第102話 ハジメマシテ
最終回です。
華薗学園大学部。
入学式当日。
高等部からそのまま進学した者が多く、美玲にとって周囲の顔ぶれはほとんど見覚えのあるものだった。
「神崎さん、久しぶりー!」
振り返ると、ピンク色の髪を揺らした松本が笑顔で手を振っていた。
「松本さんも大学部選んだんだ!?」
松本は嬉しそうに頷く。
「先輩達の居る芸術大学に行くつもりだったんだけど、新設で一からメンバー集めるのもいいかなって!」
「それも面白そうね!」
「でしょ! 神崎さんは大陸武術研究部だっけ? また創部するの?」
少し考える美玲。
「そうだねー……それもいいんだけど、高等部にある文献を持ってくる訳にいかないから、ちょっと悩んでる」
「なるほどー。もし軽音部に興味湧いたら、いつでも声をかけてね!」
新設された大学部には先輩がいない。
そのため、高等部で毎年のように繰り広げられていた壮絶な勧誘合戦もなく、美玲は入学式が始まるまでの間、キャンパスをぶらぶらしていた。
新しい校舎。
新しい校庭にグラウンド。
先輩達との交流がないのは少し寂しいなと思いつつも、高等部の頃とは違う友人ができそうな予感に、美玲は胸を踊らせていた。
◇
そうして、入学式は厳かに始まる。
各界の著名人が壇上に登り、次々に挨拶の言葉を述べてゆく。
美玲の隣に座った松本が、小声で囁いた。
「なんか、すごい有名人ばかりよねー」
美玲も小さく頷く。
「理事長の人脈かな?」
「今年から理事長変わったらしいよ」
「そうなんだ?」
「華薗学園のオーナー? が変わったらしくて、その人が理事長も務める事になったんだってー」
「学園を買い取っちゃったの!?」
「なんとかかんとかグループの総帥だとか?」
「全然わかんないわよ!?」
松本は肩をすくめる。
「まあ、そのおかげか、高等部も含めて、かなり自由な校風になったらしいよ?」
「その情報、ほとんど疑問形じゃない!」
「まあまあ、ニュースにもなってたから、デマではないはず」
やがて著名人や講師の挨拶が終わり、学園長が壇上へ上がる。
「本来ならここで、入学生総代による挨拶をしてもらう予定だったのですが、遅刻しているとの事なので、割愛します」
松本が思わず吹き出した。
「総代なのに初日から遅刻とか、すごいねー!」
美玲は首を傾げる。
「なんだろう……なんか既視感」
「神崎さん?」
「ううん、気のせい」
◇
入学式が終わり、講堂から次々と学生達が出てくる。
少し遅れて、美玲と松本も講堂を後にした。
「じゃあ、またねー! 神崎さん」
「うん、またね!」
松本と別れ、美玲は校門へ向かって歩き出す。
その時だった。
前方から一人の人影が走ってくる。
大学の入学式に出るようには見えない、黒地に金のラインが入ったジャージ姿。
黒髪ロングの姫カット。
鋭い目つきをした女子は、美玲の前で足を止めた。
「あの、入学式終わった?」
「う、うん、さっき終わったとこだけど……」
「あー……またやっちゃった」
「あなたも新入生?」
「うん」
美玲は笑顔で右手を差し出す。
「私もそう。神崎美玲。よろしくね」
女子はそっとその手を握った。
その瞬間だった。
美玲の瞳から、涙が溢れ出る。
「は、ハジメマシテ」
「なんで片言なのよ、雛……」
雛は目を見開く。
「しばらく海外に居たから……私が分かるの?」
美玲は涙を流したまま笑った。
「大陸武術研究部元部長を舐めないでよ。どうやって記憶を消したのか知らないけど、気の質で思い出せたわ!」
雛は少し俯く。
「ごめん……」
「違うでしょ!」
「え?」
美玲は涙を拭い、笑顔を向ける。
「おかえり雛!」
雛も微笑んだ。
「……ただいま!」
再会の喜びに抱き合う二人であった。
今回で最終回となります。
お付き合いくださり、ありがとうございました
m(_ _)m




