第六話:一つ目の真相
宿泊先である『鯨田旅館』での食事を終え、竹林と別れる形で部屋へと戻った今現在の鴨野と寺井は、その部屋のテーブルの上で徐ろにパソコンを開いていた。そのパソコンは、主に鴨野がネタの打ち合わせの際に使用するモノで、いつもはメモ帳代わりに小ネタを打ち込む道具として使っていた。
しかし、今回の場合は違った使い方をしていたようで、そのパソコンの画面には今回の事件の被害者である青年こと、崇の姿があった。
真波によれば、崇自身は動画投稿者をやっていたらしく、二人が出会った時も何かしらの動画を上げると言っていたため、二人はそのことを思い出したがためにその動画を見ようとしていたのである。
「にしても、崇ってやつはどんな動画を上げたんやろうなぁ」
「さぁ?それは見てみんと分からんやろ」
そう軽口を叩き合いつつ、パソコンの画面を操作しつつ動画を確認する鴨野と寺井。そして、二人はそのまま崇の動画が流れ始めていたのは言うまでもない。
喫茶店で崇の言っていた例の動画は、いわゆる何かしらの動画の予告だったのだが──その動画に何かがあると踏んだ二人は、パソコンの画面に映る動画を食い入るように観ていた。
動画投稿者としての崇のアカウントには、百ヶ浜のPR動画で溢れており、彼自身のSNSのアカウントには"地元愛が強い男"と書かれていたためか、それを見た鴨野は
「....自称にしては自我が強めやな」
ということを呆れながら呟いていた。
『はい!!どうもこんにちは!!いつも"タカッシーの百ヶ浜PRチャンネル"を観てくださり、ありがとうございます!!』
「アイツ、結構ノリが良い方やな」
「そうか?俺には変にイキってるように見えるで?」
「で、出た〜!!鴨野のイキってる奴ら判別センサー!!」
「何やその使い場所が限られる能力は」
そんな会話をキャッチボールのように繰り返した後、二人は視線を動画の方に戻したのだが──ちょうどその時、そこに流れていた動画の内容があまりにも衝撃的だったため、鴨野と寺井は思わず目を見開いていた。
その動画はいわゆるドッキリ企画の予告だったものの、崇が仕掛けようとしていたのはただのドッキリではなかった。それは、世間一般的に言うところの死体発見ドッキリの予告であったため、鴨野と寺井はまさに信じられないという顔になっていた。
崇が言っていた"かなり面白くなりそうな動画"とは、死体発見ドッキリという褒められるようなものではなかった。だがしかし──それは言い換えれば、犯人はその動画のことを把握した上でそれを利用のではないか?という疑問が出てきたのか、鴨野は深く考え込むような顔になっていた。
もし仮に、崇が死体発見ドッキリを仕掛けようとしていたのなら、もしかすると彼はまだ生きていたのかもしれない。いや、もしくは──彼は、その後に殺されたのかもしれない。
そう思えば思う程に、頭の中でトリックと言う名のパズルのピースがハマっていったのか、鴨野はやられたと言う顔になっていた。寺井もまたその事実に気がついたものの、逆に犯人が崇を殺した理由が気になったのか、逆に気になるとばかりの顔になっていた。
「あ〜....要はアレか。最初に俺達が観た崇はまだ生きていて、その後に殺されたってことかいな?」
「まぁ、そう考えるしかないわな」
寺井の事実確認とばかりの言葉に対し、椅子に深くもたれかかりながらもそう答える鴨野。その脳裏には、リゾート開発絡みの何かが裏にあるのではないか?と思っていた一方で、それ以上の何かがこの事件の裏にあると感じた鴨野は、お茶を飲みながらこう呟いていた。
「ホンマに....こういうのはフィクションだけにしてほしいわ」
「それな」
小さな港町の町おこしのためのイベントに来たはずなのに、何故か殺人事件に巻き込まれ、その事件の被害者は死体発見ドッキリを仕掛けようとしていた。
これらの事実を踏まえた上で、鴨野はお茶とタコ煎餅を食べつつも悶々と考えていた。ただ、それでも気分は落ち着かなかったようで、そのまま崇のアカウントが写されているパソコンの画面を見つめていた。
寺井は寺井で、この百ヶ浜という町のことを本気で愛している真波のことが気になったのか、ふとこんなことを呟いていた。
「真波ちゃん....大丈夫なんやろか?」
「まぁ、アイツは真波ちゃんにとっての友達だったっぽいからなぁ」
真波のことを本気で案ずる様子でそう声を漏らす寺井に対し、真波と崇が同級生だったことを思い出しながらそう言う鴨野。二人とも彼女の真摯な姿勢を見ていたからか、イベント云々よりも真波のことをかなり心配しており、彼女と出会った際はどう声を掛けたら良いのかと考えていた。
しかし、このまま悶々と考えるのもアレだと思ったのか、寺井は元気を出すかのように頬をパンパンと叩いた後、鴨に向けてこう言った。
「よっしゃ!!とりま明日も町ブラや!!」
「とか何とか言って、どうせ事件のことに首を突っ込むつもりやろ?」
「あ、バレた?」
呆れながらそう言う鴨野に対し、テヘッと笑う寺井。ただ、それは鴨野も思っていたようで──特に相方に対して咎めることはしなかった。
それどころか、寺井と同じことを考えた上で思っていたようで、相方のやろうとしている行為に対し、やれやれという様子になりつつも彼に向けてこう言った。
「竹ちゃんへの言い訳は後で考えるとして....まずは崇の周りを綺麗さっぱり洗い出す方向で行こか」
「そやな」
ツッコミ役としての異変察知能力が働いたのか、そう言いつつも今回の事件について考える鴨野。その顔を見た寺井は、意外と事件解決に対してノリノリな相棒に対し、こういうことに対してはやる気満々だよなと思っていたとか。
そんな中、ふと夕食の時に目に入った男の姿が脳裏に浮かんだのと同時に、その男の正体を思い出したのか、あっ!!という具合に声を上げていた。その声を聞いた鴨野が何だよ!?と言っていたのに対し、寺井は勢いのままに相方の方を向くのと同時にこう言った。
「なぁ!!竹ちゃんに頼んであの天パ男にアポを取るっていうのはどうや!!」
「はぁ!?何でまたあの胡散臭い男にアポを取るんや!?」
ひらめいたとばかりにそう言う寺井と、その言葉に対して呆れた様子を見せる鴨野。しかし、彼はその言葉に裏があると思っていたようで、そう言いつつも素直に話を聞いていた。
「で、その男と今回の事件に何の関係があるんや?」
「....あの天パの男、多分週刊誌側の人間や」
「はぁ!?」
寺井がそう言った瞬間、その言葉を理解するのと同時に声を上げる鴨野。なお、彼の顔に再び信じられないと言う顔になっていたのはまた別の話である。
『だんてらいおん』という芸人として活動している彼らにとって、週刊誌がどれだけ厄介な部類の存在であることはある程度知っていた。知っていたからこそ、鴨野は寺井の提案に対して驚いていたのである。
しかし、それと同時に何故週刊誌の人間が?と思ったようで、寺井の提案にも一理あると思ったのか、彼に向けてその方向性で行こうとばかりの顔になっていた。
「どうする?鴨野」
「どうするも何も....やることは決まってるやろ?」
「やな」
そういうわけで──次の日に事件に関する聞き込みと週刊誌側の男と話をすることが決まった二人なのだった。




