第101話 忘却
華薗学園。
昼休み。
いつもの屋上では、美玲、楸、淳子、仁、姫奈の五人が、それぞれ弁当を広げていた。
楸が美玲の弁当を覗き込む。
「神崎、今日のおかずはなんだ?」
美玲は弁当箱を見ながら答えた。
「卵焼きにウインナー、サラダと焼売です」
楸は自分の弁当を見比べて笑う。
「俺のと変わらねぇなー」
淳子が呆れたように楸を見る。
「楸君、後輩のお弁当のおかず狙うんじゃないわよ!」
姫奈は自分の弁当箱を差し出した。
「楸先輩、私のローストビーフと交換いたしましょうか?」
仁は笑いながら姫奈を見る。
「憧れの先輩とおかず交換のチャンスだな」
賑やかなやり取りを眺めながら、淳子が満足そうに頷く。
「うちの部は、みんな仲良くて安心だわ。夏にある散打発表会も期待できそうね!」
楸は力強く拳を握った。
「任せとけよ部長。今年は悲願の全国まで連れてってやるよ!」
姫奈も自信満々に胸を張る。
「この五人なら怖いものなしですわ」
仁は美玲へ視線を向けた。
「神崎先輩の気を感じ取る力もすごいですしね」
美玲は照れくさそうに笑う。
「微力ながら頑張るよ!」
散打発表会に向けて、気合いを入れる五人だった。
◇
そして季節は巡り、楸優作、季和実淳子の卒業式。
式を終えた二人の前へ、美玲が駆け寄る。
「楸先輩、部長、卒業おめでとうございます!」
楸は照れくさそうに頭を掻いた。
「ありがとう! 高山が寂しがるから、ジムの方にも顔出してくれよな」
美玲は笑顔で頷く。
「もちろんです!」
淳子は三人を見渡した。
「後は頼んだわよ! 新部長」
姫奈は真っ直ぐ美玲を見つめる。
「私と仁で、神崎部長を盛り立ててまいりますわ!」
仁も力強く頷いた。
「今年も全国優勝して、2連覇してみせますよ」
美玲も拳を握る。
「新入部員も獲得しないとね!」
◇
翌日。
昼休み。
屋上に集まったのは、美玲、姫奈、仁の三人だった。
楸と淳子の姿がなくなった屋上は、少しだけ広く感じられる。
仁がぽつりと呟く。
「先輩二人が卒業すると、やっぱり寂しいですね」
美玲も苦笑した。
「そうだねー」
姫奈は気持ちを切り替えるように言う。
「今から新入部員獲得作戦を練らないといけませんわ!」
仁が思い付いたように美玲を見る。
「今年はデモンストレーションで、部長との推手を体験してもらうのはどうですか?」
姫奈は嬉しそうに頷く。
「いいアイデアですわ! 新入生みんなびっくりしますわよ」
美玲は首を傾げた。
「そうかなー?」
仁は笑った。
「推手部門優勝者なんですから、自信持ってくださいよ!」
美玲は照れ笑いを浮かべる。
「えへへっ」
少し間を置いて、仁が空を見上げた。
「まあ、最近は世の中平和ムードですから、武術に興味を持つ人も少ないかもしれませんけど……」
美玲も頷く。
「そうだねー」
姫奈が思い出したように口を開く。
「昨年から今年にかけて、戦争が四つほど終わってますものね」
仁も静かに続けた。
「他国に対して横暴な振る舞いだった大国の大統領が暗殺されてから、世界の足並みが揃ってきた感がありますしね」
◇
そして、更に季節は巡る。
美玲の卒業の季節がやってきた。
◇
美玲の卒業式。
「部長、卒業おめでとうございます!」
姫奈、仁を始めとした、大陸武術研究部の部員数十名が揃ってお祝いの言葉を告げる。
美玲は照れ笑いを浮かべた。
「みんなありがとう!」
姫奈が誇らしげに言う。
「全国大会2連覇の功績も、部長のおかげですわ!」
仁も大きく頷いた。
「あとは俺達に任せてください」
美玲は優しく微笑み、仁へ手を差し出す。
「仁君と姫奈ちゃんなら安心ね。頼んだわよ新部長!」
仁は力強くその手を握り返した。
「はい!」
姫奈は笑顔で尋ねる。
「部長は華薗学園の大学部に進学ですわよね?」
美玲は頷いた。
「うん、元々うちに大学部はなかったんだけど、今年から新設されて、エスカレーター式だって聞いたから、受験面倒だし、そのまま上がることにしたんだー」
仁が補足する。
「進学校だけど、他所の大学に人材が流れるのはもったいないって事で、理事長の鶴の一声で設立されたそうですね」
美玲は思い出して笑う。
「楸先輩が、もう1年早く創設されてれば!って、悔しそうに言ってたわ」
姫奈も苦笑する。
「楸先輩は体育大学に行きましたものね」
美玲は二人を見渡した。
「よかったら、二人も来年から大学部においでよ!」
仁は笑顔で頷く。
「それも楽しそうですね」
姫奈も嬉しそうに微笑んだ。
「また三人で暴れるのも、いいかもしれませんわね!」
◇
部員達に見送られ、美玲は校門を潜る。
振り返り、舞い落ちる桜の花びらを見ながら感慨にふける。
こうして、神崎美玲の高校生活は、終わりを告げるのだった。




