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病院


 挿絵(By みてみん)


  病院


私は総合病院の入り口から中に入り診察の手続きをするための対応窓口を探そうと周囲を見回した。

さすがに院内は広くて患者や看護師と思われる人が多くみられる。

総合受付窓口の前にある腰掛椅子にはかなりの人々が、正面上部の盤面に自分の番号表示が出るのを見上げている。

ここはどうやら清算場所のようであり最初の手続きの窓口ではなさそうである。

他を探そうと思っていると、男性二人の話し声が聞こえてきた。


「まいったな。来週脳のCT検査をすることになったよ。医者からくも膜下出血の前兆の可能性があるので早めに調べたほうがいいと言われたよ」


「そりゃあ大変ですね。今日は頭痛とか体調が悪くて診療にいらしたんですか?」


「そう頭が痛くてね。昔から片頭痛の持病があって、いつもなら市販の薬を飲むとか、じっとしていれば収まるんだけど今回は酷くてね、診てもらおうって気になったんだ。血圧を測ったら、かなり高くて、仕事柄タバコもよく吸うし暴飲暴食の傾向があったりで要因が重なっているらしい」


「それは注意が必要ですね。お薬はもらえるんでしょうね」


「とりあえず検査まで処方薬を呑むことになったよ。また、結果が分かるまでの応急措置をいろいろ教わったよ。ところで君はなぜ病院に来たんだい?」


「僕の場合は貧血の症状があるんですよ。最近時々めまいがしたり、立ちくらみがあったりで、一度診てもらった方がいいと言われて」


「そういえばあまり顔色がよくないね」


「そうなんです。診察のあと根本原因が何か聞くと、結局栄養をもっと摂りなさいって言われましたよ。もともと食べ物に好き嫌いがあって鉄分とかビタミンが不足しているようです」


「まあ、君はまだ若いんだから日頃の食生活を改善していけば大丈夫だよ」


「アハハハ、医者からも同じことを言われました。先輩を見習って、もう少し食べ物の種類を増やすよう努力しますよ」


あちこちに窓口があるのだが、行きつけの内科医から紹介してもらった場合はどこに行けばいいのか。

案内所を探し尋ねてみることにした。

回りを見回すと相談コーナーがあったが、マスク姿で盛んにせきをしている女性が職員と話し込んでいる。


「二日前から熱があってセキが止まらない」との声が聞こえてくる。

職員から窓口番号を聞くと、礼を言ってその方向に歩いていくのを見守った。

私は要件を言う前にあの女性の容態を気にした。


「大丈夫ですかね彼女。インフルエンザのような病気だったら心配ですよね」


「ええ、普通の風邪とウィルス性の症状はなかなか見極めにくいので、専門の医師に確認してもらうことになりますね。あまり院内を歩き回られると困りますので、発熱外来を紹介しました。えっとなにかお尋ねでしょうか」


私は自分の受診内容を説明すると、丁寧に行く場所を教えてくれた。

そこへ向かう間、最近は以前ほどではないが、コロナに罹る人もいるのではないかとふと考えた。

院内ではほとんどがマスクをしているが彼女がそうでないことを願った。


ようやく紹介者用窓口に辿り着くと、番号札を渡され、あらかじめ用意してきた問診票を提示。

最近はスマホでQRコードを読めば問診の内容が表示され、事前にチェックするようになっている。

便利になったが、もはやスマホを所持し操作しなければ生活できない社会だと改めて思ったものである。また、ナイナンバーカードの顔認証で本人確認と受診の手続きも行った。

近くに通りかかった年配者男性が左足を引きずりながら看護師に付き添われ歩いている姿が目に入った。職員に聞くと、おそらく脳出血或いは脳梗塞の患者が治療の後、リハビリのためにとりあえず院内を歩いているとのこと。


その後、内科のブロックに移動。

体温計を渡され検温し、側にあった血圧計で測定した。

いずれも異常なし。

幾つかの内科医の部屋の前に椅子が並んでおり、そこで順番を待つ。

近くで高齢者の男性と女性の会話が聞こえてくる。

顔見知りであろう。


「先生に血圧が高すぎるって言われてしもうたわ。最近息切れするようになって、歩くのも休み休みで無理できんようになってな」


「そらあ年やからやないか。薬もらうんやろ」


「降圧剤っていうやつやけど、心臓に負担掛からんようにするんやて。心不全で亡くなる人も多いらしいわ。あんさんはどうやね」


「わしはそっちのほうは大丈夫やけど、またお腹が痛うなってな。以前は胃にピロリ菌っていうやつが悪さして、それが原因ということやったんやけど、今度は場所的に胆石の可能性があるっちゅうんで精密検査することになったんやわ」


「そら気の毒やなあ。お互いお医者さんに任せるしかないな」


正面の掲示板に自分の受付番号が表示された。

指示された部屋に入る。

名前が間違いないか確認しあった後、担当医と面談。

今回の受診は健康診断の便潜血検査に引っ掛かったことによるもので、大腸内視鏡検査の医師との事前確認である。

検査内容および前日までの食事、事前準備等、提出書類の説明と実施日の打ち合わせを行った。

この日の診察はほんの短時間で終わり、実際には2週間後の検査日が本番である。

なにしろ日本人の死因トップはがんであり、がん患者のうち、大腸がんは罹患数、死亡数いずれも1位、2位を占める大変恐い病気です。

私も同検査で陰性になることを願ってやみません。


その後、院内地下の食堂で食事をすることにした。

メニューを見て迷ってしまったが、まだ検査は先ではあるものの、手渡された消化のよい推奨食品リストに目を通して、結局うどんを食べることにした。

隣の席は親子であろうか話し声が聞こえる。


「本当に酷い腹痛やったわ。もう死ぬかと思った。調べてもらったらノロウィルスに感染したんやて。でも同じ生の貝食べててなんであんたは大丈夫なんやろな」


「ほんまや。おかあちゃんだけ相性悪かったんやろな。もうこれからは温めて食べることにしよ」


「そうや。救急車で運ばれるなんてな。もうこりごりやけど。この時期多いらしいわ」


「食中毒もいろいろあるらしいわ。これから食べ物気をつけないかんわな」


食べ終わって、病院を後にした。

2週間後に備えねばなるまい。


*****

挿絵(By みてみん) 


そしていよいよ検査当日がやってきた。

午後からの実施だが、それまではいっさい食べ物は口にできず、何度か下剤を飲んで腸の中の便を全て排出しなければならない。

結局6回トイレに入り出てくる排出物を確認。

最終的には水しか出てこなくなったが、結構辛い作業で、今回は仕方がないが二度とごめんだと思った。


病院に着き再来受付機に診察カードを挿入すると、訪問セクションと予約時間が記載された受付票が打ち出される。

そこには内視鏡受付に行くように指示されている。

便利になったものだと思いながら歩いていると、見た目にやつれた印象の男性が看護師に処置室の行先を聞いている。

話声から医者から糖尿病の治療が必要と言われたそうで、とりあえずインスリン処置を行うことになっているそうである。

血糖値がかなり高くなっており、下げることが重要との診断だったそうである。

確かに私の知人が糖尿病を患っているが、疲れやすく体重も減ったそうで、合併症の心配があるそうだ。とにかく体を大事にいたわるよう願うしかない。


途中廊下の奥側に集中治療室と表示されている部屋があった。

その手前の廊下に長椅子があり、何人かの年配の男女が心配そうに話し込んでいた。

ここは救急病院でもあり、生死を争う心筋梗塞や脳卒中、あるいは交通事故による重傷患者も救急車によって搬送されてくる。

今おそらく緊急の手術を施されていると思われる患者を、この部屋の中で医師が全力で治療しているのであろう。

そして、部屋の外にいる家族や関係者が心から回復を祈っている光景が垣間見られた。


そして内視鏡検査の受付に着いて、職員に受付票を提出すると、呼ばれるまで待つように言われた。

既に女性が二人、男性が一人椅子に座っている。

内視鏡といっても胃カメラもあり定かでないが、結構胃腸の不調な人がいるようである。

順番がくると、検査着に着替えるように言われた。

お尻に穴の開いたパンツに足を通す。

初めて大腸内視鏡検査の体験に意識が集中し、恥ずかしいという感覚はなかった。


そして検査室に入り、看護師からベッドの上で斜めに横たわるように言われた。

そして検査員が下着の開口部から細長いコードのついた内視鏡を挿入する。

その際肛門から大腸にかけてかなりの圧迫感があり、思わず声を上げそうになったがなんとか我慢。

その後うつ伏せに体位を変更し、徐々に腹部に入って行き、最終的には小腸から盲腸付近に到達したと、検査員が説明する。

それから、元に戻りながら腸の状態を観察していくのだが、斜め上にモニターがあり、一応私も見られるようにはなっている。ただ、その余裕はなかったことは言うまでもない。途中ポリープがあり除去したこと、便も多少残っていたと説明があった。ただ、腸を空にしても誰でもあるとのことで一安心。そして一通り観察が終わり内視鏡がお尻から抜き出される。所要時間は約20分程度だったと思われる。検査員からは異常は無いと思いますが、正式には医師からお話があるとのこと。少し安堵したが、一週間後にまた来ることになった。

その後、半日食事をしていなかったため、豪華な料理を食べようと思いながら廊下を歩いていると、


「よう、ひさしぶりやなあ」


と声が掛かった。

相手をじっくりと見ると、学生時代の同級生だとわかった。

もうかれこれ二十年以上に及ぶ再会であるが、自分のことを覚えてくれて嬉しかった。

まず私の通院事情を説明した後、逆に彼の様子を尋ねた。


「俺はアルコールの飲みすぎが原因で肝硬変になってな、尿も濃くなってかなり重症やと言われてしまったわ」


「そういえば顔色も濃くなっているようやな」


「そうやろ。しばらく入院しなあかんようや。まあしょうがないわ。酒飲みの自分が蒔いた種やから。このままでは腎臓もおかしくなってアウトらしいわ。好きな酒も駄目で食事も制限されるらしい」


「そら大変やけど、体が大事や用心せにゃいかんわな」


私はお見舞いに必ず行くと言って彼と別れた。

その後救急車のサイレン音を耳にしながら病院を後にした。


*****


挿絵(By みてみん)

今日は検査結果を聞きに行く日である。

大丈夫だとは思うが少々緊張する。

車に乗り病院に着いたが、もう3度目になり院内の様子はある程度わかってきた。

真っすぐに再来受付機に診察カードを通すと、どこに行けばいいのか分かるようになっている。

隣の受付機には親子連れが受診にきていた。

子供のほうは小学生低学年に思えたが、頭に帽子をかぶっており、抗がん治療の影響かもしれない。

もしかしたら、小児性白血病かもしれないが、早く良くなってほしいと願わざるを得ない。


1日目と同様に内科ブロックに向かう。

その途中で医師どうしが立ち話をしている場面に遭遇した。

断片的に話し声が聞こえてくる。


「あの患者は椎間板ヘルニアで取り合えず注射と薬で様子をみることになったよ」


「ただあまり痛みが長引いて炎症がひどいようなら手術する必要になるな」


「ああ、それは納得してもらったよ。そうならないようにストレッチに努めるって言ってたな」


私自身も季節の変わり目にギックリ腰になることがあり、最近はもみほぐしマッサージをしてもらったら、良くなったような気がする。

やはり年とるにつれ体が鈍ってくるようだ。


そして、内科の待合フロアで順番待ちをすることになった。

杖をついたお年寄りが若者の助けをかりて、近くの椅子に座るのを目にした。

その斜め向かいには妊婦さんがスマホを見ながら時折掲示板にも目を向けている。

院内感染の心配があるため比較的空いているこの時間帯を選んでいるのかもしれない。

同じことは隅で待っている中年男性にも言えるようだ。

彼はマスクをしているが、顔が赤くむくんでいるように見える。

メディアで芸能人がパーキンソン病にかかったと報じられていたが、表情も変化するらしい。

今日受診にきた人はそれぞれ症状が異なるとは思われるが、様々な病気が存在するものだとこの病院に来るようになって改めて実感した。


内科の診察室から高齢男性が出てきて、一緒についてきた看護師からX線撮影室の場所を教わっている。もしかしたら、胸部に問題があるのかもしれないと思っていると、掲示板に私の受付番号が表示された。

私は指示のあった診察室に向かい扉を開けると、女医に明るい声で名前を呼ばれた。

返事をしながら椅子に座ると、今回の大腸内視鏡検査ではポリープを一つ切除したが問題はみられなかったと伝えられた。

医師も結果によって患者との接し方を変えるのであろう。

なにやらほっと一安心。

今後3~5年、同検査をする必要はないそうである。


そして礼を言って退出し清算窓口に向かう。

受付でバーコードつきの清算シート受け取り、それを自分の診察番号が掲示板に表示された段階で、精算機のバーコードリーダーで読み取り、支払いを済ませるという仕組み。

人によっては処方箋も出るようだ。

昔は名前の呼ばれるのを長いこと待たされ、窓口に行って直接支払ったものだが、今は短時間で精算機も複数あり、便利になったものである。

病院は合理化及び効率化されているようだが、一方で病気の種類は増えているように思える。

医療従事者も大変だと思いながら帰路につく。


自宅に戻る直前に、近所の家の前に介護施設の送迎者が止まっており、その家のご主人が介護人に付き添われて自宅に入るのが見受けられた。

認知症を患っておられると聞いているが、つい1年前はご近所を元気に歩き回っておられたので、その変わりように驚き、お気の毒に思える。

また向かいの家の前にヘルパーさんの車が止まっている。

その家のご婦人は高齢で一人住まいではあるが、まだ歩いて買い物に行かれることもあるので、要支援の等級で介護の対象になっているのかもしれない。


今回病院に通うことになって思ったことは、年齢、性別にかかわらず人は様々な病気と隣り合わせで生きているということ。

そして、病気を克服しようと懸命に努力する姿に、激励と同情の気持ちを抱くのだが、いずれ自らの身に降りかかるかもしれないと意識することが大事である。

それは事故や老化にも言えることであろう。

自分もいずれは体が意思通りには動かなくなるかもしれないが、病状を早めに察知し速やかに療養に努めることが肝要。

そして、少しでも健康的に長生きすることが理想である。

これは寿命に限界のあるすべての人に言えること。




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