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第14話 初めての来客


 ジムを出た帰り道。


 楸と別れた後、雛と美玲は並んで歩いていた。


「それにしても」


 美玲が呆れたように言う。


「雛って本当に何なの?」


「高校生」


「そこじゃない」


 即座に否定された。


 雛は首を傾げる。


 よく分からない。


 普通に高校生だと思うのだが。


「家で何してたらああなるの?」


「色々」


「絶対その説明で済む内容じゃないよね?」


 雛は少し考える。


 確かに説明は難しい。


 そもそも何を説明すればいいのかも分からない。


「気になるなら遊びに来る?」


 何気なく言った。


 美玲が足を止める。


「いいの?」


「うん」


 雛は頷いた。


 そして少しだけ嬉しそうに続ける。


「友達来たことないし」


 美玲は思わず笑った。


「じゃあ行く」


「明日の放課後?」


「うん」


 約束はすぐ決まった。


 雛は少しだけ機嫌が良かった。



 帰宅すると、紫亜が夕食の準備をしていた。


「お帰りなさいませ」


「ただいま」


 雛は鞄を置く。


 そして思い出したように紫亜を見る。


「紫亜さん」


「はい」


「明日の放課後、友達が家に遊びに来るんだけど」


 紫亜が止まった。


 数秒。


 完全に停止した。


 そして。


「雛様がお友達を連れてくるなんて……」


 感極まった声だった。


 雛は少し嫌な予感がした。


「ケーキを焼きましょう!」


 やっぱり。


「紫亜さん」


「はい」


「あんまり大袈裟にしないでね」


 紫亜は真顔で頷く。


「承知しております」


 雛は若干不安になった。


 全然承知している顔ではなかった。



 その日の夜。


 美玲は自室のベッドへ寝転がりながら天井を見ていた。


 明日は雛の家へ遊びに行く。


 それだけなのに妙に楽しみだった。


 友達の家へ行くこと自体は珍しくない。


 だが雛は普通じゃない。


 学校へ通ったことがない。


 勉強は異常にできる。


 格闘技はもっと異常だ。


 しかも本人は全部普通だと思っている。


 そんな人間を育てた家族。


 気にならない訳がなかった。


(お父さん、どんな人なんだろ)


 格闘家だろうか。


 それとも軍人とか。


 少なくとも普通の会社員ではない気がする。


 雛の話を聞く限り、かなり強そうだ。


(お母さんも気になるなぁ)


 厳しい人かもしれない。


 案外、雛みたいに無表情だったりするのだろうか。


 あるいは逆に、すごく優しい人かもしれない。


 考え始めると止まらない。


(そういえば家族構成も聞いてないじゃん……)


 今さら気付いた。


 父親の話は聞いた。


 おじさんの話も聞いた。


 だが母親の話は聞いた記憶がない。


 そもそも何人で暮らしているのかも知らない。


 謎だらけだった。


 美玲は枕を抱き締める。


(明日、色々聞いてみよう)


 そう決めると少し楽しくなった。



 翌日。


 放課後。


 雛と美玲は並んで歩いていた。


 一方の雛は機嫌が良かった。


 人生初の友達が家へ来る。


 それだけで少し嬉しい。



「ここ」


 雛が立ち止まる。


 美玲は目を瞬いた。


「思ったより普通だね」


「普通だよ?」


 雛は当然のように答える。


 美玲は何となく納得できなかった。



 玄関のチャイムを鳴らす。


 すぐに扉が開いた。


「お帰りなさいませ」


 現れた人物を見て、美玲は固まった。


 綺麗な女性だった。


 銀髪のショートボブ。


 柔らかな笑み。


 だがどこか上品で、普通のお手伝いさんには見えない。


「いらっしゃいませ」


 美玲は一拍遅れて頭を下げる。


「ど、どうも」


 そして雛を見る。


「この人は?」


「紫亜さん」


 雛は答えた。


「お手伝いさん兼、保護者かな」


 美玲は黙った。


 頭の中で整理する。


 お手伝いさん。


 保護者。


 銀髪。


 上品。


 若い。


 全部並べても意味が分からない。


 昨日の予想が全部吹き飛んだ。


(余計分かんなくなってきた……)


 美玲は心の中で呟いた。

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