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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
クラス転移とチート覚醒編

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第5話 戦力外通告!? いいえ、ただの完全フリーな冒険者ルートの始まりです!

~国王side~


「――では、概ねの配属先が決まったな」


 王城の深部に位置する大会議室。そこは、セッテ王国を構成する全ての公国が関係する、国家の存亡を賭けた重大な会議の際にのみ使用される荘厳な空間だ。 天井からは魔導具による淡い光が降り注ぎ、部屋の中央には巨大な円卓が鎮座している。

 その席には、アレクサンダー国王と、各公国の長である『公王』から全権を委任された代表者たちが座り、火花を散らすような会議を行っていた。


 今回の議題は、先日召喚に成功した『異世界からの転移者たち』――つまり、チートスキルを持った勇者たちをどの公国で活動させるかという戦力分配についてである。転移者の一人である那須野 雄心は、この会議を『プロ野球のドラフト会議』と的確に形容していたが、まさにその通りだった。強力なスキルを持つ者は複数国から指名が重複し、熾烈な交渉と駆け引きが繰り広げられたのだ。


「結果をまとめよう。中央の王領と各公国は、それぞれ転移者を三名ずつ配属・育成させることとする。振り分けのリストは、今手元に配布された資料の通りだ」


 会議室の隅には速記官用の席が設けられており、凄腕の速記官たちが魔導具を駆使して議事録を作成している。必要であれば即席で資料を作成する。各代表者に配られたばかりの真新しい転移者の配属リストも、彼らの手によって会議の進行と同時に即席で作成・印刷されたものだ。


「ただし、例外を設ける。以下の三名は決まった配属先を定めず、大陸全土を自由に移動する『遊軍』とする。弘前 成美、松島 日向、そして那須野 雄心の三名だ」


 アレクサンダー国王の宣言に、代表者たちの間に小さなざわめきが起きた。弘前成美が遊軍になった理由は、誰の目にも明確だった。

 彼女のスキル『ハック&スラッシュ』は、敵を倒して装備や素材を収集し、自らを限界なく強化していくという、恐るべき自己完結型の自己成長スキルだ。つまり、戦場に出て敵を倒せば倒すほど、理論上は無限に強くなれる。

 しかし、逆に言えば『倒す敵がいなくなると成長は完全にストップする』という弱点でもある。対魔王戦線が順調に進み、カラクリ魔物の活動領域が押し戻されて完全に脅威が去った公国が出た場合、そこに彼女を固定配属させてしまえば、せっかくの無尽蔵の成長の機会を奪うことになってしまう。

 いずれ魔王本人と相対し得る、強力な戦力に育つ可能性を秘めた彼女のスキルを、平和になった土地で遊ばせておくのはあまりにも勿体ない。だからこそ、彼女には常に最前線の激戦区を渡り歩かせる『遊軍』という形をとらせることで、トータルでのセッテ王国全体の戦力増強になるよう調整したのだ。


 だが、松島 日向と那須野 雄心の二名については、事情が全く異なる。日向のスキル『デコレーション』は実技訓練中に検証がすでに終わっており、『武器や防具に装飾を施すことで、強力な能力付与効果を与える』という、非常に有用なスキルであると判明していた。

 しかし、現実はそう甘くは無かった。数百年に一度の魔王との戦争が想定以上に長引いた結果、国家予算の大部分が軍事費に回され、武器や鎧の需要が爆発的に増加した。それに伴い、平和な時代に宝飾品を作っていた多くの職人たちが、国からの要請や食い扶持のために『武具職人』へと転職してしまったのだ。

 その結果、現在のセッテ王国では、デコレーションの素材となる『宝石』や『装飾品』の生産・流通がほぼ途絶えてしまっていた。  王城の宝物庫や各公国で保管している貴重な宝飾品もあるにはあるが、国宝級のものだったり、貴族の政治的な思惑が絡んだりするため、そう簡単にスキルの素材として女子高生にホイホイ提供できるものではない。

 結果として、彼女のスキルは十全に生かせる『素材』が無く、宝の持ち腐れ――事実上の『死にスキル』と化してしまっていたのだ。


 そして、那須野 雄心の場合はもっと悲惨だった。一ヶ月以上、様々な環境で訓練と検証を重ねたというのに、彼のスキル『休憩所』は未だに発動方法すらわからず、どのような効果があるのか一切不明のままだった。身体能力も、厳しい訓練の末にようやく『一般の王国兵士並み』に底上げされた程度で、とても第一線で魔物と戦える戦力ではない。


 そういった国家的な事情とシビアな戦力評価があり、日向と雄心の二人は、各公国から指名を見送られ、半ば厄介払いされるように『遊軍(という名の事実上の戦力外通告)』にされてしまったのだ。


 だが、この決定に対して、静かに、しかし力強く異議を唱える者が一人いた。


「お待ちください、陛下」


 この会議に王の護衛兼オブザーバーとして参加していた近衛騎士団長、ジェームズだった。

 本来、各国のトップレベルが揃うこの会議において、彼に発言権は無い。しかし、現場で彼らを直接指導してきた武人として、どうしても一言言っておかなければ気が済まなかった。


「那須野殿のスキルには、間違いなく戦局を覆す可能性があります。人間である以上、兵士たちの体力や精神力には必ず限界が来る。だからこそ『絶対的な休息』が必要であり、真に休まるからこそ、人はまた立ち上がり、死地に赴くことができるのです! もし彼のスキルが戦場で機能し、兵士たちに完全な休息をもたらすことができたなら……これほど心強い力はありません!」

「……お前の武人としての考えはよくわかる、ジェームズ」


 アレクサンダー国王は、重いため息をついた。


「だが、百歩譲って今この瞬間に、那須野雄心のスキルが完全覚醒したとしよう。……それでも無意味だ。なぜなら、今の我々の最前線に、腰を下ろして『休憩する暇』などどこにあると言うのだ?」


 その冷徹な言葉に、ジェームズは唇を噛んだ。

 国王の言うことは、あまりにも正論であり、残酷な現実だった。

 王都や各公国の中心街はなんとか平穏を保っているように見えるが、前線はどこもかしこもカラクリ魔物の物量に押し潰される寸前で、限界が近い場所が多い。交代で休憩するシフトを組む余裕すらなく、誰かが持ち場を離れて身体を休めれば、そこから容易に防衛線に穴が空く。

 兵士たちの命をすり減らし、だましだまし戦線を維持しているのが今のセッテ王国の痛ましい実情だった。


「余とて、勝手に彼らを異世界から呼び出しておきながら、見限って戦場に放り出すような真似など本当はしたくない。だが、王国に出来る事、そして割けるリソースに限りがあるのもまた事実なのだ……業腹だがな」


 アレクサンダーは苦渋に満ちた表情で立ち上がった。


「他に異論は無いか? ……無いようだな。では解散とする。各代表は、この結果を各々の主へ伝えよ」


 疲労の色を濃く滲ませて退室していく国王の背中を、ジェームズは悲しいような、そして深く同情するような眼差しで見送ることしかできなかった。


***


~雄心side~


「――というわけで、君達三名は『遊軍』扱いとなってしまった。すまないッ!!」


 王城の訓練場の一角。僕達の所属先を決める運命のドラフト会議が終わり、その結果を伝えに来たジェームズさんが、今にも土下座しそうな勢いで僕たちに謝罪してきた。

 クラスメイトの大半は各公国への配属が決まり、今後の動きや現地の情報について、それぞれの担当官から意気揚々と説明を受けている。

 そんな中、僕と松島さん、そして弘前さんの三人は、ぽつんと隅っこに集められていた。僕たちはどこにも所属せず、自由に(悪く言えば勝手に)戦場をさすらい戦う『遊軍』という名のフリーランス勇者チームということになったのだ。


 弘前さんは無限成長スキルの都合上、戦場を転々とする方が良いという超ポジティブな理由による遊軍化だったが、僕と日向さんの場合は全く違う。配属先の指名がゼロで、育成枠からも漏れ、事実上王国から厄介払いされた『戦力外通告』だ。

 その事実について、ジェームズ騎士団長がこれ以上ないほど沈痛な面持ちで、今にも土下座しそうな勢いで僕たちに謝罪してきたのだった。


「わかってましたよ……」


 僕は遠い目をしながら呟いた。そりゃそうだ。毎日訓練で剣を素振りしてるだけで、肝心のスキル『休憩所』が一向に発動しない男なんぞ、どこの国も欲しがらない。プロ野球のトライアウトに一般人がやって来るようなものだ。


「いいから顔上げなよ、騎士団長のおじさん。ウチもこうなるとは薄々感じてたしね〜。全然気にしてないし!」


 一方、同じくリストラ枠の松島さんは、ギャル特有の底抜けのポジティブさでカラカラと笑っていた。彼女も自分が遊軍になる予感はしていたらしい。というのも、彼女の『デコレーション』の材料となる装飾品や宝石が、戦争のせいで職人が激減して全く流通しておらず、スキルを生かせる環境にないことを、訓練の過程で散々聞かされていたからだ。弾のない銃を渡されたようなものである。

 それに彼女のギャルファッションにはアクセサリーが一切無い。そういった所でも装飾品不足を実感していたのだろう。


「ま、お詫びってことで、練習用に王国が保管してたキラキラのデコ剣をもらえるみたいだし。これさえあればそこらの魔物には負けないっしょ。ウチら、簡単には死なないって!」

「……私の『ハック&スラッシュ』は、敵を倒せばドロップアイテムがランダムで出現する仕様になってる」


 松島さんの言葉に被せるように、横から弘前さんがボソリと呟いた。


「今までも訓練用の木人形を壊したら、たまにガラス玉とか綺麗な石ころがドロップしてた。実戦で強力なカラクリ魔物を倒せば、もっとレアな、デコレーションに使える宝石や金属のパーツがドロップするかもしれない。……その時は、日向にあげる」

「えっ、マジ!? なるっち超神なんですけど! おっしゃ、そんときはよろしくね〜!」


 キャッキャと喜ぶ松島さんに、無表情のまま小さくピースサインで応える弘前さん。そういえばこの二人、昴田学園という地獄にいた頃から、接点がなさそうな見た目なのにコソコソと話している姿をよく見かけた気がする。

 セッテ王国に来てからも二人で街に遊びに行くことが多かったみたいだし、波長が合うのだろう。


 って、ちょっと待て。弘前さんが敵を倒して、レアな宝石や素材をドロップさせる。それを日向さんが受け取って、装備にデコって強化する。強化された装備で弘前さんがさらに強い敵を倒し、よりレアな素材を落とす。

 ……あれ? これって、ハクスラ系ゲームにおける『最強の永久機関(ループ)』が完成してないか!?  もしかしてこの二人、遊軍のフリーランス組になったことで、とんでもない化学反応を起こすのでは……?


「……で、僕はどうするんだろ」


 最強コンビ誕生の予感を前に、僕は完全に蚊帳の外だった。そして一つの結論しか無い事に思い至った。


「僕は……まぁ、地道に戦いながらスキルの覚醒に向けて地道に努力するしか無いですよね。足手まといにならないように、なんとか頑張ってみます」

「那須野殿、松島殿……我々の不甲斐なさを受け入れていただき、本当に感謝する。だが、これだけは一つ擁護させて欲しい。アレクサンダー国王は、決して冷酷で非情なだけの主ではないのだ」


 ジェームズさんは、主君の苦しい胸の内を代弁するように語り始めた。彼によると、国王は本来とても優しく民想いの性格で、平和な時代であれば間違いなく歴史に名を残す名君になれたであろう人らしい。

 だが、運命は彼にあまりにも過酷だった。最初の悲劇は、国王の両親である先代国王と王妃の急死。対魔王戦線を自ら視察中、予想だにしていなかったカラクリ魔物の大群による奇襲に遭い、無念の戦死を遂げてしまったのだ。


 当時、まだ王太子であったアレクサンダーは、深い悲しみに暮れる暇もなく、権力委譲の準備すらろくに終わっていない状態で、混乱する国家をまとめるためにいきなり国王に即位しなければならなかった。まだ二十代前半という若さで、いきなり『倒産寸前のブラック企業の社長』を引き継がされたようなものである。

 しかも相手は対話不可能な魔王軍の災害。国を保つために、時には民や兵士を切り捨てるような非情な決断も強いられる。そうやって、若い国王は毎日血を吐くような思いで精神をすり減らし、今日までなんとか国を崩壊させずに保たせていたのだ。


「ですが、幸いなこともあります。陛下には、精神的な支えとなる存在がいるのです」


 ジェームズさんは少しだけ表情を緩めた。


「若くして嫁がれた王妃様が、陛下の最大の理解者であり、精神的な支柱となっておられます。激務と非情な決断で心がすり減り、限界を迎えると、陛下は私室で王妃様に思い切り甘えて、その傷を癒やしておられるのです。それがなければ、とうの昔に陛下の心は壊れていたでしょう」

「へぇ〜、あの偉そうなイケメン王様、裏では奥さんにバブみ感じてオギャってんだ。かわいいとこあんじゃん!」

「オ、オギャる……? とは、どういう意味だ?」

 

 日向さんがケラケラと笑う。現代のギャル語による容赦ない王室の威信崩壊である。そしてオギャるなんて言葉はこの世界には無いのか、ジェームズさんは困惑している。


「知らない方が良いと思いますよ、ジェームズさん。それにしても、オギャるとか笑い事じゃないでしょ。普通に考えて、過労死ラインをぶっちぎってて悲惨すぎるだろ……」

 

 僕は思わずツッコミを入れた。

 国の重圧を全て一人で背負い、家に帰って奥さんに泣きつくしかメンタルケアの方法がないなんて。そう考えたら、リストラされた僕たちの方がよっぽど気楽な身分かもしれないと、少しだけ国王に同情してしまった。


「……というわけで、君たちは遊軍となったわけだが」


 ジェームズさんは居住まいを正し、最後に一枚の羊皮紙と古い鍵束を僕たちに差し出した。


「これは陛下からの、君たちへの特別な命令書――いや、配慮だ。君たち『遊軍』には、セッテ連合王国全土のあらゆる公国、街、軍事施設への『無制限の通行許可』を与える。さらに、どこの軍にも縛られない独自の権限と、王都内にある家屋を君たちの『住居』として提供するとのことだ」


 ……え?

 どこへでも行けるフリーパスと、自由に使える自分たちの拠点?


「もちろん、魔王討伐のための活動であるという名目はあるが……事実上、君たちはどこの国の上司にも縛られず、自分たちの裁量で自由にこの世界で活動できるということだ。もっとも、軍の管轄外となるため活動資金は決して潤沢とは言えず、今後の生活費などについては自ら稼ぐ必要が出てくるがな」


 なるほど。お金については世知辛いみたいだが、その説明を聞いて、僕と日向さんと弘前さんは、思わず顔を見合わせた。戦力外通告の厄介払いだと思っていたら、実は一番自由で、一番ワクワクする『冒険者』の特権と拠点をもらったってことじゃないか。

 王様、やっぱりアンタ、めっちゃくちゃいい人だよ!!


 こうして僕たち三人の、資金難という現実を抱えつつも、限りなく自由な異世界サバイバル生活が幕を開けたのだった。

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