
そして固まった。
◇
リビング。
三人がテーブルを囲んでいた。
雛。
美玲。
そしてジェームズ。
何故か真剣な顔でトランプをしている。
「スペードの8」
雛がカードを出す。
「甘いですな」
ジェームズが笑った。
「ジョーカー」
「なっ!?」
美玲が叫ぶ。
「ジェームズさん強すぎる!」
「長年の経験です」
ジェームズは優雅に一礼した。
祥子の脳が処理を拒否する。
「え?」
間の抜けた声が漏れた。
三人が振り向く。
「祥子さん」
雛が手札を持ったまま言う。
「一緒にやる?」
祥子は数秒固まった。
そして叫ぶ。
「なんでトランプ!?」




