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第21話 波乱


「これも普通じゃないの?」


 雛の一言で、体育館のざわめきはさらに大きくなった。


 だが当の本人だけが状況を理解していない。


「次いくぞー」


 先生の声が響く。


 反復横跳びだった。


「これ何するんですか?」


「線を跨いで左右に動く」


「なるほど」


 雛は頷いた。


 開始の合図と同時に動き出す。


 終了。


 記録を確認した生徒が固まった。


「九十八……」


「は?」


「またかよ」


 体育館がざわつく。


 美玲は遠い目をした。


「もう好きにして……」


「?」


 雛には意味が分からなかった。


 続いて上体起こし。


 開始の合図。


 終了の合図。


 結果。


「六十二回」


 誰も声を上げない。


 驚き疲れていた。


 先生も淡々と記録を記入していく。


「次」


 長座体前屈。


 雛は言われるまま身体を倒した。


「柔らかいな……」


「そうなんですか?」


「ああ」


 先生は短く答える。


 もう細かいことを気にする段階ではなかった。


 続いてボール投げ。


「遠くへ投げればいいんですか?」


「そうだ」


 雛は頷く。


 そして投げた。


 ボールは高く舞い上がり、そのまま遥か彼方へ飛んでいく。


 全員の視線がボールを追った。


 着地点を確認した先生が額を押さえる。


 誰も何も言わない。


 言葉が出なかった。


 次は五十メートル走。


 スタートラインに立った雛は周囲を見回した。


「走ればいいんですよね?」


「そうだ」


 先生が答える。


 スタート。


 次の瞬間には雛が前へ飛び出していた。


「速っ!?」


 誰かが叫ぶ。


 ゴール。


 記録を確認した先生が二度見した。


 そして三度見した。


 だが結局何も言わない。


 もう驚くことに疲れていた。


 最後はシャトルランだった。


 音に合わせて生徒達が走り出す。


 最初は余裕。


 だが徐々に人数が減っていく。


「む、無理……」


「死ぬ……」


「もう走れない……」


 一人。


 また一人。


 脱落していく。


 美玲も途中で力尽きた。


 床へ座り込みながら雛を見る。


 まだ走っている。


 呼吸も乱れていない。


 表情も変わらない。


 そして。


「まだですか?」


 先生は笛を持ったまま固まった。


 限界を迎えたのは生徒達ではない。


 記録係だった。


「もういい!」


「え?」


「もういいから!」


 雛は首を傾げながら止まった。


 こうして体力測定は終了した。


 集計結果が張り出される。


 クラス全員が結果表を見上げた。


 そして沈黙する。


 当然だった。


 全種目一位。


 しかも圧倒的。


 誰一人として勝負になっていない。


「哀沢!」


 体育教師が叫んだ。


 雛は振り返る。


「はい?」


 体育教師は結果表を握り締めていた。


「先生とオリンピック目指さないか!?」


 体育館が静まり返る。


 雛は首を傾げた。


「オリンピック?」


 美玲は頭を抱えた。


「先生まで何言ってるんですか……」


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