第二十話
鉄剣が冷えていた。
ガルドは掛け棒からアシュの鉄剣を外して、刃のない縁を親指の腹で押した。
夕方の庭は日が回りきっている。
塀の影が井戸のところまで伸びて、その先は土の色と混ざって見えない。
柄の巻きは握るところだけ色が変わっていた。
手の脂を吸った革の色だ。
借りてきた日は端から端まで同じ色をしていた。
庭の土には今朝の受けの跡が残っている。
十本ぶんだ。
踏み替えた足の跡が同じところに何度も重なっている。
「返す日を決める」
土間で足を拭いていたアシュが、布を持ったまま顔を上げた。
「これはいつまで借りる約束だ」
「決めていません」
「聞いてないな」
「はい」
「俺も言ってない」
ガルドは鉄剣を縦にして、残っている光に透かした。
歪みはない。
この子は借り物を粗末にしない。丁寧に扱いすぎるところがある。
「借りた物は返す。返す日のない借り物はもらった物と変わらん」
アシュは土間から上がってきて、卓の脇に立った。
「フェイさんに聞かなくていいんですか」
「振っていいかどうかは貸した本人が決める。いつ返すかはこっちだ」
「はい」
「聞くのは返しに行く日だ。決めるのに人は要らん」
この子は借りた日から貸した側の言い分ばかりを覚えている。
覚えるのは悪いことではない。
借りている側の言い分を一つも持っていないのがよくない。
「春だ。峠が開いた頃に返す」
「はい」
「聞くことはあるか」
「返したら何で受けるんですか」
「春までに二本要る」
布を畳む手が止まった。
「二本」
「上のが一本。お前が一本だ」
「兄さんのもですか」
「先はあいつだ」
アシュが顔を上げた。
「あいつは木剣一本きりだ。借り物も持たん」
あの男はレインの剣を立派なことだと言った。
言うだけなら金は要らん。
鉄は要る。
「買うんですか」
「買う」
「高くないですか」
「高い」
四日前、この卓でもう一度、金貨で五百枚と言われた。
一度目の数と同じだ。増えても減ってもいない。
その家の子どもが鉄剣の値を高いと言う。
ガルドは鉄剣を掛け棒へ戻した。
「春」
アシュが小さく言った。
「そうだ」
言ってから気づく。
あの男も春と言った。
お出しいただくのは春でよろしいかと存じます、雪の峠を子どもに越えさせるものではございません、と。
「向こうの春は都だ」
ガルドは言った。
「うちの春は、この庭だ」
アシュは頷いて、掛け棒の木剣を指で押して位置を直した。
言われた日をこの子は指で数えない。
数えないだけで覚えている。
ミラが竈の前から振り返った。
「二本ともなの」
「そうだ」
「一本いくらするの」
「聞いてくる」
「聞いてから言いなさいよ」
「順番が逆だ。要ると決めてから値を聞く」
ミラは何か言いかけて、鍋の蓋を取った。
この女房は帳面のない勘定を嫌う。
嫌っても決めたあとの話に口は出さない。
レインは使いに出ている。
夕方になってからミラが思い出した用だ。
戻るのは日が落ちてからになる。
帰ってきたら言う。
掛け棒には木剣と鉄剣が並んでいる。
その先が空いている。
自分の剣はあの日から布に巻いて奥へ寝かせたままだ。
解いたのは手入れの時と、庭でアシュの話を聞いた朝だけで、済んだらまた巻く。
巻いた物は目に入らない。
目に入らない物は数えられない。そう思ってやってきた。
――――――――――――――――――――
翌朝、アシュは日が昇ってすぐ坂を上っていった。
あの男が塔の前でアシュの顔を見た日に、行く時刻を早くしろと言ったのは自分だ。
帰りは日のあるうちだとも言った。
掛け棒の二本は今日も掛かったままだ。
ガルドは井戸で手を洗って、そのまま表へ出ようとした。
「あんた、どこ行くの」
「町だ」
ミラはリアを背負ったままそれ以上聞かなかった。
この女房はいつもなら帰る刻限を先に聞く。
今朝は聞かない。
――――――――――――――――――――
ランドの店は表の戸が閉まっていた。
裏へ回ると勝手口が開いている。
中から樽を転がす音がした。
ミラの父が空樽を壁際へ寄せていた。
こちらが声をかける前に顔が上がる。
この人は足音で誰か分かる。
「言付けを頼みたい」
ランドは樽から手を離した。
それだけだ。
用件を聞く言葉も、どうしたという顔もない。
「二階の客にだ。用があるからうちまで来てくれ。そう伝えてくれ」
竈の前でソフィが振り返った。
住み込みの給仕の娘だ。
口を開きかけて、鍋の方へ向き直ってから言った。
「あの、まだ下りていらっしゃいません。ゆうべも遅くまで一階にいらしたので」
「かまわん。下りたら伝えてくれ」
「はい」
ランドが一度だけ頷いた。
ミラの父は理由を聞かない。
聞かずに引き受けて、引き受けた分だけ黙る。
女房の目はここで仕込まれた。
この歳になってやっと分かる。
ガルドは礼を言って裏口を出た。
通りはまだ人が少ない。
水を汲みに出た女が二人と、荷を積み終えた馬車が一台。
峠の上が白いのはこの通りからでも見える。
うちに用があるなら俺に言え。女子供に回すな。
町なかで立ち話をした日にこちらがそう言った。
ご用ができましたらまっすぐ伺います、とあの男は返した。
あれから用はできなかった。
今朝こしらえた。
――――――――――――――――――――
家へ戻った。
レインは井戸から水を運び終えて庭で薪を割っている。
ミラはリアを背負って竈の前にいる。
ゆうべ鉄剣の値を聞いたきり、女房はその話に戻ってこない。
「なあ」
レインが斧を止めた。
「あいつ、また来ると思うか」
「来る」
「なんで分かるんだよ」
「用ができたからだ」
「用って、誰の」
「うちのだ」
レインは薪を割り台に立て直した。
それ以上は聞かない。
この子は聞かないのではない。聞いていいところまでしか聞かない。
嘘は言っていない。
言わずに済む言い方を選んだだけだ。
どこで覚えた言い方かは考えるまでもなかった。
斧の音がまた鳴りはじめた。
昨日より間が短い。
足音がしたのはそれからいくらも経たないうちだ。
家の前まで歩幅が一度も変わらない足音だ。
一度目は昼過ぎに来た。
二度目は昼前だった。
今日は朝だ。
朝なのはこちらが朝に呼んだからだ。
そこは驚かない。
驚いたのは間の方だ。
言付けを置いてからこちらは通りを二本戻ってきただけだ。
そのあいだにレインが割った薪は十いくつしかない。
その十いくつのうちに男は階段を下りて、言付けを聞いて、身なりを直して、ここまで歩いてきたことになる。
どこにも急いだ跡がない。
戸が二度叩かれた。
三度とも同じ数だ。
ガルドは自分で開けた。
「ヴァルドさん。ご用向きと伺いまして」
男は笑っていた。
こちらの顔を確かめる前に笑っている。
三度とも同じ順番だ。
「入れ」
「失礼いたします」
敷居で外套の裾を払う。
払う手つきが短い。
土は今日もほとんど付いていない。
レインが斧を置いて土間へ入ってきた。
「座ってろ」
「……おう」
「口は開くな」
「聞かれたら」
「聞かれても俺が答える」
レインが卓についた。
膝の位置が落ち着かない。
この子がこの男と同じ卓につくのは初めてだ。
ミラは茶の支度をしなかった。
三度目で、女房は竈の前から動かなくなった。
男は腰掛けを引いて座った。
引く音がしない。
「先だって申し上げたことでございますが」
「同じ話ならしなくていい」
ガルドは先に言った。
「返事をする」
男の口が閉じた。
閉じてからまた笑った。
急かされた顔もしない。待っていた顔もしない。
言わなければ向こうは足すことも引くこともできん、とレインに言ったのは十日あまり前だ。
言ったとおりに黙った。
向こうは何も足さなかった。引きもしない。
そのあいだに男は二度来ている。
同じ話を同じ長さでもう一度して、紙を一枚こちらへ向けて、写しは館にあると言って帰った。
こちらが黙っているあいだに向こうは書いて、預けている。
黙って待つのは、何もしていないのと同じだった。
だから今朝、こちらから言付けを置いた。
この男が今この卓にいるのはガルドが呼んだからだ。
「受けん」
ガルドは言った。
「うちの子は都へ出さん」
男は膝の上の手をほどいて、頭を下げた。
「承りました」
顔を上げた時、笑いは下げる前と同じ高さにあった。
「理由を聞かんのか」
「伺いません」
「なぜだ」
「伺ったところで私が申し上げることは変わりませんので」
ガルドはその返事を頭の中で二度なぞった。
作り直さないと言っている。
作り直さないのに引く気配がどこにもない。
「一つだけ、確かめさせていただきます」
「なんだ」
「今のお返事は、ご家族の皆さまのお返事でございましょうか」
ミラが薪を持ったまま竈の前で止まった。
「俺の返事だ。この家は俺が決める」
「けっこうでございます」
男はほかの誰の顔も見なかった。
台所の方も見ない。レインの方も見ない。
この家の中はもう見てある。今さら誰の顔も確かめる必要がない。
「もう一つ言う」
「はい」
「この頃うちに回ってくる仕事がある。あれも要らん」
「私が回した仕事はございません」
「あんたが言ったろう。いい仕事が先に回るようにする形もあると」
「申しました。まだ何もしておりません」
「じゃあ誰がやってる」
「町の方々でございましょう」
「町がか」
「はい。ヴァルドさんのお名前は私が申し上げるまでもございません」
断る先がない。
誰が回してきたのかも分からん仕事を、返しに行く場所がない。
ガルドは腹の帯から紙を出した。
館の使いが持ってきた先触れだ。
折り目が四本ある。持ち歩いているうちに増えた。
卓に置いた。
「これは返す」
男は紙を見た。
手は出さない。
「その紙はお館からお届けした物でございます」
「あんたの名が書いてある」
「書きました。書いてお渡しした物は、渡した先の物になります」
「受け取った覚えはない」
「使いの者がお届けいたしました」
卓の上に紙が一枚ある。
二度目に来た日、この卓には何も載っていなかった。
今日そこに物を載せたのはこちらだ。
「今日のことも書くのか」
「書きます」
「断られたと書くのか」
「お返事をいただいた、と書きます。日付を入れます」
「呼ばれて来たことも書くのか」
「伺った次第も書きます」
日付が入る。
入れば次に来る理由になる。
先だってのお返事から日が経ちました、と戸口で言える言葉ができる。
同じ行に呼ばれて伺ったとも書かれる。
こっちから呼べば来る家だ、と紙の上に残る。
残したのはガルドだ。
「写しは館か」
「はい。書いた日にお預けいたします」
男は外套の膝のあたりを一度だけ直した。
「差し出がましいことを一つ申し上げます」
「言え」
「都には剣を教える場所もございます」
卓の下でレインの膝が動いた。
動いたきりでレインは口を開かない。
開かずにいるのが、この子には力の要ることだ。
「字と剣を別の日に習うことができます。どちらかをおやめいただく話ではございません」
ガルドは息を吸った。
深くしないように吸った。
この男はアシュの剣の話を一度もしなかった。
レインのことは言った。剣をお続けになるのでしょう、と。
アシュのことは字の話しかしなかった。
言っていない話がもう一つある。
塔にいるのは魔法使いだ。
この町でそれを知らん者はいない。
男は坂を上って挨拶までしている。
先だってはこの卓でアシュに直に聞いた。塔へはまだ通っておいでですか、と。
それだけ並べておいて、この男は魔法の学びを、いずれ進む道だと一度言ったきりだ。
塔とつなげて話したことは一度もない。話はいつも字で終わった。剣は断った今日になって足された。
足されないものがまだ一つある。
こっちが行かんと言えば向こうは足してくる、とレインに言ったのは自分だ。
言ったとおりのものが出てきた。
出てきたところで、こちらに断る言葉が増えるわけではない。
「聞いた」
ガルドはそれだけ言った。
「お返事は今いただかなくてけっこうでございます」
男は腰を浮かせた。
「あんたはいつ出る」
「雪の前に出ます」
「春に戻ると言ったな」
「戻ります」
「断った家にまた来るのか」
「ご挨拶に伺います」
「雪はやむと言ったな」
「申しました」
「じゃあ、いつまでの返事だ」
「お返事に日限はございません。雪の前と申し上げたのは私の荷の都合でございます」
期限を切られていたつもりでいた。
切られていたのはこちらが勝手に決めた日だけだ。
男が立った。
腰掛けは動いていない。
三度目で分かる。
この腰掛けは初めから使われていない。
戸口で外套を直しながら、男は壁の方へ目をやった。
掛け棒だ。
木剣が一本と、鉄剣が一本。
その先が空いている。
掛ける場所は三つあって、掛かっているのは二本だ。
目は空いたところで止まって、すぐ戻った。
「失礼いたしました」
男は頭を下げて出ていった。
通りへ出てから振り返らない。
――――――――――――――――――――
卓の上に紙が一枚残っている。
この卓に物が残ったのは初めてだ。
ミラが布巾を持って卓まで来て、紙の手前で手を止めた。
拭かずに布巾を握ったまま竈へ戻っていく。
閂を落としたのはミラだ。
自分より先に女房の手が動いたのは初めてだった。
「あんた」
「なんだ」
「あたし、何も言わなかったわよ」
「聞いてる」
「でもね。さっきのはあたしの返事でもあるから」
「そうか」
ミラは前掛けの紐を結び直して、竈に薪を足した。
今朝はまだ足していなかった。
俺の返事だ、とさっき男に言った。
言った時、女房の顔を見なかった。
見れば、あの男は女房の顔の方を返事に数える。
言うなら、女房も卓についている時に言えばよかった。
竈の前に立たせたまま返事をしたのはこちらだ。
「あいつ、俺の方一度も見なかったな」
レインが言った。
「見なくても済むからだ」
「なんでだよ」
「もう見てある」
「なあ。あいつ、なんで今日来たんだ」
「呼んだ」
レインの手が卓の上で止まった。
「呼んだって、ガルドがか」
「今朝、じいさんの店に言付けを置いてきた」
「……用ができたって、朝そう言ったよな」
「言った」
レインは口を開けて、それから閉じた。
朝のうちに聞き流したものを、今になって並べ直している顔だ。
「なんで呼ぶんだよ。来なけりゃそれでよかっただろ」
「よくない」
「なんでだよ」
「待ってるあいだに向こうは紙を一枚書いて館へ預けた」
息を一つ吐いた。
「待てばいつ返事をするかを向こうが決める」
昨日、掛け棒の前で返す日を決めた。
振っていいかどうかは貸した本人が決める。いつ返すかはこっちだ。
返事も同じだ。
レインは卓の縁を指の腹で擦った。
「なんで理由を言わなかったんだよ」
「言えば作り直してくる」
「作り直すって、何を」
「同じ話をだ。遠くへ出すのが嫌だと言ってみろ」
「言ったら」
「都じゃない町の名前を持ってくる。峠を越えずに行ける場所だ」
「……知らねえ奴に預けたくねえって言ったら」
「世話の者はこちらでお選びくださいと言う」
レインが口を開けて、閉じた。
「一つ言えば一つ直してくる。直した話は前より断りにくい」
「それじゃ、うちに理由がないみたいだろ」
「ある」
ガルドは戸の内側の閂に手を置いた。
「うちの中にあればいい。あの男に渡す分は要らん」
レインは卓の縁から手を離した。
離した手を一度だけ握って、開いた。
レインは斧を取りに庭へ出ていこうとした。
出ていく足が速い。
「レイン」
背中が止まった。
「ゆうべ言いそびれた」
「なんだよ」
「春に鉄を買う。二本だ」
振り向かない。
戸口の柱に手をかけたままだ。
「一本はお前のだ。買うのはお前のが先になる」
柱の指が一本ずつ離れた。
離れて、また同じところを握った。
「……なんで今なんだよ」
「ゆうべ決めた。お前は使いに出てた」
「そうじゃなくて」
そこで止まった。
言いたいことがまだ言葉になっていない時の止まり方だ。
あの男が帰った日にこれを言われれば慰めに聞こえる。
「あの男とは関係ない」
ガルドは言った。
「ゆうべ決めた時、あいつを呼ぶことはまだ決めてなかった」
「……おう」
レインは庭へ出た。
薪を割り台に立てる音がする。
斧はすぐには鳴らない。
立て直す音がもう一度した。
鳴ったのはそれからだ。
一つめの音がいつもより高い。
二つめからはいつもの音に戻って、間だけが短くなっていく。
――――――――――――――――――――
「今日は俺が行く」
「迎え? 俺が行くけど」
「今日は俺だ」
レインは何か言いかけて、薪の山へ戻った。
坂の下の曲がり角でガルドは待った。
塔までは上らない。
上ればあの老人の方にこちらの用ができる。
昼を少し回った頃にアシュが下りてきた。
父を見つけて足が止まって、それから速くなった。
「断った」
ガルドは先に言った。
「今朝、こっちからあの男を呼んだ。来たから受けんと言った」
アシュは頷いた。
驚かない。
この子は驚く順番が人と違う。
「お前のいない場所で決めた」
「決めるのは父さんがやるって言いました」
「言った」
「じゃあいいです」
いい、と子どもが言う。
言われて楽になった自分がここにいる。
「僕が断ってもよかったですか」
「よくない」
「どうしてですか」
「お前が断れば次はお前に持ってくる」
「はい」
「断るのは俺の役だ。お前の役は別にある」
「なんですか」
「春まで受けを続けることだ」
「一つ足された」
「何をですか」
「剣だ。都には剣を教える場所もあるとよ。字と剣を、別の日に習えるとな」
アシュは坂の途中で立ち止まった。
靴の先で小石を一つ道の端へ寄せて、また歩き出した。
「言われた話は断れる、って父さんが言いました」
「言った」
「言われなかった話が一つ減りました」
そのとおりだ。
断ったから足してきた。
足された物は、足される前より断りにくい。
「あの人は、また来ますか」
「来る」
「いつですか」
「雪の前に町を出て、春に戻ると言った」
アシュは前を向いたまま歩いている。
歩きながら、指を二本だけ動かした。
「父さん」
「なんだ」
「返す日は春のままですか」
「春だ」
「変わらないんですね」
「変わらん」
「兄さんは知ってますか」
「今日言った」
それきり聞かない。
この子は自分の話が済むまで兄の話をしない。
春に決まっている日が二つある。
鉄剣を返す日と、あの男が戻る日だ。
決めたのが別々の人間だというだけだ。
鉄剣を買うのはその前になる。
買う日を決めるのはこっちだ。
子どもは頷いて、坂の残りを黙って下りた。
途中で一度も振り返らない。
――――――――――――――――――――
戸口まで戻って、閂を上げた。
ガルドは奥へ行って布を解いた。
自分の剣だ。
隠したのは数えられん方が得だと思ってきたからだ。
今朝、あの男は空いたところを見た。
空けておいても数えられる。
ガルドは掛け棒の端へ自分の剣を掛けた。
三本になった。
木剣が一本、鉄剣が一本、その先に長いのが一本。
柄の高さが三つとも違う。
これで数えられる物が一つ増えた。
増やしたのはこちらだ。
レインの木剣は部屋の壁際に立てかけてある。
掛け棒に掛けたことは一度もない。
春に鉄剣が来る。
あれの隣に立つことになる。
掛ける場所はそれから決める。
ミラが奥からリアを抱いて出てきた。
目を覚ましたばかりで機嫌が半分しかない。
壁の三本を見つけて、リアが手を伸ばした。
届かない。
届く高さには掛けていない。




