第29話 別荘
夏休み初日。
雛と美玲は電車に乗っていた。
窓の外の景色が流れていく。
雛は少しだけ落ち着かない様子だった。
「なんかドキドキする」
美玲が首を傾げる。
「なんで?」
「電車乗るの初めて」
「え?」
美玲は固まった。
「初めて?」
「うん」
「車かバイクにしか乗ったことないから」
「どんな人生送ってきたのよ!?」
思わずツッコむ。
雛は首を傾げるだけだった。
◇
電車を乗り継ぎ、二人は目的の駅へ到着した。
ホームへ降りた美玲が周囲を見回す。
「ここから別荘まで遠いの?」
「管理人さんが迎えに来るって言ってた」
雛が答えた。
その時。
一台のジープが駅前へ入ってくる。
運転席から降りてきたのは、白髪をオールバックにした髭の老人だった。
背筋は真っ直ぐ。
スーツ姿。
妙に存在感がある。
「お待たせいたしました」
老人は丁寧に一礼した。
「別荘管理人のジェームズです」
美玲は思わず言った。
「キャラ濃いっ!」
だが。
「はじめまして」
雛は普通に頭を下げていた。
「違和感ないの!?」
美玲はさらにツッコむ。
ジェームズは気にした様子もなく微笑んだ。
「では、参りましょう」
◇
二人はジープへ乗り込む。
山道を走り始めた。
窓の外には豊かな自然が広がっている。
その景色を眺めながら、雛が呟いた。
「なんか、懐かしい気がする」
「景色が?」
美玲が聞く。
雛は首を横に振った。
「ジープ」
「ジープ?」
「昔、乗ってた気がする」
ジェームズがミラー越しに微笑む。
「同好の士は嬉しいですな」
「深くは聞かないわ……」
美玲は遠い目をした。
◇
三十分ほど走る。
やがてジープが大きな門の前で止まった。
門の向こうには広い敷地。
立派な別荘が建っている。
「おおー……」
美玲が感嘆の声を漏らした。
雛も建物を見上げる。
「大きい」
◇
荷物を運び込みながら、ジェームズが尋ねた。
「お食事は私が用意することも、お嬢様方で自炊していただくこともできますが?」
雛は美玲を見る。
「どうする?」
「せっかくだから、二人でやってみようか」
美玲は楽しそうだった。
雛も頷く。
「私たちでやってみます」
「そうですか」
ジェームズは一礼した。
「入口のドアの横に私の電話番号が貼ってありますので、何かあればご連絡ください」
「ありがとうございます」
美玲が頭を下げる。
◇
その時。
雛が尋ねた。
「観光スポットあります?」
ジェームズは少し考える。
「ここから徒歩ですと三十分ほどかかりますが、有名な寺院と商店街がありますよ」
「あとで行ってみよ!」
美玲が目を輝かせた。
「うん」
雛も頷く。
「ジープでお送りしますので、いつでもお声かけください」
そう言い残し、ジェームズは去っていった。
◇
別荘には二人だけが残る。
美玲は大きく伸びをした。
「とりあえず荷物整理しよっか」
雛は首を傾げる。
「そんなに色々持ってきたの?」
「雛、荷物少なくない?」
「着替えだけかな」
「旅行なのに?」
「旅行だから」
美玲は頭を抱えた。
そして改めて室内を見回す。
「それにしても、別荘広いねー!」
雛も周囲を見渡した。
「少々暴れても平気そう」
「暴れないからね!?」
美玲のツッコミが別荘へ響いた。




