第27話 勉強会
期末テストが近付いていた。
放課後。
教室で参考書を眺めながら、美玲が盛大にため息を吐く。
「あー……」
「終わった」
雛が顔を上げた。
「まだ始まってないよ?」
「始まる前から終わってるの!」
美玲は机に突っ伏す。
「雛は余裕なんでしょ?」
「たぶん」
「たぶんって何よ……」
美玲は半眼になった。
「じゃあ今度うち来てよ」
「勉強教えて」
「いいよ」
雛はあっさり頷いた。
◇
帰宅後。
雛はリビングにいた紫亜へ声を掛けた。
「紫亜さん」
「はい」
「今度、美玲の家に行くことになった」
紫亜は微笑む。
「お友達のお家ですか」
「うん」
「それでしたら、手土産のひとつも持って行かないと失礼に当たりますね」
「そういうもの?」
「そういうものです」
紫亜は即答した。
◇
数日後。
美玲の家。
インターホンが鳴る。
玄関を開けた美玲は固まった。
「雛?」
「お邪魔します」
雛の手には綺麗に包装された箱。
嫌な予感がした。
「それ何?」
「手土産」
「何も持って来なくていいって言ったのに……」
箱を受け取る。
重い。
そして高級感が凄い。
母親も出てきた。
「あら」
「初めまして」
雛は頭を下げる。
「哀沢雛です」
礼儀正しい。
母親は微笑んだ。
「いらっしゃい」
そして手土産を見る。
開ける。
沈黙。
「美玲」
「うん」
「これ本当に手作り?」
「たぶん……」
宝石みたいな焼き菓子が並んでいた。
美玲母は恐縮した。
◇
美玲の部屋は女の子らしい部屋だった。
可愛らしい小物。
ぬいぐるみ。
本棚には小説や漫画が並んでいる。
机の上には参考書と問題集。
だが、その隣には雑誌も積まれていた。
「なるほど」
雛が呟く。
「何が?」
「テストの点数」
「失礼だな!?」
美玲が抗議した。
そんなやり取りをしながら勉強会が始まる。
「ここ分かんない」
「ここ?」
雛は問題を見る。
「これはこう」
「なんで?」
「こう考えるから」
「あー!」
美玲が声を上げた。
「分かった!」
雛は頷く。
説明が異常に上手かった。
一時間後。
美玲は感動していた。
「なんでこんなに教えるの上手いの?」
雛は少し考える。
「おじさんの方がもっと上手い」
「おじさん?」
「うん」
「教師とか?」
雛は首を傾げた。
少し考える。
「なんか、王様って言われてた気がする」
美玲は黙った。
(あだ名かな……?)
そう結論付けた。
◇
夕食の時間になった。
「雛ちゃんも食べていきなさい」
美玲母が言う。
「ありがとうございます」
食卓には家庭料理が並んでいた。
雛は箸を動かす。
そして。
「美味しいです」
素直に言った。
美玲が吹き出す。
「紫亜さんの料理の方が美味しいでしょ!?」
「お母さんの料理って初めてだし」
食卓が少し静かになった。
美玲母は雛を見る。
事情は分からない。
だが何かを感じた。
「いっぱい食べてね」
優しく言う。
雛は笑った。
「はい!」
◇
食事も終わり、時計を見る。
「そろそろお父さん帰ってくる時間だね」
美玲が言った。
雛は立ち上がる。
「私、そろそろ帰るね」
「えー」
「お父さん紹介するよ?」
「紫亜さんが心配するし」
「あー」
美玲は納得した。
確かにしそうだった。
二人は玄関へ向かう。
「またおいでよね」
「うん」
「いつでも遊びにいらっしゃい」
美玲母も微笑む。
雛は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
そして帰っていく。
◇
その背中を見送りながら、美玲母が呟いた。
「いい子ね」
美玲は頷く。
「うん」
少し笑った。
「ちょっと変わってるけど」
「私の親友」
◇
帰り道。
雛の足が止まる。
超人的な聴力は、その言葉をしっかり拾っていた。
「親友……か」
少しだけ嬉しそうに呟く。
いつもより軽い足取りで家へ向かった。




