第26話 訪問者
組事務所。
「だから納得いかねぇんですよ!」
スカウトマンが机を叩いた。
向かいのソファには幹部が座っている。
煙草を咥えたまま面倒そうに話を聞いていた。
「スカウトしてやったんですよ?」
「将来有望なモデルにですよ?」
「なのにいきなり倒されるとかあります!?」
幹部は煙を吐いた。
「何言った?」
「は?」
「倒される前だ」
スカウトマンは少し考える。
「あー……」
「友達よりお前の方が価値あるって言いました」
幹部は即答した。
「自業自得だろ」
「えぇ!?」
スカウトマンが叫ぶ。
「だって事実じゃないですか!」
「お前、そういう所だぞ」
幹部は呆れたように煙を吐く。
だがスカウトマンは納得していない。
「でもメンツがあるんですよ!」
「このままじゃ終われません!」
幹部は肩を竦めた。
「好きにしろ」
「押忍!」
スカウトマンは勢いよく立ち上がった。
◇
事務所を出た後も、スカウトマンの愚痴は止まらなかった。
「納得いかねぇ……」
煙草を咥える。
「俺はチャンスをやっただけだぞ?」
「普通なら喜ぶだろ」
「モデルになれるんだぞ?」
歩きながらぶつぶつと独り言を続ける。
「しかもあの顔だ」
「絶対売れる」
「下手すりゃ海外まで行ける」
「俺の目は間違ってねぇ」
本気だった。
だから余計に腹が立つ。
「友達がどうとか知らねぇよ……」
「将来の方が大事だろ」
煙を吐く。
少し考える。
「いや」
「やっぱメンツだ」
「親に文句言わねぇと気が済まねぇ」
自分でそう結論付けると、スカウトマンは頷いた。
◇
その日の夕方。
スカウトマンは情報網を使っていた。
名前。
学校。
住所。
その程度なら簡単に出てくる。
「哀沢雛」
「華薗学園一年」
「ここか」
住所を見ながら頷く。
「親から慰謝料でも取ってやる」
金額の問題ではない。
メンツの問題だった。
◇
住宅街。
立派な一軒家だった。
「へぇ」
少し驚く。
金はありそうだった。
スカウトマンは玄関へ向かう。
そしてチャイムを押した。
ピンポーン。
少し待つ。
足音。
玄関のドアが開く。
「はい」
銀髪の女性が立っていた。
◇
翌日。
組事務所。
幹部は煙草を吸いながら書類を眺めていた。
その時。
スカウトマンの姿を見つける。
「おう」
声を掛けた。
スカウトマンは笑顔で振り返る。
「あ、兄貴!」
「お疲れ様です!」
幹部は首を傾げた。
「お前、あれからどうなった?」
「あれから?」
スカウトマンも首を傾げる。
「いやー」
「なかなかドル箱になるモデルは見つからないですねー」
幹部の眉が動いた。
「いや」
「メンツがどうのって言ってなかったか?」
「メンツ?」
スカウトマンは考える。
数秒後。
ぱっと顔を上げた。
「ああ!」
「俺のメンツにかけてスターモデルを発掘してみせますよ!」
自信満々だった。
幹部はしばらくその顔を見つめる。
だが結局何も言わなかった。
スカウトマンは上機嫌のまま去っていく。
その背中を見送りながら、幹部は煙草の煙を吐いた。
「……ま、いいんだけどな」




