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ボケとツッコミと殺人と  作者: 手毬まどか
サマータイムアラベスク
5/5

第五話:事件の影響

どこにでもある普通の港町こと、百ヶ浜で殺人事件が起こった。


しかも、鴨野と寺井も事件に巻き込まれるというオマケが付属してきたため、当然ながら二人は真波と同じように目撃者として警察から事情聴取されていた。


だがしかし、当然ながら鴨野達は無実な上に巻き込まれたことは明確であったため、結局二人はその数分後に解放されることとなった。その際、寺井がとばっちりやなと声を漏らすのも仕方がないことであった。


小さな港町にて、大きなイベントを前に殺人事件が起こった。


田舎町特有の情報伝達の速さからか、この出来事はあっという間に町中に広まっていったのは言うまでもないが、鴨野はこれを機に更に町民達の分断が起こるような予感がしたのか、あの時と同じようにこの鋭い勘が当たらないように願っていた。


「はぁ....」


良い意味でも悪い意味でも怒涛の一日だったからか、旅館側から提供された美味しい夕食を堪能しつつも、ため息を漏らす鴨野。その脳裏に張り付いていたのは、物置きの中で発見したあの死体の姿であったため、どうしても食欲が進まなかったのである。


寺井はそんな鴨野を気にしつつも、タコしゃぶや刺身に舌鼓を打っていて、食べないのなら食うぞとばかりに相方の刺身を奪おうとしていたため、鴨野はやれやれという様子でそれを阻止するかのように刺身を食べた。


二人のマネージャーの竹林は、もちろんイベントのことも気にしていたのだが──それ以前に死体を見た鴨野達の精神状況を心配していたのか、どうしたもんかという心境になっていた。


「....今日は色んな意味で怒涛の一日やったな」


「むしろ、こんな一日があってたまるかいな」


あの時のことを思い返しながら、重い空気を纏わせながらもコミカルにそう呟く二人。


そしてこの事件のことは忘れようと思ったようで、鴨野と寺井は白米を口の中に放り込んだかと思いきや、そのまま口の中に刺身を入れると、そのままビールで流し込んでいた。


つい数時間前に喫茶店で見た男が、物置きで死体として発見されるなんて、どう考えてもあり得ない状況なのかは何となくだが二人は分かっていた。分かっていたのだが──それでも、彼と親しげだった真波のことを心配していたのか、憂鬱に近い顔になっていたのだった。


「というか、何であの場所に崇ってやつが居たんや?」


鴨野が何気なくそんな言葉を発した後、この町の名物であるタコしゃぶをおろしポン酢に浸して食べると、肉の代わりにしゃぶしゃぶしたタコの味をギュッと噛み締めながら,今回の事件のことを考えていた。


余計な首を突っ込めば、余計なことが起きるのは目に見えている。

しかも、それが殺人事件ならば尚更である。


けれども......売れない芸人ではあるが仮にもツッコミ役としての職業病が発動してしまったようで、今の彼は例え殺人事件であったとしても、些細な変化を察知できるようになっていたため,タコしゃぶを噛み締めながらそんなことを考えていた。


ただし、その様子の相方を見た寺井はキンキンに冷えたビールを一口飲んだ後、鴨野の方を向きながらこう言った。


「それが分かれば、警察も苦労はしないと思うで」


「せやな」


相方である寺井の言葉に対し、それもそうだなとばかりに返事をした後、タコの刺身を食べる鴨野。


何故、崇があの物置の中に居たのか?

何故、崇という人間は殺さなければならなかったのか?

何故、この静かな港町で殺人が起こったのか?


考えれば考える程にそんなことが泡のように溢れ、パチリと弾けていくような感覚になっていた鴨野は、やがて食べている料理の味すら忘れる程にそのことを深く考えていたのだが


「鴨野さん、また考えすぎてますよ」


「え、そうやっけ?」


マネージャーである竹林からそう指摘されたため、鴨野は思わずキョトンとした顔になってきた。

そのやりとりを見た寺井は、そういうとこだぞとばかりに膝で鴨野を突いていた。


だがしかし、竹林も今回起こった事件については予想外だったようで、その顔にはイベントのことや二人の安全を考慮した上での不安げな表情が浮かんでいた。

もし、殺人犯が二人を襲ったら──という万が一のことを考えてしまったのか、彼女の顔色はますます悪くなっていた。


彼女のその顔を見た鴨野と寺井は、マネージャーとして自分達の身の安全のことを考えた上で,そんな顔になるのだと察したのか、お互いにニパッと笑うと竹林に向けてこう言った。


「竹ちゃん、とりまタコしゃぶ食べまくって元が取れるまで部屋に帰れナイトでもするか?」


「何勝手に帰れナイトを始めてるんや。つーか、そもそも帰れナイトは飲食店で元が取れるまでやるやつじゃないやろ」


「大丈夫大丈夫、ここら辺のテレビでは帰れナイトが放送されるっぽいから大丈夫や!!無問題や!!」


「いやどこがやねん!!」


舞台上でのコントのようにそう会話を繰り広げる二人を見た竹林は、最初の方はそのやりとりにポカーンとなっていたのだが、次第に鴨野と寺井の会話が面白くなってきたのか、その顔には柔らかな笑顔が出てきていた。

竹林が何となくリラックスしたのを見た二人は、思わず嬉しそうにガッツポーズをしていて、その姿はまるでやってやったと言わんばかりの様子であったとか。


と、その時....三人の目に入ってきたのは、食堂に入ってくる胡散臭い雰囲気を纏った男で、その男は鴨野と寺井をチラッと見つめたかと思えば、そのまま別の方を向きながら別の席に座っていた。


その男の姿を見た寺井は小さなゴリラやなとボヤいたため、鴨野は誰にも迷惑を掛けない範囲でコンプライアンス対応(プロレス技)を行っていた。


「イ゛デデデデデェ゛!?何やって」


「コォォォンプライアァァァンスゥ!!」


「叫びながらプロレス技をかますのはやめろや!!」


殺人事件が起こったとしても、相変わらずな様子を見せている鴨野と寺井に対し、ホッと一安心する竹林。

ただし、そのことを知らない鴨野と寺井は人目も気にせずワチャワチャしていたとか。


そんなこんなで、食事を終えた鴨野達はそれぞれの部屋に戻り、ゆっくりしていたのだが


「....なぁ寺井、アイツって確か動画を投稿してるって真波ちゃんが言っとったよな?」


「あぁ、そうやったな」


ふと、鴨野が何気なくそんなことを言った瞬間、彼の言葉を聞いた寺井の目は大きく見開いていて.....その様子を見た鴨野もまたハッとした顔になっていた。

そして、そのままスマホ経由で百ヶ浜に関する動画を片っ端から探しまくること数分後、そこにあったのは......


「オイオイ、これって....?」


「マージか.......」


"タカシーノの百ヶ浜日記"という如何にもなタイトルの動画チャンネルと、サムネ画像として崇の姿がデカデカと表示された動画であった。

それを見た瞬間、この動画チャンネルが間違いなく崇のモノだと理解した二人は、これから開くだろうパンドラの箱に対し、お互いの顔を見合わせていた。


だがしかし、芸人として恐怖よりも好奇心の方が優ってしまったようで、二人は早速その動画を再生するのだった。

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