落語もどき
落語もどき
ご来場くださいまして大変ありがとうございます。
笑笑亭ハラッパでございます。
年の瀬も押し迫って参りましたが、この時期話題になりますのが、流行語大賞と今年の漢字でございますな。
いずれも今年の世相を表すものとして最も相応しいと思われるものが選ばれるわけでございますが、既に候補にあるなかから私が個人的に選ぶとするならば、前者は古古古米で後者は米を有力視いたします。
いずれも米が真っ先に思い浮かぶと申しますのは我が家の切ない事情があるからでございます。
と言いますのは、うちの家族構成は嫁と男の子3人の5人家族でございまして、子供たちは育ちざかり食べ盛りの小中学生。
ご飯を食べるや食べるいつもお椀は山盛りで、お櫃もあっという間にすっからかん。
今までなんとかかんとかやりくりしていましたが、今のご時世、お米の値段が跳ね上がり家計は大ピンチになった次第。
そこで政府は対策に乗り出し、安い備蓄米を放出して安くスーパーや一部ドラッグ等で売り出した訳ではございますが、どの店でもいつ入荷するかわからないし常に置いてあるわけでもありません。
私も嫁もそうそう確かめに行っておられません。
そこで子供たちに学校の帰りとか、時間あるときに必ず見に行かせることにいたしました。
普段は親の言うことなどどこ吹く風の勝手気ままな子供たちですが、食い気には勝てず真剣そのもので見て回わります。
そして、ようやく三番目の小学生から、売ってるよって電話があり、その子に並んで待つようにと言いつけて嫁が大急ぎで彼のスーパーに向かいました。
ところが着いてみると、うちの子やお客さん店員が外で遠巻きに店の方を眺めているじゃあありませんか。
何があったか聞いてみると店の中に熊が入り込んだとのこと。
その時嫁が言うには、
「そうか今年は熊という漢字も候補だったわね」
て。
その熊も先日我が家の近くで早朝に誰かが見かけたそうで、注意喚起のチラシが入っていたり、見回りが多くなったり結構な騒ぎとなっております。
全国あちこちで熊に関わる被害が多発しておりまして、場所によっては、襲われてお亡くなりになる方、ケガをされる方も出ており、連日テレビ等メディアが取り上げております。
近くには小学校や子供園もあり、親御さんは心配でならないでしょうな。
空地や庭のところどころに熊の大好きな柿の木があり、丁度今は実が生っている頃でもありますし、民家によっては軒先に干し柿の吊るしてあるところも数件ありまして、山に近いこの地区にいつ出没してもおかしくないでしょうな。
もともと熊が街中に現れるようになった原因は、ドングリが不作になったからだと言われていますが、だったら熊の食料となりそうなものをヘリで山中に大量投下すればいいんじゃないかと思ったりも致します。
要するに救援物資の配布で人助けならぬ、熊助けといったところでしょうか。
いわゆる共存共栄の精神でしょうが、逆に我々人間に頼られると困るという意見もありなかなか難しいとも言えます。
最近我が家の夕食時にそれぞれ5人の生まれ年の干支の話題になりまして、皆うまい具合に違っておりました。
もし熊という干支があったのでしたら、このご時世袋叩きとまではいかなくても、いい印象はもたれないと存じますが幸いリストから外れておりました。
ただ本人が大嫌いなへび年の子がおりまして、その前後の辰か馬の年に産んでほしかったと真剣に言います。
最初その子は嫁に向かって抗議しましたが、それに対して嫁も慌てて、
「それはお父さんの都合があったんだと思うわ」
と私に振りましたので、それを受けて、
「いや、あの時は・・」
とあやうく言いかけましたが、話の内容が子供の前でするようなことではないと思い、辛うじて踏みとどまった次第。
ではそのような質問があった場合の咄嗟の解答はと言いますと、ふっと閃いたのは今これも話題になっているAI検索でしょうか。
AIを日本語に直しますと人工知能なんですが、私が初めてその言葉を耳にしたのは子供の頃でして、SFブームだったように思います。
確か1968年に封切られた『2001年宇宙の旅』という映画の中でHALという名前で登場するのが人工知能コンピューターでございました。
最もその映画の中では人間と対立する恐ろしい存在として描かれておりましたが、まだそのころはスマホや携帯電話はもちろんパソコンも無かった時代でございました。
私自身も穢れの無かった時代でして、30年ほど後の2001年頃には月や火星を越えて木星を目指す宇宙旅行も可能になり、人工知能とも共存できる時代がくるのだろうと、未来を想像しながら鑑賞していたものです。
そしてあれから50年以上の歳月が流れたのですが、今ようやく地球周回の旅行客を億単位の高額で募集している段階でございまして、とても我々貧乏人は行けません。
ましてや月へはまだ当分先になりそうですし、人工知能もAIがようやく普及し始めたばかりで、あの映画の設定よりも25年遅れをとってしまいました。
おまけに穢れの無かった私も今やすっかりカビにまみれてしまったのでございます。
さて、同作品の原作は1950年代に発表されておりましたが、同じ年代に発売された小説が、今後の未来社会の予言のような気がします。
それを説明して参りたいと存じますが、いったい落語はいつ始まるんだいとのお叱りを受けそうなので、いわゆる長すぎたマクラはここまでといたします。
場所は宇宙空間の国際宇宙ステーションでございます。
今まさに地球から打ち上げられたロケットがドッキングして乗組員1名が交代要員としてステーション内部に乗り込もうとしております。
彼の名は銀河八郎、愛称八っちゃんと呼ばれています。
ハッチが開き、内部を覗き込むと懐かしい顔が目と鼻の先にありました。
「やあ、久しぶり熊さん元気そう・・にはみえないな」
真っ先に出迎えたのは同じ日本人の赤星熊太郎でした。
「おう、待っていたよ八ちゃん。ようやく帰れるんでほっとしたよ」
「あれ、地上とのやりとりでは、宇宙ステーションの生活は快適で周囲の景色は素晴らしいし最高の体験をしていると放映されていたよ」
「あれは本心じゃないよ。宇宙にあこがれている人たち、特に子供たちの夢をぶち壊すような言動は慎むように言われているんだ。本当は毎日ヒヤヒヤの連続で、船内にも外部公表していないストレス要因があるんだよ」
「なんだそれ、何か危険なことがあるのかい」
「ああ、窓から外を見ているとわかるよ。この宇宙空間は宇宙ゴミだらけだぞ。いろんなものが飛びまくっていて危なくってしょうがないよ。ぶつかりやしないかってハラハラドキドキさ。今のところ軌道がわかっていて何とかなってるが、それこそ廃品回収を頼みたいよ」
「それらは破壊された宇宙船の残骸なのかい」
「そうさ、ロケット部品だけじゃないんだぜ、時々けったいな物が飛んでくることがあるんだ。バスタブや便器もあったし、なんとマスコット人形も見たことがあるんだぜ」
「そんなもの宇宙空間に漂っているのも変だな。どこかの国の衛星に積まれていたのかな」
「変わった趣味の乗組員がいたんだと思うよ。長期滞在の間風呂やトイレでマスコット人形を見て楽しんでいたのかな。ただ初めて見たときびっくりしたよ。まさか生身の美女が宇宙空間にいるなんて皆おったまげたのなんのって」
「よくその正体がわかったな。近くまで行って確かめたのかい」
「アンドールに任せて確かめに行かせたのさ。ある程度の距離まで近づけばあいつの場合判別できるから」
「あれ、アンドールという乗組員なんていたっけ。僕が聞いてるリストにはなかったんだが」
「ああ、アンドールは前回のロケットで送り込まれた非常事態対応のアンドロイドなのさ。我々人間が出来ないことをやってくれるんだが見かけは普通の人間男性と変わらないよ。もう一体保守用ロボットもいるよ。そちらのほうは実作業に適したズングリの体型で俺が与太郎って名付けてやったよ」
「変な名前だけどでも危険な作業はその二人といってもいいのかな、やってくれるんで助かっているんじゃないの」
「そのとおりなんだが問題があってね。彼らはこの人工衛星が密集した領域に適応する目的で作られた超高性能の人工物で、様々なトラブルに対応出来るようプログラムされているんだ。そして、驚くべきことに彼らは自身で学習し進化する能力をもっているんだ」
「というとなんだい、人間と同様に思考し判断することが出来るのかい」
「そうなんだ。彼らは時間を経るに従って、環境に左右されることなく知識が増すので今では我々人間以上に頭がいいといえるよ」
「するとなにかい、この船では彼らが主導権を握っているというのかい。何かの映画で見たことがあるけど、人工知能が人間を操るのと同じような状況なのかい」
「それは大丈夫。彼らはあくまでも人間に尽くすと条件でのみ行動するようにプログラムされていて、我々の指示には100%従うように出来ているんだ」
「なんだ、それなら一安心。なにも問題ないんじゃないか」
「いや、彼らの進化が妙な方向へ目指してしまってさ。我々乗組員への献身が極端なことになっているんだ」
「それはどういうことなのかな・・」
「おっと、アンドールがやってきたよ。彼と話してみるとわかるさ」
隣室から現れたのは顔も胴や手足も人間と瓜二つといってもよいアンドロイドであった。
年齢的には20台の白人男性でその容姿は正真正銘の美男子といってよかった。
どのように声を掛けようかと戸惑っていると、彼から先に口を開いた。
「あら、あなた八ちゃんね。熊ちゃんから聞いてるわ。ものすごく男前で感激。私アンドールって言うんだけどアンちゃんて呼んでね」
いきなりのお姉言葉で仰天してしまいました。が、とにかく挨拶はしておくべきだと思い、
「わ、私は銀河八郎と言います。このだび赤星君の交替要員として派遣されました。今後ともよろしくお願いします」
「いやあね、堅苦しい挨拶はやめにしましょうよ。これから長いことここで暮らすのよ。リラックス、リラックス」
なるほど、熊さんの言っていた妙な方向とはこのことだろうと納得しました。
それならと思い彼に質問しました。
「アンちゃんのこのステーションでの役割はなんだろう」
「うれしいわ、さっそく聞いてくださって。私のもっとも大事な役割はもちろんクルーの皆様の安全を図ることと、健康を維持すること。だから困ったことがあれば私に言ってね。相談の乗るから」
彼はウィンクして同意を求めるじゃあありませんか。
「あ、ああ、そうさせてもらうよ。これからもよろしくね」
私自身が変な応対になってしまった。
「じゃあ、ドッキングしたロケットの点検してくるわ。またね」
唖然といった表情で見送っていると、熊さんから声が掛かりました。
「どうだい、わかっただろう。俺は以前行ったことあるおかまバーを思い出すよ」
「最初からあんなのだったのかい」
「いや、アンドールが進化していくうちに変貌してしまったのさ。人間に献身せよという命令があのような形で表れてしまったようだ。他のクルーは面白がっているが俺はいやだね」
「僕には日本語で応じていたけど、このステーションにはアメリカ、ロシア、ヨーロッパの人も乗り込んでいるはずだが、それぞれの言語で話せるのかい」
「ああ何語でもOKで、その点たいしたもんだが、どこの国の言葉でも同じような調子で話しているよ」
「このことは宇宙局でも知っているのかい」
「ああ、本部に確認をとったらプログラムにバグがあったそうだ。彼らが交替の時、直すらしい」
「というと、与太郎というロボットもそうなのかい」
「いや、あいつの場合はもっと変わってるよ。というか凄いんだ。あ、来た来た。話してみるとわかるよ」
その方向を見てみると、顔は丸く胴体は四角いずんぐりロボットが現れました。
一応今度は私の方から声を掛けることにしました。
「やあ、今日からこのステーションに来ることになった銀河八郎と言うんだ。宜しくね」
「ワタシ与太郎と呼ばれています。あなた私をずんぐりロボットと思ってますね」
「い、いや、そんなこと思ってもいないよ」
「八郎と呼ばせてもらいますが、私は八郎の考えていることがわかるのです。ほら今変なやつだなあと思いましたよ」
「というと、私の心が読めるの」
「その通りです。クルー全員が知ってますが、私の頭脳ユニットにプログラムデータを入力した際、不可解なバグが混入してしまったそうです。そのため、私の場合は進化のある段階で人の心が読めるようになってしまったのです。ほら今そんなことが起こりえるのか、困ったことにならないかと思ってますね。でも安心ください。私の使命はあくまでもこの宇宙ステーションの安全とクルーの皆様の健康を守ることですから」
「とても信じられないが・・」
「ああ、人に明かせないことや秘密にされていることを第三者に話すことは決してありませんので、安心してください。では私も点検に参ります。これからもよろしく」
これは本当のことなのか自分でも理解できずにいると、熊ちゃんが言った。
「これでわかっただろうよ。俺はこの異様な雰囲気から抜け出したいと思ったのさ。八ちゃんには悪いが地上に戻れて助かったよ」
「でも、彼らは次のメンバーと交代する際に正常な状態に戻されるんだろ。プログラムのバグって言ってたけど原因はわかっているのかな」
「さあ、それは知らないがそのまま放ってはおけないだろうな。オカマになったり、人の心を読んだりできたりしたら」
「なんとなく使い道ありそうじゃん。警察の取り調べなんかに立ち会わせたら一発で嘘か本当かわかるんじゃあ」
「そら名案だな。いやいっそのこと俺にもそのバグ付のプログラムを頭に入力してもらおうかな。そおしたら警察に入って出世するかもしれないだろ」
「いや、もしかしたら、ネオン街のオカマバーで売れっ子になってるかもしれないよ」
「そうかあ、バグはバグでもいいバグと良くないバグがあるんだな。まいったなバグ」
この落語もバグだらけでございました。
今日はここまで。おあとがよろしいようで。




