第30話 商店街
翌日。
雛と美玲は商店街へ来ていた。
観光客も多い。
土産物屋、飲食店、昔ながらの商店が並び、休日らしい賑わいに包まれている。
「旅行って感じするねー」
美玲が上機嫌で歩く。
雛は周囲を見回していた。
「こういう所は初めて?」
少し考えてから答える。
「似たような感じの所には、行ったことある気がする」
「そうなんだ」
美玲は頷いた。
二人は土産物屋へ入った。
店内には地元名産のお菓子や民芸品が並んでいる。
「いらっしゃい」
店主の老人が笑顔で迎えた。
「観光かい?」
「はい」
美玲が答える。
「別荘に泊まってるんです」
「ほう」
老人は目を細めた。
「楽しんでいきなさい」
「ありがとうございます」
雛も頭を下げる。
二人は店内を見て回った。
木彫りの置物。
手作りの工芸品。
ご当地キャラクター。
美玲が楽しそうに眺める中、雛だけは何故か包丁コーナーを見ていた。
「何見てるの?」
「これ」
「包丁じゃん」
雛は一本手に取る。
「良い包丁」
「分かるの?」
「うん」
刃を眺めながら答える。
「重心が安定してるし、刃の入り方も良さそう」
「へぇ……」
美玲は感心した。
「そういうのも分かるんだ」
「お父さんに教わった」
「あんたのお父さん像がまたブレたわ!」
雛は首を傾げるだけだった。
その後、二人はご当地ソフトクリームを買った。
ベンチへ座る。
「美味しい!」
美玲が笑顔になる。
雛も一口食べた。
「美味しい」
「でしょ!」
しばらく二人でのんびり過ごす。
夏の日差しは強い。
だが風は心地良かった。
そのまま商店街を歩いていた時だった。
「痛ぇ!」
「やめてください!」
怒鳴り声が聞こえる。
視線を向けると、観光客らしい若い男性が数人の不良に囲まれていた。
「観光客だからって調子乗ってんじゃねぇぞ」
「金置いてけ」
雛が立ち止まる。
「止める?」
「そうだね」
美玲も頷いた。
二人が向かおうとしたその時だった。
一人の少女が不良達の前へ立った。
雛達と同年代くらい。
ショートカット。
道着姿。
無駄のない立ち姿だった。
「は?」
不良が睨む。
「何だお前」
少女は答えない。
次の瞬間、踏み込んだ。
鋭い掌打。
続けて回し蹴り。
不良達が次々と吹き飛ぶ。
「ぐっ!?」
「何だこいつ!」
反撃すら許さない。
まるで流れるような体術だった。
数秒後。
立っているのは少女だけだった。
少女が振り返る。
雛と目が合った。
一瞬だけ何か言いたげな表情を浮かべる。
だが何も言わない。
そのまま踵を返し、無言で去っていった。
「今のは?」
美玲が呆然と呟く。
近くで様子を見ていた老人が答えた。
「寺院の子だね」
「寺院?」
雛が聞く。
「ああ」
老人は頷いた。
「昔からこの辺りを守ってくれてる」
「拳法?」
「らしいな」
老人は顎髭を撫でる。
「昔から寺院でのみ伝承されてる拳法らしい」
雛の目が少しだけ変わった。
「へー……」
美玲は嫌な予感がした。
「興味の方向が違くない!?」
雛は気にしていない。
少し考える。
そして言った。
「寺院行かない?」
美玲はため息を吐く。
「はいはい」
「付き合いますよ」
雛は少し嬉しそうだった。




