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イテルニア黙示録 第一部 「終わりを知らない空の下で」  作者: 蝉
グレンツ防衛線

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プロローグ

 落ちた実は地面に残っていない。

 掘り返した土は固く、指を入れても虫が動かない。根は残っている。噛むと口の中が乾く。

 毛の下まで寒さが入ってくる。水たまりに薄い膜が張り、踏むと割れる。割れた下に水はもうない。

 斜面の上の方から、白いものが降りてきている。


 枝を渡した寝床の脇に、細い体が一つ倒れている。動かない。誰も口をつけない。

 先を削った木を持つ者が、その横を通り過ぎていく。


 林を出て、尾根をひとつ越える。

 幹の低いところに爪の跡がある。裂けた樹皮の縁が新しい。根元の土が濡れて、獣の匂いが濃い。

 水の音のする方へ、その匂いは続いている。

 そこへ入っていく。


――――――――――――――――――――


 草の中で低い音が起きる。ひとつではない。歯を見せる顔が並ぶ。

 止まらない。

 いちばん近い一頭の首に手が届く。掴んで持ち上げ、幹へ叩きつける。骨の音がした。鳴き声が途中で切れる。

 残りが下がる。腹を地面につけたまま後ろへ下がり、向きを変えながら杣道(そまみち)の方へ流れていく。

 追わない。


 手についた血を草へ擦りつける。

 倒れている体には口をつけない。その横を通り、木の間から下の方を見る。

 水は細い。石が乾いて白い。上の方に、まだ食えるものの気配がない。


――――――――――――――――――――


 尾根の反対側に、同じ形の影がいる。

 背の高さが同じ。腕の太さが同じ。近づく者がいないところも同じだ。

 顔がこちらへ向く。こちらも向く。

 どちらも動かない。距離は変わらない。近づきも離れもしない。

 向こうが先に顔を戻す。こちらも戻す。


 ほかの体は二つの影を避けて歩く。避けているという歩き方ではない。そこだけ通り道が空いている。

 その空いた幅は、はじめからそうなっている。


 風の向きが変わる。

 南から来る。土。焼いた物。獣ではない汗。同じ場所に多く集まって、動かずにいる生き物の匂いだ。

 鼻の奥がひらく。喉が鳴る。

 顔を上げる者が増える。上げてからこちらを見る。


 斜面を下りはじめる。

 足の裏に落ち葉が滑る。滑っても速さが落ちない。

 梢《こずえ》の間から光が落ちてきて、顔に当たる。

 顔の中で、そこだけが濡れたように光を返す。

 瞬きが一つ。光はまだそこにある。


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