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第15話 おもてなし


 玄関での挨拶を終え、美玲は雛の家へ上がった。


「お邪魔します」


「どうぞ」


 紫亜は柔らかく微笑む。


 その仕草一つ取っても上品だった。


 美玲は少し緊張する。


 何というか、雰囲気が普通じゃない。


 リビングへ入った瞬間、美玲は固まった。


 テーブルの上にはケーキ、焼き菓子、果物、紅茶が並んでいる。


 どう見ても来客用の準備だった。


「え?」


 思わず声が漏れる。


 雛も足を止めた。


「紫亜さん」


「はい」


「あんまり大袈裟にしないでって言ったよね?」


 紫亜は不思議そうに首を傾げる。


「控えめにしたつもりですが」


 雛は頭を抱えた。


 やっぱり不安は当たっていた。


 その時、美玲はふと気付く。


 紫亜は背が高い。


 雛も女子としてはかなり高い方だ。


 だが紫亜はさらに高かった。


 二人が並ぶと、その差がよく分かる。


 そこで以前の会話を思い出した。


『家では一番小さいです』


 あの時は冗談だと思った。


 だが違ったらしい。


(あ、本当に小さい方なんだ……)


 妙なところで納得した。


「どうぞ」


 紫亜に促され、美玲は席へ座る。


 雛も隣に腰を下ろした。


 目の前には大きなケーキ。


 友達の家へ遊びに来ただけとは思えない。


「いただきます」


 恐る恐る口へ運ぶ。


 美味しかった。


 かなり美味しい。


「すご……」


「ありがとうございます」


 紫亜は嬉しそうだった。


 雛は慣れた様子で食べている。


 しばらく雑談した後、美玲は気になっていたことを聞いた。


「紫亜さんって何のお仕事してるんですか?」


「資産家です」


 即答だった。


「資産家?」


「はい」


 美玲は曖昧に頷く。


 よく分からないが、お金持ちなのだろう。


「そういえば」


 今度は雛を見る。


「雛のお父さんってどんな人なの?」


「強い」


 即答だった。


「他には?」


「優しい」


「うん」


「厳しい」


 美玲は黙った。


 人物像が全く見えてこない。


 助けを求めるように紫亜を見る。


 紫亜は苦笑した。


「お父様は世界中を飛び回っておられます」


「へぇ」


 何の仕事なのだろう。


 想像がつかない。


「おじさんも?」


「はい。お父様と一緒にお仕事をされています」


 ますます分からなくなった。


「そういえば」


 美玲はふと思い出す。


「お母さんは?」


 雛は普通に答えた。


「私が三歳の時に亡くなったみたい」


 美玲が固まる。


「え……」


「だからあんまり覚えてない」


 悲しそうな様子は無い。


 ただ事実を話しているだけだった。


 美玲は何と言えばいいのか分からなくなる。


 だが紫亜は穏やかに言った。


「お母様はとても優しい方でしたよ。雛様のことをとても大切にされていました」


 その言葉に雛は小さく頷く。


「そう聞いてる」


 どこか当たり前のような返事だった。


 話を聞けば聞くほど、雛のことが分かるような、分からなくなるような、不思議な感覚になる。


 強くて。


 頭が良くて。


 変わっていて。


 でも友達が家へ来るだけで嬉しそうにする。


 そういう普通の部分もある。


 やがて夕食の時間になった。


 テーブルへ料理が並ぶ。


 肉料理。


 魚料理。


 サラダ。


 スープ。


 副菜。


 どれも店で出てきてもおかしくない完成度だった。


 美玲は思わず雛を見る。


「いつもこんな感じなの?」


「普通だと思う」


 普通じゃなかった。


 少なくとも美玲の知る普通ではない。


 夕食が終わる。


 だが終わらなかった。


 続いて運ばれてきたのは豪華なデザートだった。


 美玲は途中から考えることをやめていた。


 帰る時間になる。


「これ、お土産です」


 紫亜は紙袋を差し出した。


 中を見る。


 焼き菓子。


 ケーキ。


 どう見ても一人分ではない。


「え、でも」


「どうぞ」


 笑顔だった。


 断れる空気ではない。


「ありがとうございます……」


 家までの帰り道。


 美玲は紙袋を抱えて歩いていた。


 友達の家へ遊びに行った。


 ただそれだけだった。


 そのはずだった。


 だが思い出す。


 資産家の保護者。


 世界中を飛び回る父親。


 一緒に仕事をするおじさん。


 異常に強い雛。


 豪華すぎる夕食。


 豪華すぎるデザート。


 豪華すぎる手土産。


 そして全員それを普通だと思っている。


 美玲は夜空を見上げた。


(結局、何も分からなかった……)


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