第七話:聞き込み
鴨野と寺井が殺人事件に巻き込まれた次の日、二人は事件の被害者である崇という人物を知るために、百ヶ浜にて聞き込みをしていた。
ただし、変に疑われないように芸人らしくフランクに話しかけていたとか。寺井に至っては、ボケ役としての言葉のボキャブラが役立っていたのか、ある程度は情報を聞き出すことに成功していたとか。
その情報によれば、崇こと赤松崇はこの町にある赤松病院の一人息子であることや、それ故に可愛がられたこと。更には、父親はこの町の町長と仲が良いために有力者として扱われている──などなどの情報を手に入れることが出来たのだが
「君達、ここで何をしているんだ?」
案の定、それらの行為が百ヶ浜のお巡りさんにバレたようで、二人はヤバいと言わんばかりに冷や汗を流していた。
マズイ、これは非常にマズイ。
ただでさえ町が物騒な空気になっているのにも関わらず、その殺人事件にお笑い芸人が首を突っ込んでいるという状況に対し、怒られることを覚悟しつつその場に固まる鴨野と寺井。その二人は小声で土下座をしようと話し合った後、警察官に向けてこう言った。
「あ、いやその、ネタ集め....的な?」
「ネタ集めで殺人事件の被害者のことを聞く奴が居るか?」
「「せやな」」
警察官の言葉に対し、ぐぅの音も出ないとばかりとばかりにそう声を漏らす二人。その言葉を聞いた警察官はやっぱりかという顔になっており、余計なことに首を突っ込むなとも取れる顔付きにもなっていた。
それを見た鴨野はそりゃ怒られるわなという顔になっていた反面、寺井は不服そうな顔になっていた。そんな相方に対し、鴨野は落ち着けとばかりに肘で突いていたため、寺井はムッとしつつも文句を言うことはなかった。
ちょうどその時、その場に例の警察官の後輩らしき若い警察官が通りかかったかと思えば、先輩である彼に向けてこう言った。
「先輩、どうかしたんですか?」
「あぁ、ちょっと色々あってな」
後輩に向け、先輩としてそう言う警察官を見たからか、ポツリと鬼の目にも涙とボヤく寺井に対し、昨日と同じようにコンプラアタックをかます鴨野。なお、それを見た警察官達はポカーンとしてしていたのは言うまでもない。
そして、ワチャワチャしている二人を見た若い警察官は、鴨野と寺井が『百ヶ浜マリンフェスティバル』に登場するであろうお笑い芸人──もとい、『だんてらいおん』だと気がついたようで、その顔は何故かパァッと明るくなっていた。
「え!?もしかして──『だんてらいおん』の鴨野さんと寺井さん、ですが?」
震え気味な声でそう言う若い警察官に対し、二人はおや?と思いつつ顔を見合わせた後、彼に向けてニヤッと笑うと、寺井はそうだとばかりにピースサインを送っていた。鴨野は鴨野でフッと微笑んでいたため、若い警察官の興奮度合いが高まっていたのは言うまでもない。
しかし、そんなことなど知らない先輩の方の警察官は、彼に対して知っているのか?とばかりの顔になっていた。
「おい碧、この二人のことを知っているのか?」
「知っているも何も......この人達はお笑い芸人の『だんてらいおん』ですよ!!」
「....は?」
「しかも、真波ちゃんが大好きな芸人さんです!!」
翠と呼ばれた警察官がそう言った瞬間、その言葉を聞いた先輩の方の警察官は大きく目を見開いていた。ただし、その反応は信じられないと言うよりかは、本当に来ていたのか?とばかりの様子だったため、それを見た鴨野は何か引っ掛かるような感覚になっていた。
ちなみに、寺井はその鴨野の隣で嬉しそうに胸を張っていたとか。
「あっ!!アンタも俺らのことを知っとるんか!!」
「はい!!実は俺も『だんてらいおん』の方が好きなんですよ!!」
満更でもない様子でそう言う寺井に対し、照れながらも興奮した様子で答える若い警察官。それを見た鴨野もまた自分達のファンを見つけて嬉しかったのか、微笑ましそうな顔つきになった後、そのままこう言った。
「良かったな、寺井」
そう言いつつ、鴨野は先輩の方の警察官の方を向くと──何故かはよく分からないものの、どこか複雑そうな顔になっていたため、ますますその反応に引っ掛かりを覚えていた。それは寺井も同じだったのか、彼のことを観察するかのようにジッと見つめていた。
そして、その若い警察官に対し、見回りに行ってくると言った後にその場を離れたのだが、その後ろ姿を見た鴨野と寺井は、彼が赤松崇に関することを知っているのではないか?と思い始めていた。
そんな中、若い警察官は自身のことを河本碧と名乗ると、二人に向けてこう言った。
「こう言うのはアレなんですけど....二人とも、殺人事件に巻き込まれるなんて災難でしたね」
「全く、そーゆーのはフィクションだけにして欲しいわ!!」
「お前は何様やねん」
先輩の方の警察官が去った後、そう会話をする三人。聞き込みをしていた鴨野と寺井のことを警察官として注意していた彼とは違い、翠は警察官として本気で心配していたようで、その顔には町のことを平和を案ずる警察官としての姿が映っていた。
一通り会話をした上で、碧なら信用できると思った鴨野と寺井は、目の前に居る彼に対して自分達の考えや事実を──赤松崇が死体発見ドッキリを仕掛けようとしていたことを伝えると、それを聞いた碧は驚くような顔になっていた。
「え!?赤松さんが死体発見ドッキリを!?」
「そう!!そうなんよ!!だから、そういうトリックとかがありそうやなって俺らは思ってるんや」
寺井がそう言った瞬間、碧は崇ならやりそうだなと思うのと同時に、何かしらの心当たりがあるような顔になっていた。それを見た鴨野と寺井は、赤松崇に纏わることで何かがあったと察したのか、やっぱり何かしらの裏があるのかという顔になっていた。
そう思っている二人を尻目に、翠はしばらく黙り込んだ後──鴨野と寺井に向けてこう言った。
「まぁ、確かに赤松さんならやりそうですね.......」
「え、それってどういうことや?」
鴨野がそう言うと、碧はここだけの話だと前置きを置いた上で、二人に向けてとある事実をこっそりと伝えた。
「その....実は赤松さん、学生時代に結構ヤンチャしていたみたいなんですよね」
「あ〜、つまりはアレか?バカ息子ってやつかいな?」
「寺井、言い方」
そう言う寺井に対し、そう注意する鴨野。そんな二人を知ってか知らずか、碧は苦笑いしつつも小声で話を続けるようにこう言った。
「えぇ、と言っても....二十年前にこの町で何かをやらかしたって噂を聞きましたけど、あくまで噂なので信憑性はアレなんですけどね」




