第31話 引導流拳法
商店街を抜けた先。
石段の向こうに巨大な山門が見えていた。
「おお……」
美玲が思わず声を漏らす。
寺院は想像以上に大きかった。
長い石段。
立派な本堂。
歴史を感じさせる建物。
観光地として有名なのも納得だった。
「すごいね」
「うん」
雛も周囲を見回す。
その時、本堂の隣に建つ別の建物が目に入った。
「道場?」
美玲が呟く。
二人は近付いた。
入口には大きな看板。
『引導流拳法』
そう書かれている。
さらに入口横には貼り紙。
『体験入門歓迎』
美玲が眉をひそめた。
「意外と俗っぽい……」
雛は貼り紙を見つめる。
「体験できるんだ」
二人は入口の扉を開けた。
「引導流へようこそー!」
元気な声が響く。
笑顔で立っていたのは、先程の少女だった。
美玲が固まる。
「え?」
雛は無言。
少女は気にした様子もなく営業スマイルを浮かべた。
「引導流では、初心者向けのエクササイズから、経験者向けの鍛錬法まで、多数取り揃えてますよ!」
先程の達人然とした姿はどこにもない。
「さっきの物静かな雰囲気は何だったの……?」
美玲が呆然と呟く。
少女は悪びれもせず答えた。
「強者ムーブしとかないと、最初から営業スマイルじゃ引きがないでしょ?」
「またまた俗っぽい……」
美玲は額を押さえた。
少女は胸を張る。
「私は伊集院祥子」
「引導流の師範をやってます」
美玲は雛を見る。
「雛、まだ興味ある?」
正直帰る選択肢もあると思った。
だが雛は看板を見つめていた。
「引導流……」
祥子が首を傾げる。
「ん?」
雛は静かに続けた。
「インドが起源の拳法」
「引導流の名前は、インドの闘神インドラが由来」
祥子が固まる。
美玲も固まる。
「詳しい!?」
美玲が叫んだ。
雛は首を傾げる。
「有名だよ?」
「初めて聞いたわ!」
即座に否定された。
祥子はじっと雛を見る。
先程から気になっていた。
立ち姿。
視線。
歩き方。
普通ではない。
だが何者なのか分からなかった。
しかし今ので確信する。
「あなた」
祥子が真顔になる。
「やはり只者じゃなかったわね……」
雛は少し考えた。
「観光客だけど?」
「そういう意味じゃないのよ!」
祥子が即座にツッコむ。
美玲は思った。
(この人、思ったより私側だ……)




