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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
フィオーレ公国編

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第31話 川遊びと水着と、ドキドキアタック!?

 白川さんと大滝君の一件がひと段落し、ようやく落ち着きを取り戻した僕たちは、改めてよろず農園の施設を堪能することにした。


「ところで郡上君。盆栽に興味があったの?」


 先ほどから、腕を組んで食い入るように盆栽を見つめている彼に、僕は率直な疑問をぶつけてみた。

 郡上君の性格からして、こういう渋い趣味があっても不思議ではないが、それにしても熱心すぎる。


「まぁ、それもあるが……俺の『花魔法』に応用が効くんじゃないかと思ってな」

「花魔法の応用?」

「ああ。盆栽ってのは、ただ植物を鉢に植えるだけじゃない。限られた小さな空間の中で、枝のうねり、葉の広がり、根の張り方まで計算し尽くして『大自然の風景』を表現する芸術だろ? この植物の形をコントロールする美学というか、空間を支配する概念みたいなものが、花魔法の幅を広げるヒントになるんじゃないかと睨んでいるんだ」


 なるほど。単に花を媒介にして攻撃するだけでなく、植物の成長過程や形状そのものをイメージの力で精密に操る。それができれば、より複雑でトリッキーな魔法の使い方ができるかもしれない。

 郡上君はどうやら、どんな時でも強くなるためのストイックな探求心を忘れない人物らしい。


 すると、僕たちの会話を聞きつけたのか、作務衣を着て頭に手ぬぐいを巻いた『職人スタイル』のタヌぽんが短い足でトコトコと歩み寄ってきた。


「感心だポン。盆栽の真髄をそこまで理解している若者は――まぁ最近は増えてきているけど、まだまだ少ないポン。ちなみに、ここに展示されている盆栽で気に入った作品があれば、購入して持ち帰ることも出来るポン。値札はついてないけど、聞いてくれたらお答えしますポン」

「ああ、わかった。それじゃあ――あまり大きすぎないやつで」

「お任せあれだポン!」


 郡上君がタヌぽんと一緒に本格的な品定めを始めた、その時だった。


「お、いたいた~。ゆーっち、温室にいなかったから探したよ~」

「無事に合流できてよかった」


 入り口の暖簾をくぐって、日向と成美が姿を現した。二人の手には、レンタルした虫取り網と、透明なプラスチック製の虫かごが握られている。


「ごめんごめん、ちょっと色々あってこっちに来てたんだ。それで、虫取りの方はどうだった? 何かいい物でも見つかった?」

「うん。これ見て」


 成美と日向が、自慢げに虫かごを僕の目の前まで持ち上げた。

 中を覗き込むと、そこには親指ほどの大きさの虫が何匹もカサカサと動き回っていた。だが、ただの虫ではない。その羽は、まるで高級な宝石のようにギラギラと七色の光を放ち、ダイヤモンドのような硬質な輝きを反射しているのだ。


「うわっ、すごいなこれ! めちゃくちゃ綺麗じゃないか」

「でしょ? 森の奥の木の蜜に群がってたのを、一網打尽にしたし! 『ダイヤモンドタマムシ』って言うらしいよ。よろず農園の森にしか生息していない、激レアな虫なんだって」

「『デコレーション』の材料にもなるらしい。虫の羽が装飾のパーツになるなんて、驚いた」

「いやいや、なるっち。タマムシの羽って、元の世界でも昔から装飾に使われてたし。『玉虫厨子』って知らない?」


 得意げに解説する日向に、僕は歴史の授業の記憶を引っ張り出しながら答えた。


「あぁ、確か歴史の教科書に載ってた国宝だっけ。飛鳥時代くらいのやつ」

「そうそう! しかも、この異世界の休憩所でしか採れない虫の材料ともなると、デコレーションのスキルで使った時の効果にかなり期待が持てるなと思ってるし」


 日向の言う通りだ。休憩所特有の素材を使えば、僕たちの装備はさらに強力になるかもしれない。


「後でタヌぽんに頼んで、この羽をデコレーション用の素材に加工してもらうつもり。そーいう便利なサービスがあるんだって。楽しみにしててね、ゆーっち」

「うん。期待して待ってるよ」


 こうして、白川さんの騒動という大きなアクシデントはあったものの、各々が新たな発見やスキルアップのヒントを得た『よろず農園』での休暇は、無事に幕を閉じたのだった。


***


 翌日から、僕たちは各々の目的に合わせて別行動を取ることになった。


 大滝君とマーガレットさんは、自分たちの拠点であるピアンタへと戻っていった。大滝君曰く、よろず農園の大型温室でタヌぽんから熱帯植物の栽培や温実の仕組みについてみっちり学べたため、その知見をピアンタに建設予定の温室作りに早速フィードバックしたいらしい。

 長年のトラウマを乗り越え、自分の意見をはっきりと言えるようになった彼からは、以前のようなオドオドとした気弱さが消え、頼もしい農業の専門家としての自信が満ち溢れていた。隣で彼をサポートするマーガレットさんも、どこか誇らしげだった。


 そして白川さんは、有降町に移動した。目的は、最新設備が整った病院で、オーバードーズによる中毒症状の完治を目指すためだ。彼女が自らの意志で根本的な治療を受ける決意をしたことは、僕たちにとっても非常に大きな前進だった。

 さらになんと、その白川さんのサポートを行うため、郡上君も一緒に有降町へとついて行ったのだ。入院中の彼女の身の回りの世話や精神的な支えになるためらしい。

 驚くべきことに、そのために彼は有降町で新しく『自分の家』を買ってしまった。転移者割引で100Vという破格の値段とはいえ、一人の女子のサポートのためにためらいなく家を買う即決力。白川さんのため、完全に郡上君は有降町での生活の拠点を作るつもりらしい。

 「あくまであいつがまた馬鹿なマネをしないか監視するためだ」と本人は照れ隠しのように言っていたが、僕たちには彼の不器用な優しさが痛いほど伝わっていた。これは彼が自発的に行ったことだ。


 そして残された僕、日向、成美の三人はというと。


「ここが能孫川か」

「めっちゃきれーな川だし! 泳いだら超気持ちよさそうじゃね?」

「うん。水が透き通っていて、川底の小石までくっきり見える。それに、楽しく遊べる設備が完璧に整っているのもグッド」


 僕たちは、能孫村での休暇を全力で満喫していた。

 他のみんながそれぞれ目標に向かって色々と動いている中で、自分たちだけが能孫村に残り、呑気に遊んでいることには少なからず申し訳なさを感じる。だが、これには仕方のない理由があるのだ。

 僕たちのスキルの仕様上、僕が元の世界に戻ってしまえば、休憩所へのゲートは閉じられ、この空間にいるメンバーは全員閉じ込められてしまう。白川さんの治療が終わるまでは、マスターである僕がここに留まる必要がある。

 だからこそ、時間を無駄にせず能孫村のあちこちを探索し、このエリアの特性を知るためにも、こういうレジャー体験は必要なのだ……という、もっともらしい言い訳を心の中で反芻しておく。


 現在僕たちが訪れているのは、能孫村の中心を流れる清流『能孫川』だ。

 正確に言えば、ただの川ではなく、レジャー向けに完璧に整備された『河原の特設エリア』である。

 水着や浮き輪などの川遊び用品を扱うレンタルショップと売店が立ち並び、清潔で明るい更衣室とトイレ、温水シャワールームまで完備されている。さらに、面倒な火起こしから機材の準備、新鮮な食材の提供まで、すべてタヌぽんスタッフが一括でやってくれる至れり尽くせりの『手ぶらバーベキューサービス』もある。

 そして何より、このエリアの能孫川は川幅が広く、流れが非常に緩やかな浅瀬が続いているため、溺れるなどの事故のリスクが極めて少ない。まさに、川遊びにはうってつけの極上スポットなのだ。


「それじゃ、売店で水着を見繕ったら、着替えてこの場所に集合だし!」

「おっけ。水着の見せ合いだね。ボクもとびっきりのやつを選ぶ」

「いや、川って言ったら水着っていうより――」


 僕が自分の意見を言い切る前に、二人はキャッキャと笑いながら売店の中へと消えてしまった。

 まぁ、今すぐに話すことでもないし、僕も川遊び用の服を見つけてサクッと着替えてこよう。


 更衣室で着替えを済ませ、待ち合わせ場所の河原で待つこと十分前後。

 初夏の日差しが照りつける中、僕が一番乗りで石に座って待っていると。


「お待たせ、ゆーっち!」


 元気な声と共に、日向が現れた。僕は振り返り、そして、思わず息を呑んだ。

 日向が選んだのは、目に鮮やかなイエローの生地に、トロピカルなハイビスカス柄がプリントされた、結構派手なビキニだった。彼女のボディーラインが惜しげもなく披露されており、スラリと伸びた足が眩しい。

 その手のグラビア写真集や動画の過激な水着に比べれば露出は少ないものの――普段制服やラフな私服姿しか見ていない身近な女の子が、突然こんな布面積の少ない格好で目の前に現れると、健康な男子高校生としてはどうしても心臓がドクンと大きく跳ねてしまう。


「ボクも準備できた」


 日向の刺激に目を泳がせていると、今度は続けて成美が更衣室から出てきた。

 彼女が選んだのは、紺色を基調とした、いわゆる『スクール水着』に近いデザインのものだった。ただし、腰回りに小さな白いフリルがあしらわれており、小動物的な彼女の可愛らしさを強調するような、絶妙にあざとい柄の水着だ。

 日向のような派手な露出はないものの、身体にぴったりと密着した生地が彼女の華奢なラインを拾っており、これはこれで、やっぱり見慣れない水着姿は心臓に悪い。


「それでゆーっち。せっかく女の子が気合い入れて水着着てきたんだから、何か言うことは?」


 日向が腰に手を当て、少し挑発するように上目遣いで聞いてきた。


「う、うん。二人とも、すごく似合ってるよ。普段着ない格好だから衝撃が強いっていうか……ちょっと目のやり場に困るけど」

「なるほど。ボク的にはもっと過激なマイクロビキニとかの方が良かったと思うけど、ちゃんと興奮させたならよし」

「ちょっ、成美、変なこと言わないでよ!」


 僕が顔を赤くしてツッコミを入れると、二人はクスクスと笑い合った。

 しかし、成美はすぐに真顔に戻り、スッと僕の服装を指さした。


「それにしても――雄心のその服、何? 色気のかけらもない」

「いや、海じゃないんだし。川遊びって言ったらコレでしょ?」

「ゆーっち、それは偏見だし。川遊びでも水着でいーじゃん。なんでそんな、近所のコンビニに行くみたいなおじさんコーデなの?」


 僕の服装。それは、白無地のTシャツと、膝丈のハーフパンツだった。もちろん、売店で売っていた川遊び用の服なので、速乾性に優れ、水に濡れても重くならない特殊な仕様の服なのだが、どう見てもリゾート感のある水着ではない。

 僕の中では、『田舎の川遊び』と言ったら、虫取り網を片手にTシャツと短パンのままザブンと川に飛び込む、あのノスタルジックなイメージがあった。だから迷わずこれを選んだのだが、どうやら今時の女子高生である日向と成美としてはあり得ない選択だったらしい。


「ま、ウチらの意見を強要する必要も無いか。ウチらはウチらで可愛い水着着れたし。準備が出来たから、早速遊ぶし!」

「うん。ボクらの魅力を、雄心にもっと伝えるチャンス」

「魅力って……ただ遊んで、楽しかったねで済む話だよね?」


 僕の不安をよそに、二人は楽しそうに川へと向かっていった。


 ということで、僕たちは澄み切った冷たい川に飛び込み、泳いだり、浮き輪でぷかぷか浮かんだり、タヌぽんスタッフが用意してくれたスイカでスイカ割りをしたりと、思う存分水遊びを満喫したのだが……。

 なんか、二人の距離感がいつもよりやけに近い気がする。

 

 僕が水をかければ日向は「きゃー!」とわざとらしく悲鳴を上げて僕の腕に抱きついてくるし、浮き輪に乗った成美は「流される」と言って僕の背中にピタリとくっついて離れない。いつもよりもベタベタくっつく機会が異常に多いのだ。

 しかも水着での川遊びなので、濡れた素肌同士が直接触れ合う場面が多く、その度に僕の心拍数は跳ね上がり、変な汗が止まらなくなっていた。ラブコメの主人公って、いつもこんな過酷な精神状態を強いられているのか。


 そんなドキドキの川遊びを終え、終盤はお待ちかねのバーベキューの時間だ。河原に設置された立派なバーベキュー台には、すでに炭火が赤々と起こされており、分厚い肉や新鮮な野菜が山盛りに用意されていた。


「熱っ! ちょっと、油跳ねたし! ぎゃー、火の粉が飛んでくるー!」

「ボクも無理。熱気で肌がジリジリする。……こんなんなら、Tシャツ買っておくべきだった」


 トングを持とうとした二人だったが、網の上に肉を乗せた瞬間、ジュワッという音と共に脂が落ちて炎が舞い上がり、悲鳴を上げて後ずさってしまった。

 水着を着て肌の露出面積が多い日向と成美は、火の粉や油はねの恐怖で、バーベキュー台に近づけないでいるのだ。


「ほら見ろ。まぁ、ここは僕に任せてよ。一番焼くのに向いてる、防御力高めの格好してるのが僕だからね」


 僕はトングを受け取った。Tシャツと短パンで肌の露出が少ない僕が自然と調理担当になる。こういう実用性の面では、僕の選択は間違っていなかったのだ。


「さすが雄心。頼りになる。お肉、ミディアムレアでよろしく」

「あ、ウチは焦げ目がしっかりついてる方が好きだし!」

「はいはい、わかってるよ」


 炭火の香ばしい匂いと、タレの焼ける匂いが食欲を激しく刺激する。

 僕がせっせと焼き上げた肉や野菜を、安全圏にいる二人が美味しそうに頬張り、舌鼓を打つ。川遊びでペコペコになったお腹には、たまらないご馳走だった。


 紙皿に乗せた肉をモグモグと食べていた成美が、ふと動きを止め、何かを思い出したようにポンと手を打った。


「そういえば、あの事を忘れてた」

「あの事? 何かやり残したことでもあったっけ?」

「ピアンタ大森林で回収した、マシントレントの死骸」


 成美の言葉に、僕はハッと顔を上げた。


「そういえば、そんなのもあったな……」


 それは、僕たちがピアンタ大森林の入り口に足を踏み入れた時のこと。突如襲いかかってきて、再会した郡上君と白川さんが倒したカラクリ魔物のことだ。ファンタジー世界の植物であるはずのトレントが、なぜか機械のパーツと融合していた不気味なモンスター。

 あの時倒したマシントレントの死骸は、フィオーレ公王が調べたいと求めれば提供する約束になっていたが――公国側からはその後何も言われることもなく、すっかり僕のアイテムバッグの中で肥やしと化していたのだ。


「あれ、この暇な期間を利用して、ボク達で分析してみない?」

「確かに。白川の治療がいつ終わるかわからないし、ただ遊んで待ってるだけじゃなくて、その間にウチらで出来る事をやるのは全然アリだし!」


 日向も乗り気で賛同した。


「なるほど。よろず農園に持ち込めば、詳しい分析が出来るかもしれないね。フィオーレ公王も発生条件がわからず困っていたようだし」


 なぜ、普通の木がある日突然カラクリ魔物になってしまうのか。その謎を僕達の手で解き明かす必要があるのかも知れない。


「よし、決まりだ。明日はみんなで、もう一度よろず農園に行こう!」


 川のせせらぎを聞きながら、僕達の次なる行動方針が静かに決まったのだった。

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