第24話 友達
翌日。
雛が教室へ入った瞬間だった。
「哀沢さん!」
「ねぇねぇ!」
「昨日の人ってお母さん!?」
一気に女子生徒達が集まってくる。
雛は固まった。
囲まれている。
何故だろう。
昨日まではこんなこと無かった。
「えっと……」
「お母さんなの?」
女子の一人が聞く。
「お手伝いさん兼、保護者かな?」
「へぇー!」
「そうなんだ!」
さらに人が増える。
「めちゃくちゃ綺麗な人だよねー!」
他の女子が目を輝かせた。
雛は少し考える。
「そうかな?」
少しだけ得意気だった。
女子達が笑う。
「絶対好きじゃん!」
「好きなんだ!」
「当たり前だよ?」
雛は即答した。
紫亜は家族だ。
好きに決まっている。
その反応が面白かったのか、女子達はさらに盛り上がった。
一方で男子達は遠巻きに様子を見ている。
先日の体力測定。
ボクシング部体験入部。
そして楸との関係。
色々な噂が広まっていた。
普通の男子は近寄ってこない。
近付いてきたのは好奇心の強い者と、一部の文化部系男子だけだった。
「なあ」
男子の一人が声を掛ける。
「彼氏とかいるの?」
雛の表情が止まった。
「……本人に聞いてみたら?」
静かな声だった。
美玲は即座に察する。
それは駄目な質問だ。
「はい解散!」
男子の耳を掴む。
「いててて!」
そのまま教室の端まで引きずっていく。
「何だよ!?」
男子が抗議する。
美玲は小声で言った。
「あんた、死にたいの?」
「え?」
「雛と仲良くなりたいと思ってるなら、地雷踏まないことだよ」
「そんなの分かんないし……」
男子は本気で困っていた。
その間にも女子達の質問は続く。
「哀沢さんちってお金持ちなんだねー!」
「うんうん!」
「あんな高級車見たことないよ!」
雛は曖昧に頷いた。
「そうなのかな」
正直よく分からない。
昔からそういう生活だった。
比較対象が無い。
だが気付けば話題は全部紫亜だった。
車。
家。
お金。
見た目。
そんな話ばかり。
雛は少しずつ興味を失っていく。
その変化を美玲は見逃さなかった。
「ごめん!」
美玲が女子達の輪へ割り込む。
「ちょっと借りるね!」
雛の手を掴んだ。
「え?」
「いいから!」
そのまま教室を飛び出していく。
◇
屋上は静かだった。
風が心地良い。
雛はフェンスにもたれた。
「友達作るって、難しい……」
ぽつりと呟く。
美玲は隣に立った。
「何よ」
「私だけじゃ不満?」
雛は首を横に振る。
「そうじゃないけど……」
少し考える。
「もっと普通に話したい」
美玲は小さく笑った。
「贅沢な悩みだね」
その時。
屋上の扉が開いた。
「お」
二人が振り返る。
楸だった。
「何してるんですか?」
雛が聞く。
「昼寝場所探してた」
楸は平然と答える。
そして二人の顔を見る。
「何かあったか?」
美玲が事情を説明した。
楸は最後まで聞き、苦笑する。
「なるほどな」
そして雛を見る。
「俺も友達でいいんだよな?」
雛は露骨に嫌そうな顔をした。
「えー?」
「おい」
楸が笑う。
「殺しかけといて、それはねぇだろ」
雛も少しだけ笑った。
「冗談ですよ」
「ならいい」
楸はフェンスにもたれ掛かる。
三人で空を見上げた。
しばらく誰も喋らない。
それでも居心地は悪くなかった。
雛はふと思う。
美玲。
楸。
気付けば友達が二人いた。




