第33話 名誉師範代
翌日。
商店街の外れに不良達が集まっていた。
「寺院の拳法使いが負けたらしいぞ」
「マジか!?」
「あのバケモンに勝てる奴がいたのか!」
「勝ったのはどんな奴だ?」
「知らねぇ。けど、チャンスだ」
「チャンス?」
一人がニヤリと笑う。
「今ならあいつも弱ってるはずだ」
「道具と人数集めりゃ勝てんべ」
「なるほどな!」
不良達の目が輝いた。
「じゃあ俺、この辺のやつらに声かけるわ」
「俺も!」
「で、いつやるよ?」
一人が周囲を見回す。
「昼間は人目につく」
「夜は寺院の門が閉まってる」
そして言った。
「やるなら門が開く早朝だ」
「門が開いた瞬間になだれ込んで、有無を言わさずボコる!」
「見てろ、あの女」
下卑た笑みを浮かべる。
「ボコボコにして裸にひん剥いてやんよ!」
周囲から下品な笑いが漏れた。
◇
その頃。
雛と美玲は商店街を歩いていた。
「お、また来たのかい」
土産物屋の老人が笑う。
「この辺だと買い物できるの、この商店街くらいだし」
美玲が答えた。
老人は雛を見る。
「嬢ちゃんはどうだ?」
「楽しい」
即答だった。
老人は目を細める。
「そうか」
「ありがとうな」
◇
さらに歩く。
観光客達の会話が聞こえてきた。
「なんか、この辺のあちこちで不良達を見るんだけど……」
「私、商店街の外れの方でたむろしてるの見たよ」
美玲が顔をしかめた。
「なんか不穏な空気ね」
「うん……」
雛も頷く。
その時だった。
視界の端に不良達が映る。
小声で話している。
普通なら聞こえない距離。
だが雛には聞こえた。
「……明日……」
「……早朝……」
「……寺……」
雛は何も言わなかった。
◇
深夜。
別荘。
美玲は熟睡していた。
静かな部屋。
雛はそっと起き上がる。
物音ひとつ立てずに着替えた。
そして静かに外へ出る。
◇
早朝。
寺院へ続く山道。
不良達が集まっていた。
「何人集まった?」
「五十人はいるぜ!」
「道具も揃えたしな」
不良達は様々な武器を手にしていた。
「これなら負けねぇだろ」
「そろそろ山門だな」
不良達は笑いながら歩く。
やがて山門が見えてきた。
だが。
門の前に誰か立っていた。
一人の少女。
黒いジャージ姿。
黒髪。
姫カット。
不良達が足を止める。
「なんだお前?」
少女は答えた。
「引導流名誉師範代」
「は?」
意味が分からない。
雛は不良達の手を見る。
鉄パイプ。
木刀。
スタンガン。
ナイフ。
「その武器で何するの?」
不良が笑った。
「決まってんだろ」
「あの拳法女ボコるんだよ!」
雛の視線がナイフで止まる。
「ナイフまである……」
「おう」
不良が鉄パイプを肩に担いだ。
「邪魔するんなら、お前から抉ってやるぞ?」
その瞬間だった。
雛の目が細くなる。
不良達の背筋を悪寒が走った。
本能が警告している。
だが理由が分からない。
雛は静かに聞いた。
「馬鹿なの?」
一歩前へ出る。
「……死ぬの?」
◇
別荘。
朝。
美玲が目を覚ました。
良い匂いがする。
リビングへ向かう。
「おはよう雛!」
キッチンでは雛が朝食を作っていた。
「料理できるんだ?」
「簡単な物なら」
「へー」
美玲は席に座る。
「じゃあ明日の朝は私が作るよ」
「うん」
雛は頷いた。
穏やかな朝だった。
◇
同じ頃。
寺院。
祥子は欠伸をしながら山門へ向かっていた。
「ふぁぁ……」
門を開く。
そして固まった。
山門の外。
五十人の不良達が倒れている。
全員半殺し。
鉄パイプも。
木刀も。
スタンガンも。
ナイフも。
全部転がっていた。
祥子は数秒固まる。
そして叫んだ。
「な、何これーーー!?」




