第28話 期末テスト
期末テスト当日。
教室には重苦しい空気が漂っていた。
「あー……終わった」
美玲が机に突っ伏す。
「まだ始まってないよ?」
雛が首を傾げた。
「始まる前から終わってるの!」
「前も言ってた」
「今回は本当に終わってるの!」
美玲は必死だった。
だが勉強会の成果は確実に出ていた。
◇
数日後。
答案返却の日。
教室は朝から騒がしかった。
「やばい……」
「赤点だけは勘弁……」
「頼むから平均点ください……」
悲痛な声が飛び交う。
そんな中、雛は特に緊張した様子もなかった。
担任教師が教室へ入ってくる。
「返すぞー」
一枚ずつ答案が返却されていった。
「よし!」
「終わった……」
「見たくねぇ……」
悲喜こもごもだった。
美玲も恐る恐る答案を見る。
そして固まった。
「え?」
もう一度見る。
「え?」
さらにもう一度見る。
「えぇ!?」
教室中が振り返った。
「どうした?」
雛が聞く。
「上がってる!」
美玲は立ち上がった。
「全部上がってる!」
本当に全部だった。
今まで見たことのない点数が並んでいる。
「やったー!」
思わず雛へ抱きついた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
雛は普通に受け止める。
周囲のクラスメイト達も驚いていた。
その時。
教師が咳払いした。
「静かに」
教室が静まる。
「今回の学年トップだが」
全員の視線が集まった。
「全科目満点」
ざわめきが広がる。
「哀沢」
さらにざわめいた。
「だろうね」
「まあな」
「知ってた」
誰も驚かなかった。
雛本人も特に反応しない。
「そうなんだ」
それだけだった。
◇
放課後。
帰り道。
美玲はずっと機嫌が良かった。
「見て!」
答案を見せる。
「全部上がってる!」
「よかったね」
「うん!」
そして少し考える。
「あのさ」
「ん?」
「お母さんが、成績上がったら旅行してもいいって言ってたんだ」
雛が足を止めた。
「旅行かー」
「ダメ?」
少し不安そうな顔。
雛は首を横に振った。
「紫亜さんに相談してみる」
「本当!?」
「うん」
美玲は笑顔になった。
◇
帰宅後。
リビング。
「紫亜さん」
「はい」
紫亜が振り返る。
「美玲に夏休み、一緒に旅行しようって言われた」
紫亜は一瞬だけ考えた。
そして言う。
「夏休みイベントですね」
「うるせぇ」
紫亜が硬直した。
本当に一瞬だけ。
だが確かに硬直した。
口元を押さえる。
萌えていた。
雛は見なかったことにした。
「それなら、別荘がありますよ」
「別荘?」
雛は固まる。
「いつの間に!?」
「こういう事もあろうかと思いまして」
「意味分かんないんだけど……」
紫亜は微笑むだけだった。
「明日、美玲に言ってみる」
「はい」
紫亜は頷く。
「楽しい旅行になるといいですね」
◇
翌日。
教室。
「それで?」
美玲が身を乗り出した。
「紫亜さん何て?」
「別荘あるから、そこに行くといいって」
美玲が固まる。
「別荘なんか持ってたの!?」
「私も昨日知った」
「紫亜さん何者?」
雛は即答した。
「お手伝いさん兼、保護者」
「わざと言ってるよね!?」
美玲が叫ぶ。
雛は少しだけ笑った。
最近はこういうやり取りも嫌いじゃない。
「夏休み、楽しみだねー」
美玲が窓の外を見る。
青空だった。
もうすぐ夏が来る。
雛も空を見上げた。
「うん」
「楽しみ」




