二十話 日常はいつも来てくれる。
奈央が淀に来て、何日ほどたっただろう。
バレないように行動してるつもりだけど、実は気付いてました。
みたいなテンプレート化した展開はないよな。
俺はありふれた日常をありふれた生き方を使って、自分なりに生きたいだけなんだからよ。
特別なんていらないんだよな。
そんなん言ったって、淀にいる時点でなにか特別なんだろうな。
今日も一日奈央と一緒に過ごす。
現世にいた時以上に、幸せなひと時を過ごせている。
こんなに満ち足りてることはあるのかってぐらい。
死神のルールとして、行動管理係の対象となっている故人の淀の部屋には死神は入ってはいけないというルールがある。
そのおかげで俺は奈央が部屋から出てくるまで毎日玄関の扉で待たされてるっていうのに。
こんなルール普通に要らんと思うんやけどな。
必要性皆無だろ。
眠い目をこすりながら、不満を抱いていると、扉が開いた。
「おはよう、エヌ。
今日もいつものとこでなんか話そうよ。」
そう言いながらあくびをしている。
いつものとこ、つまり、いつものカフェってことか。
淀の部屋に入れないって意外としんどいんだよな。
どっか別のところにいちいち移動しないといけないからな。
でも、あそこ、タダなのにめっちゃ美味いカフェオレ出してくれるから神なんだよな。
行きつけの店だよ。
毎週土曜の20時から24時までは休みだけどそのときも言っちゃうんだよな。
ナポリタンも美味い。
最高だよな。
毎日行っても全然飽きないしな。
そんなことを考えていると、パジャマから着替えるという名目でまた部屋に戻っていた奈央がまた出てきた。
「用意終わったし、行こ。」
何とも言えないほどマイペースだな、奈央。
現世の時もこんなんだったかな。
あんま覚えてないんだよな。
特段ブランド品でもなく、カジュアルな服装で自分の身の丈に合った服装をチョイスするセンスにはいつもしみじみとしてしまっている。
流石にキモいよな、俺。
そう思って、不意に笑いそうになってしまったけど、どうにか誤魔化してみたけど大丈夫かな?
「何笑ってんの?」
めちゃめちゃにバレてた。
恥ずすぎだろ。
なんて誤魔化そうかな。
頭真っ白すぎてなんもおもいつかねえ。
「まあ、いいけどさ。
まあ、めっちゃ面白い顔してたよ。」
そう言いながら笑っている奈央。
その笑みにまた笑みがこぼれそうになるけど、今回は頑張って耐えてみる。
今回ばかりは隠せただろう。
「ちょっと変なことっていうの?
考えてた。」
自分で言ったけど、変なことってなんだよ。
やばいやつじゃねえかよ、俺。
奈央に俺が内藤だってバレてたら詰むぞ。
テンパり過ぎたわ。
「変なことねー。
ふふ、ヤバそうなこと考えてるでしょ。
まあ、いいけど、何の話する、今日。」
ああ、終わったな。
でも、なんかからかわれた感じしてなんか嬉しかったな。
これもやばいやつじゃねえかよ。
終わりだな、俺。
恥ずかしさと嬉しさを混ぜ合わせたような感情を持ちながら、歩いているといつものカフェに着いた。
扉を開くと、扉につけられた鈴が
「チーン」
と鳴った。
中では、落ち着いた洋楽がBGMとして流れていた。
もう顔見知りになったマスターが
「いらっしゃい。
いつものでいい?」
「お願いします。」
「お願いします。」
「そうかい、じゃあ、適当に座っててな。
ちょっと多めに作ってあげるよ。」
俺も奈央もシンクロしかけながらマスターにお願いしていた。
いつも通り優しく接してくれる安心感を感じてしまう。
落ち着いた雰囲気に相変わらず自宅のような気楽さを持ってしまう。
今日も話すことはありふれているのか、話したいと言わんばかりの顔で奈央がこっちを見てきていた。
淀に来て、ここを教えてからほぼ毎日ずっと来て話しているような感じがするのに話がなくなることもないし、飽きてしまう感じも全くしない。
不思議なもんだよな。
今日の議題は、「現世での話」らしい。
これでストーリーを作るならパート16とかまで来そうなくらい話している気もするが、奈央の話はめちゃくちゃ面白いからそんなことはどうだってよくなってしまう。
いつもは思い出話だが、今日は愚痴らしい。
これはこれで新鮮でいいが、奈央も愚痴がたまっていたのか。
全然知らなかったな。
現世での愚痴は相変わらず共感できるものばかりだからなのか、いつにもまして話が弾む。
すると、マスターが料理を持って現れた。
「はいよ、いつものやつ。」
そう言いながら、俺の目の前に特製ナポリタンとカフェオレを、奈央の目の前にオレンジジュースとサンドイッチを置いた。
俺達は声を揃えて、
「ありがとうございます。」
と、言う。
すると、マスターは微笑みながら
「今日はいつにもまして楽しそうだね。
長居していいからね。
じゃあ、ごゆっくりね。」
そう言いながら、厨房に戻っていった。
二人で顔を見合わせながら、
「いただきます」
と言い、さっそく食べ始める。
今日も今日とて美味すぎる料理に頬を落としかけながら、
「うっま」
と言う。
食べたり、話したり。
それをずっと繰り返してる毎日。
これが俺の淀での日常だ。
日常は、いつだって来てくれる。
そういうもんだって、、、、
今話は、章、禁断の恋を死からの方とはあまりリンクしていませんが、満足できるようになっているはずです。
ぜひ、今後もご愛読お願いします。




