第34話 『楔の魔物』の洗礼
楔の魔物『ローザ』との対決準備を終えた僕達は、フィオーレ公国軍と共にローザが根を張っているピアンタ大森林の奥地へと向かっていた。
整然と行進する騎士や兵士たちの重厚な足音、そして馬車の車輪が落ち葉を踏みしめる音が森林に響き渡る。進軍自体は特に問題無く順調そのものだった。
ただ……個人的にひとつだけ、どうしても言いたい問題があるとするなら――。
「これ、車に乗ってる意味あるのかな……?」
僕、郡上君、大滝君の三人はそれぞれ能孫村で買った車に乗り込んで進軍していたのだが、周りの歩兵や馬車の歩調に合わせているため、出せているスピードは超がつくほどのノロノロ運転だ。具体的に言うと、徒歩以上・馬車未満といった速度である。アクセルをほんの少し踏んでは踏みしろを緩める作業の繰り返しで、ぶっちゃけ足が軽くシビれてくる。
「まあ、優秀な荷物持ちって事じゃね?」
「この大軍が何日もかけて行軍する。使える文明の利器は何でも使うの精神」
助手席と後部座席に乗っている日向と成美が、リアシートに積み上がった箱を見やりながらそんな事を言った。事実、僕達の車の荷台には兵士達が使う予備の物資や食料、医療器具がぎっしりと乗せられている。
僕達の車は戦闘時だけでなく、輜重――つまりは優秀な大型運搬トラック的な働きも大いに期待されているというワケだ。
「そういえば、白川さんも今回の作戦に参加しているんだよね?」
ここ最近は支援活動や薬調合に専念していた白川さんだが、今回は珍しく戦場近くまで同行するらしい。
「前みたいに、直接武器を持って戦闘に参加するわけじゃないらしいけどね」
「前線拠点近くで薬を作る役割なんだって~。ケガした人達を速攻で治療支援するんだってさ」
一応、僕たちも医薬品のストックは十分持ってきているが、これだけの大規模な討伐作戦ともなれば、現地で即座に強力な薬を作れる調合師を近くに配置しておきたいのだろう。
大滝君も似たような理由で、薬の材料となる植物の管理や供給をする重要な役目を担っている。僕たちは単に物資を運ぶ運転手としてついてきたわけではないのだ。
と、車内の会話で頭の中の情報整理をしてみたが、改めてこの作戦の規模の大きさと緊張感を実感させられた。
***
それから数日かけ、僕たちはついにローザが潜むポイントの手前までやって来た。
ここから先を超えれば、本格的にローザのテリトリーと言える危険領域に入る。
周囲の木々を見渡せば、すでにマシントレントの生息数が尋常じゃない密度で跳ね上がっていた。薄暗い森の奥から、機械の駆動音とギシギシという不気味な足音が絶え間なく聞こえてくる。
流石にこのまま突入するのはリスクが高いため、今日は手前に大規模な拠点野営地を設営し、しっかり身体を休めてから明日の早朝に一気に戦闘を開始することになった。
そして――運命の翌朝。
朝靄が立ち込める中、軍の指揮官が高らかに叫んだ。
「作戦開始!!」
『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
全軍の威勢の良い雄叫びとともに、ローザ討伐作戦の火蓋が切って落とされた。
作戦は至極単純だ。軍を大きく二手に分け、一つは周囲から群がる無数のマシントレントを引きつけて抑える足止め部隊。そしてもう一つが、最奥に潜むローザ本体を直接叩きに行く部隊。 僕達転移者組は、もちろんローザ本体を狙う後者の部隊に割り当てられている。
「よし、行こうか!」
「ウチらの本気、たっぷり見せつけてやろーじゃん!」
「初めての『楔の魔物』戦……気合いが入る」
「一気に駆け抜けるぞ。俺に続け!」
郡上君を先頭に立て、僕たちは鬱蒼とした森の奥へと一気に駆け出す。
途中、木々の隙間から襲いかかってくるマシントレントたちに対し、郡上君が手に持った薄い水色をした一輪の花を掲げた。彼が『花魔法』を発動させると、青白い冷気が一瞬で空間を包み込む。
「邪魔をするな!!」
「うわ、一瞬で氷が……!?」
襲いかかってきたマシントレントたちは、攻撃モーションのまま頭から足先まで完全にカチコチの氷漬けにされていた。
「この花は、この世界では冷たい印象を持たれていてな。杖代わりに触媒として使うことで、強力な氷魔法が放てるんだ」
「なるほど……! 完全に倒しきれなくても、動きを止めて走り抜けるだけなら圧倒的に有用だね」
こうして歩みを止めることなく最短ルートで突進を続けた僕達は、ついに森の木々がすり鉢状に途切れ、ぽっかりと開けた巨大な空間へとたどり着いた。
「これは……」
「デカッ! マジでデカすぎんじゃん!」
「写真で見るのと生で見るとじゃ、迫力がまるで違う……」
ローザの姿は事前に郡上君のスマホ写真で見せてもらっていたが、成美の言うとおり生で目の当たりにするとその圧倒的な巨躯に息を呑む。
息を呑むような大自然の緑の中に、高層ビル級のメカニカルな巨大バラがどっしりと鎮座しているという異質な光景。存在感と圧迫感が尋常ではない。
だが、僕たちが世界を救うためには、あの化け物を絶対に倒さなくてはならないのだ。
武器を構えて走り出そうとしたその瞬間、成美が異変に気付いた。
「……みんな、来る!」
ローザの太い茎に相当する金属装甲から、けたたましいモーター音とともに何かが大量に放たれた。
「トゲ!?」
「ケーブル付きの有線タイプだ。何か仕掛けがあるぞ!」
「……ってか、動きキモッ!? ウネウネと不規則に旋回しながら飛んでくるじゃん!?」
郡上君と日向の指摘通り、射出された金属のトゲは蛇のように空中でウネウネと軌道を変えながら飛来してきており、回避するのが極めて難しい。さながらアニメやゲームで描写される、追尾ミサイルかのよう。
だが、僕達もただ指をくわえて見ていたわけじゃない。迎撃という最高の形でそれらを防ぎ切る。
「フゥー! ダイヤモンドタマムシのデコ改造、完璧にいってんじゃん!」
「うん。 普通の刃物じゃ弾かれそうな強化金属でも、難なくスパッと切れる」
「僕の武器もデコを一から見直してもらったからね。ローザ相手にしっかり通用してよかった!」
僕はレーザーの光刃を纏わせた電気警棒を振り、迫り来る巨大なトゲを溶断しながら一閃していった。
今回の一戦に向けて、みんなの装備は大幅に強化されている。日向は能孫村で買った扇子を二本、新たな武器として改造。そこに『ダイヤモンドタマムシの羽』をデコレーション素材として組み込むことで、強烈な切断属性を獲得していた。ローザの強靱なトゲも、彼女の扇の一振りで紙のように切り刻まれていく。
成美の得物である双剣にも同様にダイヤモンドタマムシの羽をデコり、圧倒的な切れ味を付与。
そして僕の電気警棒は、単なるスタンガン的な使い方から脱却し、警棒の先端から高出力のレーザー刃を纏わせる仕様へと根本から改造してもらったのだ。その上でダイヤモンドタマムシの効果を乗せているため、あらゆる装甲を容易く切り裂くレーザーブレードと化している。
こうして僕たちが手前でトゲを切り伏せて対処している中、郡上君はというと――。
「今度はコイツの出番だ」
郡上君が取り出したのは、なんと能孫村で買った盆栽だった。しかも幹の一部が落雷で白く変色し、激しい焦げ跡が残っている風情ある一品だ。
その盆栽を、郡上君はまるで大型の大砲でも抱えるかのように脇にしっかりと構えた。
郡上君が構えた盆栽の幹に、バチバチと青白い火花が走り始める。落雷を受けたような傷跡が黄金色に輝いた――そう思った瞬間。
「……発射!」
なんと、盆栽の枝先からバリバリバリッ!! と凄まじい青白い電光が走り、極太の雷撃が直線状に放たれたのだ。
ドガンッ!! という落雷のような鼓膜を刺す破裂音が周囲に轟く。以前僕が使っていた電気警棒の出力とは比べものにならないほどの超高電圧だ。
通常のマシントレントには効きづらかった電気攻撃だが、この圧倒的な雷撃の威力前には関係なく、ローザの迫り来るトゲを次々とショートさせていく。
「郡上君、盆栽でそんなド派手な攻撃ができるなんて……!」
「これも『花魔法』の一種とされるらしくてな。この盆栽は『雷が落ちた松』をイメージして職人が加工したものらしい。一輪の花より大きい分、規格外の威力が叩き出せるというワケだ」
とまぁ、ここまでは各自の強化されたスキルと新装備で相手の第一波をしのぎ切ることに成功した。……だが、すぐに重大な問題にぶち当たる。
「……キリが無いぞ、これ……!」
ローザのトゲ攻撃が、まったく途切れる気配を見せないのだ。
「切り落とした端から、次のトゲが即座に超再生して生えてくるんだけど!?」
「無限再生とかマジで反則でしょ! 攻撃のスキが全然生まれないじゃん!」
どうやらあのトゲは内部で即座に自動生成・再生される仕組みらしく、いくらトゲを撃ち落とそうが、本体へ肉薄するためのスキが一切作れない。
攻めあぐねている間にも、他のローザ攻撃班の兵士達にじわじわと負傷者が増え始めていた。
そして、さらに最悪な事に――。
「……ん? ローザの頭から何か飛び出してきたぞ!?」
「あれ……コリエレ・モスカじゃね!?」
「待って、タルロを運ぶためのコンテナが付いてない。 明らかに全身武装してるやつ」
日向と成美が叫んだ通り、ローザの体内ハッチがいくつも開放され、大型の銃身やブレードで武装された状態のコリエレ・モスカが、まるで蜂の巣から飛び出す羽虫のように大量に出撃を開始したのだ。
「このタイミングで、大量増援……!?」




