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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
クラス転移とチート覚醒編

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第6話 ハクスラの現実はドロップ運

 遊軍という形で、いずれの軍にも属さない個人行動(という名の事実上の厄介払い&戦力外通告)を受けた僕、松島日向さん、弘前成美さんの三人。無限の自己成長スキルを持つ弘前さんだけは『遊撃枠としての期待の星』だったが、僕と松島さんは完全に『おまけ』である。

 そんな僕たちの今後の活動方針について説明をしてくれた近衛騎士団の兵士の案内で、僕たちは王城を後にし、新たな居住地へと向かっていた。


「本日から、君達にはここで生活してもらうことになる」


 石畳の道を歩き、王都チェントロの活気あるメインストリートから一本路地に入った閑静な区画。そこで兵士が足を止めたのは、レンガ造りの小ぎれいな三階建ての建物だった。

 一階が共有スペースで、外階段から二階と三階の各部屋にアクセスできる構造。現代日本で言うところの、ちょっとお洒落なアパートやテラスハウスに近い外観だ。

 それぞれの部屋の鍵を受け取って中に入ると、つい昨日まで生活していた王城内の豪華な来客用宿泊棟に比べれば質素で手狭ではある。だが、一人暮らしのワンルームとしては十分すぎる広さだった。

 ふかふかのベッドや、スイッチ一つで点灯する照明の魔導具はもちろん完備。さらに奥の扉を開ければ、水洗トイレや機能的な洗面所、お湯が出るシャワールームもちゃんと付いている。インフラのレベルは王城と全く変わらない。


「ここは本来、実績のある腕の良い傭兵たちの住居として使用されている上等な物件だ。さすがに『異世界から喚び出した勇者を、新人傭兵が泊まるような隙間風の吹く雑魚寝の宿に泊まらせるわけにはいかない』という、国王陛下からの配慮だ」


 これが国王の配慮の一つか。

 しかも、僕たち三人それぞれに一人一部屋ずつ、隣り合う形で割り当ててくれている。松島さんと弘前さんの部屋も同様の広さと間取りらしい。王様、あんたどこまでいい人なんだよ。一生ついていきたい(戦力外だけど)。


「もし今後、戦いで金が貯まって他の住居に移り住みたくなったら、自由に引っ越して構わない。もちろん、引っ越した後の家賃や物件の購入費は君達が全額自腹で払うことになるがな。あと、引っ越した際は緊急の連絡のために、必ずギルドか騎士団へ一報を入れてくれるとありがたい」


 その後、近所の安い食堂や買い出しに便利な市場の場所、ゴミ出しのルールなど、やけに所帯染みた生活のオリエンテーションを細々と話した後、兵士の人は忙しそうに去って行った。

 王城からの支援は家賃の無料化のみ。活動資金や日々の食費などの『生活費』は決して潤沢に支給されているわけではないため、明日からは自力で稼がなければならない。

 僕達は今日のうちに引っ越しに関わる荷解きや部屋の掃除などの作業を終わらせ、明日から本格的に『遊軍』としての活動を行うことに決めた。


***


 遊軍といっても、ただ気ままにフラフラと街の外に行って、「あ、魔物がいた。とりゃー」と戦って帰ってくるようなピクニック気分なわけではない。広大なセッテ王国のどこに、どれくらいの規模のカラクリ魔物が潜んでいるのか。自分たちの実力に見合った狩り場はどこか. まずはそういった確かな『情報』が必要になってくる。


 そこで僕達のような遊軍やフリーランスの戦闘員が、情報源と生活の糧を求めてあてにするのが『傭兵ギルド』だ。


 ここで、このセッテ王国における傭兵ギルドについて説明しておこう。

 そもそも、魔王の置き土産としてすでにこの大陸に根付き、自然の生態系の一部として組み込まれた一般の魔物だが、彼らは決して森の奥深くで大人しく草を食んだり獲物の魔物を襲っているわけではない。時には餌を求めて人間の農場や生活域に侵入して家畜を襲うこともあるし、天候や環境の変化で生態系に異変が起こり、大群となって人間の街を脅かすこともある。

 そういった魔物がらみのトラブルや獣害を解決するための組織が、元々存在していた『狩猟ギルド』だった。文字通り、魔物を狩猟・討伐することによって人間の生活を守る、屈強な狩人達が所属する民間組織である。

 要するに、やってることはラノベや異世界ファンタジー小説に必ず登場する『冒険者ギルド』と全く同じだ。テンプレ通りすぎて逆に安心する。


 ところが、魔王の出現と無機質で凶悪な『カラクリ魔物』による本格的な侵略という災害が起こった。これへの早急な対処の一環として、王国は狩猟ギルドを軍と連携する準国家戦力の一つとして組み込むことを決定。それに伴い、名称を『狩猟ギルド』から『傭兵ギルド』へと呼称変更したのだ。


 なお、ここで『傭兵ギルドなんて中途半端な名前にしないで、いっそ全員正規の兵士として軍隊に組み込めばいいのでは?』という至極真っ当な疑問が湧く。だが、そうしなかったのにはれっきとした理由がある。

 軍隊の兵士というものは、何よりも『集団行動』と『上官への絶対服従』を求められる。裏を返せば、勝手な単独行動やスタンドプレーは絶対に許されない。しかし、世の中には集団行動に全く馴染めない者や、誰かの命令を聞くのが死ぬほど嫌いなアウトローもいる。さらには、一人や少数で行動した方が圧倒的に強い一騎当千のバケモノや、強すぎたり戦闘スタイルが個性的すぎるせいで、集団行動の陣形に組み込むと逆に味方の足を引っ張るような、軍人としては扱いにくい連中も存在するのだ。

 そういった、軍の規律には馴染まないが戦闘力だけは一級品という『扱いづらいはぐれ者たち』を十全に生かしつつ貴重な戦力に加えるため、あえて軍とは別組織である『傭兵』という自由な枠組みとして維持しているのだ。


 ……ん? ちょっと待てよ。つまり、国境に縛られず自由に行動できる『遊軍』に回された僕たち三人も、王国から見れば『軍の集団行動には組み込めない、扱いづらい連中』という枠にスッポリ収まっているということじゃないか。自虐のつもりはなかったが、見事なまでに理にかなっている。


 そんな傭兵ギルドの事務局は全国各地の主要都市に存在しており、王都チェントロにも何カ所か支部がある。その中の一つ、王城の兵士詰め所にほど近い場所にある事務局が、僕達遊軍の当面の活動拠点となった。

 流れは簡単だ。事務局の広間にデカデカと設置されている掲示板に貼られている、討伐依頼や素材収集の書類を吟味し、受付を通して依頼を受注し、遂行する。終わればその証拠となる魔物の魔石や、カラクリ魔物の特殊な部品をカウンターに納品し、現金か口座振り込みで報酬を受け取る。ついでに倒した敵から獲得した余分なアイテムは、ギルドに売却するか、市場の鍛冶屋に持ち込んで装備強化の素材とする。

 ――つまり、遊軍という大層な名前を貰っているとはいえ、やっていることはその辺の野良の傭兵と1ミリも変わらないのだ。違いと言えば、国からの無制限の通行許可証という『お墨付き』があるかないか程度だろう。


 さて、そんなギルドシステムを理解し、生活費を稼ぐために意気揚々と最初の数回の依頼を行った僕達三人だったが。


「……なんか、ウチらあんまり合わなくね?」

「確かに。戦力も戦術も、根本的にかみ合ってない」

「僕が言うのもなんだけど……事前の想定と、全然違ったよね……」


 王都近郊の森での狩りを終え、アパートの共有スペースのテーブルを囲みながら、僕たちは深いため息をついていた。

 結論から言えば、僕たちは早々に『パーティを組まない方が良い』と判断したのだ。


 当初、僕たちが描いていたバラ色のドリームプランはこうだ。まず、弘前さんがチートスキル『ハック&スラッシュ』を使って敵をバッサバッサと倒す。すると、ハクスラの恩恵でレアな宝石や綺麗な装飾用のアイテムがポロポロとドロップする。それを回収し、松島さんのスキル『デコレーション』を使って、松島さん自身か弘前さんの装備にキラキラのデコを施し強化を行う。強化された装備で弘前さんがさらに強い敵を倒し、よりレアな装飾品を落とす。

 ――という、ゲームで言えば『最強の永久機関』が完成するはずだったのだ。


 だが、いざ王都の外に出て、ターゲットである四足歩行のカラクリ魔物『アント』と戦ってみると、残酷な現実が突きつけられた。

 全然、装飾品がドロップしないのだ。

 無表情の弘前さんが、身の丈ほどある大剣で金属の塊であるアントを大根のように次々と叩き斬る。そこまではいい。圧倒的な戦闘力だ。

 しかし、砕け散ったアントの残骸から光とともにドロップするのは、『鉄の塊』や『銅の塊』、『丈夫な革』といった素材ばかり。

 松島さんが血眼になって探しても、キラキラした宝石や、カワイイ装飾品なんて、ただの一つも落ちなかったのだ。


「マジ無理、鉄の塊とかゴツすぎて映えないし! テンションぶち下げなんだけど!」


 森の中で響き渡った松島さんの悲痛な叫びが、今も耳に残っている。そもそも、ドロップ品の出現法則が完全に不明なのが痛すぎた。

 敵の種類や強さ、倒し方に関係なく、何が落ちるかは神のみぞ知る――スキルのさじ加減一つなのだ。期待していた宝石や装飾品は、天文学的な確率を引き当てない限り出ないのではないかと思えるほどに、出てくるのはガラクタ同然の素材ばかり。まさに『現実は非情である』を地で行く理不尽さだった。


 結果として、これらの金属や革素材は、松島さんの『デコレーション』で扱える素材では無かった。結局、街の鍛冶屋に持ち込んで、お金を払って手持ちの装備を物理的に強化してもらうしかない。これでは松島さんのスキルは全く機能せず、戦闘力のない彼女はただ戦場でオロオロするだけのお荷物になってしまう。


 えっ? 僕?  僕はお情けで二人の行動に同行させてもらっただけで、戦闘中は弘前さんの後ろの安全地帯で「いけー!」「がんばれー!」と手を叩いているだけの、『完全に経験値吸ってるだけの寄生プレイ』だよ! この世界に経験値なんて存在しないけど!!

 一応、弘前さんがドロップさせた大量の鉄の塊や銅の塊、不要になった『量産型の鉄の剣』などを回収してリュック(国王に送られた物)に詰め込む荷物持ちとしての役割は果たしたが、僕自身のスキル『休憩所』はかすりもしなかった。


 まぁそういうわけで、このまま三人で行動を続けても、松島さんがただのお荷物と化し、弘前さんも松島さんを庇うことで経験値効率が落ち、戦闘力を十分に生かせず足を引っ張り合う結果になる。そして僕は置物だ。

 ギスギスして仲が悪くなる前に、ここはパーティを解散して、それぞれ『ソロ』で活動した方が良いと、満場一致で判断したのだ。


「ま〜、一緒に戦わなくなるだけで、縁が切れるわけじゃ無いしね。そもそも部屋はお隣さんのご近所さんなんだから、困った時はこれからも助け合ってこ!」


 松島さんが、オレンジ色の髪を揺らしながらカラッと笑って右手を差し出した。それに弘前さんが小さく頷いてハイタッチを交わす。


「そうだね。僕も二人にはめちゃくちゃ感謝してるよ。特に弘前さんには、おこぼれとはいえ鉄の剣も譲ってもらったからね。これで素手での戦闘は避けられる。なんとか自力で魔物を倒して、早くスキルが発動できるように頑張るよ」

「……うん。二人とも、絶対に死なないでね」


 弘前さんの静かだが心のこもった言葉に、僕と松島さんは力強く頷いた。

 こうして、僕達遊軍三人の夢のパーティは、結成からわずか数日で円満解散。

 それぞれの生き残りを懸けた、過酷なソロでの異世界傭兵ライフが開始されたのだった。

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