第13話 感想戦
楸が目を覚ました後も、ジムの空気はどこか落ち着かなかった。
プロの選手がスパーリングで倒された。
しかも相手は高校一年生の女子。
ざわつかない方がおかしい。
当の本人だけは平然としていた。
「本当に大丈夫ですか?」
雛が心配そうに聞く。
「大丈夫だ」
楸は苦笑した。
「気絶しただけだしな」
「良かった」
本気で安心した顔だった。
だから余計に怖い。
周囲の会員達も同じことを思っていた。
◇
しばらくして、三人は休憩スペースへ移動した。
スポーツドリンクを飲みながら楸は雛を見る。
「なあ」
「はい」
だが先に口を開いたのは雛だった。
「あんな闘い方されたの初めてでした」
素直な感想だった。
速さでは勝っている。
力も勝っている。
それなのに思うように攻撃できなかった。
今まで経験したことのない相手だった。
「上手いですね」
楸は思わず笑う。
「うっかり殺されるんじゃねえかとヒヤヒヤしたわ」
「え……」
雛が固まる。
そんなつもりは無かった。
かなり手加減したつもりだった。
その反応を見て楸は肩を竦める。
「お前の技、格闘技じゃねえよな」
雛は首を傾げた。
「古流の暗殺術とかか?」
「えっと……」
少し考える。
どう説明したものか。
「お父さん流です」
「は?」
楸が真顔になった。
「いや、正しくはお父さんとおじさん流かな?」
「余計わかんねえんだけど」
美玲も頷く。
全くわからない。
「ちゃんと教わった訳じゃないんで」
楸は黙った。
数秒考える。
考えるだけ無駄だと悟った。
「まあいいや」
雛は少し安心した。
説明が難しかったので助かる。
◇
「それより」
楸は話題を変える。
「お前、プロになってみる気ないか?」
美玲が目を丸くした。
雛は少し考える。
「うーん……」
数秒悩んだ末、首を横へ振った。
「たまにスパーリングするくらいなら」
「いや」
楸は思わず突っ込む。
「プロでも十分やれると思うんだが」
実際そう思っている。
競技経験は少ない。
総合格闘技の技術もまだ荒い。
だが身体能力と技術の質が異常だった。
磨けばとんでもない選手になる。
それは間違いない。
だが雛は困った顔をした。
「手加減難しいんで……」
楸の背筋を寒気が走る。
思い出す。
胸へ触れた拳。
あの瞬間。
何をされたのか今でも分からない。
だが危なかったことだけは分かる。
「……」
楸は黙った。
美玲は黙れなかった。
「そういう問題なの!?」
思わず立ち上がる。
周囲の会員達も深く頷いた。
誰もが同じ気持ちだった。
雛だけが首を傾げている。
何故そんなに驚かれているのか。
本気で分からなかった。




