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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
クラス転移とチート覚醒編

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第4話 ファンタジーだと思ったらSFだった件。カラクリ魔物ってどういうこと!?

 僕たち昴田学園の生徒が、土砂崩れから間一髪でセッテ王国に異世界転移(強制召喚)させられてから、あっという間に一ヶ月という月日が過ぎようとしていた。

 この一ヶ月間、僕たちの日常は激変した。みんなそれぞれ与えられたチートスキルの使い方に順応し始めているようで、戦闘系のスキルを引き当てた連中は、基礎体力の向上からより実践的な対人・対魔物訓練へと移行しているらしい。

 不良の千鳥君の『スーパーバット』は、ただの金属バットかと思いきや、自由に形態変化でき、用途に合わせて長さを自在に変えられたり、無数のトゲを生やした凶悪な釘バットのような姿に変化させたり出来るというとんでもない可変武器へと進化した。大人しい図書委員タイプの弘前さんに至っては、『ハック&スラッシュ』のスキル効果で、訓練用の木人形を無表情のまま木っ端微塵に粉砕し続けるという、完全にバーサーカーと化している。


 で、肝心の僕はというと。未だに自分のスキル『休憩所』の使い方が、一ミリもわからないよ!!

 念じてみても、地面を叩いてみても、テントがポップアップするわけでもなければ、温かいお茶が入った急須が虚空から出現するわけでもない。ジェームズ団長からの「まだ覚醒の時ではないのですね」という熱い期待の眼差しが、最近ではもはや胃痛の種でしかない。


 そんな落ちこぼれの僕だが、生活面に関しては、すっかりセッテ王国での暮らしに馴染んでいた。というのも、この世界は現代日本と同じく『七日で一週間』『三十〜三十一日で一ヶ月』『十二ヶ月で一年』という、めちゃくちゃ親切なカレンダーで動いているのだ。

 もちろん曜日の概念も現代日本と全く同じで、土日はしっかりお休みだ。ブラック学園よりよっぽどホワイトな労働(訓練)環境である。


 休日の過ごし方についてだが、僕達を教育・訓練している近衛騎士団の教官たちからは、なるべく王城を出て、城下町である王都チェントロの街を遊んで回る事を強く勧められている。城の中の隔離された生活だけでは、この国の一般的な価値観や市民の生活レベルがわからない。実際に街の空気を吸い、市場や店で買い物をすることで、よりこの世界に愛着を持ち、馴染んでもらうという意図があるらしい。要するに『守るべき世界を知れ』という粋な計らいだ。

 お小遣い(という名の初任給)も王国から各個人の銀行口座にたっぷり支給されているので、よっぽど非常識なギャンブルや散財をしない限り、金銭的な心配は皆無だった。


 そして、抑圧されていた高校生たちが豊富な資金を与えられて自由な休日を過ごすとどうなるか。答えは簡単だ。見た目が激変するヤツが急増したのだ。

 最初は服装だった。中世ヨーロッパ風の世界観だと思っていたが、過去の転移者たちが残した技術革新の影響か、この世界は予想以上に縫製技術や染色技術が高い。街の仕立て屋に行けば、現代日本のTシャツやパーカーのような、動きやすくてバリエーション豊かな色合いの服が山のように売られているのだ。軍隊みたいなジャージか制服しか着ることを許されなかった反動か、クラスメイトたちは水を得た魚のように自分の趣味に合った服を買い漁り、思い思いのファッションを楽しむようになった。


 さらに半月もすると、今度は髪型が変わるヤツが出てきた。昴田学園は刑務所や少年院もかくやというほど校則が狂っており、当然ながら頭髪検査も異常に厳しかった。男子は一律で短いスポーツ刈りか丸刈り(少しでも前髪が伸びれば教師にバリカンで刈られる)、女子は肩までの長さに切り揃え、後ろで一つ結びにする以外は一切許されていなかった。もちろん髪染めは禁止。

 だが、この世界に来て半月も経てば、当然髪は伸びてくる。その結果、理髪店に駆け込み、自分の好みに合わせて髪型をアレンジするヤツが続出したのだ。服と同じく整髪技術も過去の転移者の影響で飛躍的に進歩しており、出来ない髪型はまず無い。むしろ、中には現代日本よりもはるかに優れている技術すら存在する。

 その最たる例が『髪染め』だ。日本で髪を染めると、脱色剤や染料で大なり小なり髪や頭皮を傷めてしまうものだが、この世界のカラーリングにはそれが一切無い。なぜなら、この世界の髪染めは『染めていない』からだ。

 どういうことかというと、魔力を含んだごく微細な『光を屈折させる粒子』をスプレー状にして、髪の表面にコーティングしているだけなのだ。この光の屈折作用を粒子製造中に魔道具でコントロールすることで、赤でも青でも金でも、思い通りの髪色に完璧に発色させることが出来る。髪を洗ってもコーティングは落ちにくく、専用の解除スプレーをかければ一瞬で元の黒髪に戻るという、チート美容技術。


 まぁつまり、日本よりも圧倒的にノーダメージで、気軽に髪色を変えることが出来るのだ。その結果、抑圧からの反動も相まって、クラスの半数以上がアニメのキャラクターのような派手な髪色へと変貌を遂げたのだった。


 僕? 僕は元からファッションにはそこまで興味が無かったから、休日はカフェでお茶をしながら、予備として無難なデザインの服を何着か買った程度だ。髪も特にはいじらなかった。

 元々僕の髪は少しくせっ毛で、それが個人的には気に入っていた。昴田学園の理不尽なバリカン校則のせいでその個性が奪われていたのだが、この世界に来て順調に髪を伸ばせたことで、ようやく『本来の僕の姿』が戻ってきたのだ。

 だから、これ以上手を加えてアイデンティティを迷子にする気は無かった。


 とまぁ、そんなこんなで非常に個性的(悪く言えばバラバラ)な容姿の集団になりつつあった我が勇者クラスだが、今日予定されている訓練は、今までのような実技や基礎教養の座学とは全く異なっていた。訓練場ではなく、座学の部屋に集められた僕たちに向かって、教官役の近衛騎士が重々しい口調で告げた。


「今日はいつものような実力向上のための実技訓練とは異なる。かなり座学寄りの、しかし最も重要な内容だ。皆、この世界にも慣れ、戦闘力もある程度形になってきた。そろそろ、我が国を――この大陸全土を脅かしている『魔王と魔物の正体』について、真実を教えてもいい頃合いだと判断した」


 空気がピリッと引き締まる。ここで、この世界における『魔物』とはそもそも何なのか、という前提について説明しよう。僕達はすでに初期の座学でその概要を学んでいる。

 

 魔物とは、動植物を問わず『魔力を糧に生きている生物』の総称だ。この世界に存在する普通の生物(人間や動物、植物)も大なり小なり体内に魔力を持っているが、それはあくまで副産物であり、生きるために絶対必要なエネルギーというわけでは無い。だが、魔物にとっては『魔力』こそが生きるために必須の栄養素なのだ。

 魔力を補給・摂取する方法は、他の生物を捕食して魔力ごと奪う肉食系、光を魔力に変換する光合成系、他の生物に寄生して魔力を吸い取る寄生系など、魔物によって異なり多岐にわたる。


 そして現在、セッテ王国をはじめとする大陸のあちこちに生息している魔物だが……なんと、彼らは元からこの世界にいた生物ではない。過去にセッテ王国を襲った、歴代の『魔王』たちが生み出し、置き土産として残していった『魔物の末裔』なのだそうだ。

 魔王が存在している期間は親機からのバフがかかっているのか、とんでもなく凶暴で強く、異世界から僕たちのような助っ人を召喚しなければとても太刀打ちできない。だが、親玉である魔王が消滅すると、残された魔物たちは急激に弱体化し、訓練を積んだ一般の兵士や傭兵でも対処可能なレベルに落ち着くのだという。


 面白い(と言っていいのかは微妙だが)のは、魔王の置き土産とも言うべき魔物たちは弱体化した後、討伐されたり他の魔物に襲われたりして適正な数まで減らされると、そのままセッテ王国の『生態系』に組み込まれてしまうことだ。つまり、魔王が出現する度に、新たな種類の魔物がばら撒かれ、セッテ王国の生態系はより多様に、より複雑怪奇になっていくのである。過去には肉食獣型の魔物、鹿や鳥の姿を模した魔物、植物と融合した魔物など、歴代魔王の性質によって様々な魔物が生み出され、そしてセッテ王国の自然環境の一部として定着していった。

 逆に、魔力を持たない普通の野生動物が自然界で生き残る領域は徐々に失われ、今ではペットや家畜として人間の庇護下で飼われているものしか存在しないのだとか。完全に『ファンタジー外来種問題』である。数百年おきに大規模な環境アップデートが入り、新モブが追加されるゲームの世界そのものだ。


「最初に、今代の魔王が生み出した新種の魔物を見せよう。既に我が国の兵士や傭兵たちの命懸けの尽力により、前線から色々と魔物の『残骸』を回収してある。今日はそれを皆に見せ、敵の性質を理解してもらう」


 ……ん? 今、騎士のおっさんは『残骸』って言ったか?  死体や死骸ではなく、『残骸』。なんか、生物に対して使うには妙に意味深で、無機質な言い方だな……。そんな疑念を抱きつつ、僕達は分厚い鉄の扉の先――魔物の残骸を保管・研究しているという巨大な倉庫へ案内された。

 そこに足を踏み入れた瞬間、僕たちは全員、言葉を失った。


「え?」

「なんだよ、これ……」

「ウソだろ、SFじゃないか……」


 口々に驚きの声を上げるクラスメイトたち。

 当然の反応だろう。倉庫のあちこちにブルーシートのような布の上に並べられていた魔物の残骸というのは、血や肉や骨ではなく、明らかに金属や無機物で構成された『壊れたロボット』のような姿をしていたのだから。


「皆が驚くのも無理はない。これが現在の魔王軍だ。そこに転がっている1メートルほどの四足歩行の金属の塊が『アント』。蟻に似た魔物で、現在最もよく見かける魔王の陸戦の主力と目されている。そして奥にある、同じ大きさで薄い金属板のような四枚羽を持つ魔物が『モスカ』。羽虫を模した空戦戦力の主力だ。見てわかるとおり、今代の魔王は、生物ではなく複雑な部品の組み合わせで動く機械的な魔物を生み出す存在だと確認されている。我々はこれらの魔物を、既存の肉体を持つ魔物と区別するため『カラクリ魔物』と命名している」


 ファンタジー世界にいきなりサイバーパンクなメカニックモンスターが投入されて、脳の処理が追いつかない。このカラクリ魔物だが、普通の魔物が魔力を溜めておくための心臓部である『魔石』の存在の仕方や魔力の伝達回路が、この世界に普及している『魔導具』の内部構造と驚くほど似通っているらしい。

 そのため、王国の魔導具研究者や物作りの専門家たちからは「このカラクリ魔物を解析・リバースエンジニアリングすれば、我が国の技術力が数百年は一気に進歩するぞ!」と、戦時中にもかかわらず不謹慎なほど熱狂的な声が上がっているらしい。逞しいことこの上ない。


「さて、敵の兵隊を見てもらったところで、いよいよ本題だ。これらを生み出している元凶、つまり『魔王の正体』について説明する。さらに奥の特別保管庫へ進むぞ」


 近衛騎士の案内に従い、僕たちは倉庫のさらに奥、厳重な魔法陣のロックが幾重にも施された特別室へと足を踏み入れた。

 部屋の中央には、光を吸い込むような『闇色』としか形容できない、不気味な半透明の結晶の破片が無造作に山積みにされていた。  破片とはいえ、一つ一つが車ほどの大きさがある。断面の形状から察するに、元々はたった一つの巨大な結晶体であり、それが砕け散ったものらしい。完全体であったなら、城と同等のあり得ない巨大さであったことが窺える。

 ただそこにあるだけで、周囲の空気が何倍にも重く感じられ、本能的な恐怖で肌が粟立った。


「これが魔王――の、残骸の『残りカス』だ」


 教官の言葉に、クラスメイトが首を傾げた。


「残りカス? どういうこと?」


 聞いたのは弘前さんだった。


「ここに転がっているのは、前回、つまり数百年前に我が国を襲った先代魔王の残骸だ。その正体は、宙に浮く巨大なクリスタルで、生きているときは脈打つように怪しく光り輝き、直視した者の精神を蝕むような禍々しい印象を与える姿だったという」


 クリスタルが魔王。つまり、意思疎通など最初から不可能な完全なる『現象』であり『災害』ということか。


「魔王は、この世界のものとは全く異なる異質で毒のような魔力を周囲に垂れ流す。この汚染された魔力こそが、魔物を生み出す源なのだ。魔王は、過去の転移者らの手によって破壊・討伐されたあと、王国は莫大な費用と時間をかけて、この砕け散った破片に内包されている異質な魔力を浄化し、我々でも使える『正常な魔力』へと徐々に変換していく。……なぜ、わざわざそんな危険なものを残し、そんな面倒な真似をするかわかるか?」

「まー、ふつーに考えたら、あんなヤバそうなもん、その辺にただポイ捨てして放置しとくわけにはいかないからじゃね? バイオハザード的な?」


 腕を組みながら答えたのは、松島さんだ。ちなみに彼女は現在、オレンジ色に染め上げた長いストレートヘアに、改造した制服(異世界風アレンジ)という、完全な異世界ギャルスタイルに進化を遂げていた。


「それもある。放置すれば二次災害の恐れがあるからな。だが、国を挙げて浄化する最大の目的は他にある。それは……『異世界召喚魔法』を起動させるためのエネルギー源にするためだ」


 その言葉に、僕たちは息を呑んだ。


「異世界から何十人もの人間を同時に召喚し、言語理解や特別なスキルまで付与する。そんな神の御業のような魔法を発動させるには、大陸中の凄腕の魔法使いを集めて魔力を絞り出しても、圧倒的に足りないのだ。その点においてのみ言えば、魔王が内包していた絶望的な魔力量は、非常に魅力的で有用だ」


 教官は、闇色のクリスタルを見つめながら淡々と語った。


「だから、魔王を倒した後は、その残骸から魔力を浄化し、巨大な魔力の塊として王城の地下深くに貯蔵し続ける。全ては、次に新たな魔王が現れ、国が存亡の危機に陥ったときのために取っておくのだ。……そして、この目の前にある輝きを失った石ころこそが、今回、君達を召喚するために魔力を全て使い切り、文字通り『残りカス』となった前回の魔王の成れの果てというわけだ」


 なんだそれ。背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。魔王を倒して、その魔力を何百年もかけて使えるように浄化し、次の魔王が現れたらその魔力を使って僕たちを異世界から喚び出す。

 究極のエコシステムと言えば聞こえはいいが、要するに、魔王の力に依存しなければ魔王を倒せないという、国を挙げた命懸けの自転車操業じゃないか。

 そして本当に、魔王はこの世界の人にとって話し合いの余地など一切ない『絶対的な災害』であるという意味が、心の底から理解できた気がする。言葉の通じない、魔力を振り撒くだけの巨大な無機物。説得も、手懐けることも不可能だ。


 魔王という脅威が世界の法則として永遠に繰り返される以上、セッテ王国は次の襲撃に備えて、今回の魔王も必ず倒し、その残骸エネルギーを確保しなければならないのだ。

 僕たちがここに喚ばれた本当の理由と、この世界が抱える狂気にも似たシステム。その重すぎる真実を突きつけられ、僕たちはただ沈黙するしかなかったのだった。

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