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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
フィオーレ公国編

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第24話 一触即発のVIPルームと、新エリア

「大滝君、大丈夫?」

「う、うん……。迷惑かけたね……」


 大滝君が倒れたと聞き、僕、日向、成美の三人は急いで彼が滞在している上の階の部屋へと見舞いに訪れていた。室内には、すでに駆けつけていた郡上君とマーガレットさんの姿もあった。

 それにしても、部屋に足を踏み入れた瞬間に僕は目を疑った。


(……いや、これ本当にVIP用の部屋か!?)


 豪華な木造りのツリーハウスだったはずの室内は、足の踏み場もないほど無数の植木鉢で埋め尽くされていたのだ。むせ返るような土の匂いと、植物の青臭さが充満している。

 部屋のあちこちには魔導具化されたテラリウムが設置され、怪しげな光を放っていた。どうやら温度や湿度を完璧にコントロールできるプチ温室のようなものらしく、大滝君がプライベートな睡眠時間を削ってまで、狂気的な情熱で植物の生育条件探索や栽培に精を出していたことがありありと窺えた。


「大滝さん、やはり大滝さんのお役目にもっと人員を増やした方が……」


 ベッドで青白い顔をしている大滝君を案じ、マーガレットさんが控えめに提案する。しかし、大滝君は力なく首を横に振った。


「いや、それには及ばないよ。おれがやっている事は半分以上、カラクリ魔物との戦いに関係ない、個人的なことなんだ。そんな事に、公国の貴重な人員を割いてもらうなんてできないよ」


 マーガレットさんの厚意を頑なに拒否する大滝君。あまりにも自己犠牲的なその態度に、郡上君が眉をひそめて何か言いかけた――まさにその時だった。


「大滝が倒れたんだって?」


 バタンッ! と乱暴に扉が開かれ、ずかずかと足音を立てて白川さんが部屋に入り込んできた。

 見舞いに来たにしては、彼女の目には一切の心配の色がない。それどころか焦点の合っていない虚ろな瞳で部屋を見回すと、白川さんは血走った目で大滝君を睨みつけ、苛立ったように自分の腕をガリガリと掻き毟りながら怒鳴りつけた。


「あたしが頼んだ草、用意できてるんでしょうね?」

「う、うん……。机の引き出し、上から三段目にあるよ……」


 大滝君が震える指で机を指さすと、白川さんは舌打ち交じりに踵を返し、一直線に机へと向かおうとする。

 だが、その行く手を塞ぐように、郡上君が立ちはだかって怒鳴り声を上げた。


「おい、白川! 大滝が倒れたんだぞ! 少しは心配位したらどうだ? それに、大滝が言っていた『個人的なこと』って、お前がらみの事じゃ無いのか!?」


 郡上君の怒号が部屋に響き渡る。だが、白川さんは全く悪びれる様子もなく、鼻で笑って彼を睨み返した。


「だったら何? あたし別に、そいつに強制したわけじゃ無いけど? 大滝が自分で『できる』って言うから、信用して頼んだだけ。あたしはその約束に則って、自分の薬の材料を引き取るだけだから。どいて」

「だからってなぁ! コイツがどんな無理をしてそれを作ってるか、お前だって分かってんだろ!」


 郡上君が白川さんの腕を強く掴む。白川さんがそれを乱暴に振り払う。

 そこからはもう、激しい口論の嵐だった。互いの不満と苛立ちがぶつかり合い、VIPルームは一瞬にして一触即発の修羅場と化してしまった。


 その惨状を少し離れた場所から見ていた僕たちは、思わず顔を見合わせた。


「ねぇ、ちょっとこれは……」

「予想以上にギスギスしてるし。見てるこっちまで胃が痛くなりそうなんだけど」

「うん。パーティー崩壊の典型的なパターン。頭を冷やす時間が必要」


 日向が呆れたようにため息をつき、成美が冷静に状況を分析する。

 やっぱり、二人もそう考えるよな。このままじゃカラクリ魔物と戦う前に、フィオーレ公国組の人間関係が完全に崩壊してしまう。

 となると、あの手を使うしかない。僕はそっとマーガレットさんの側に寄り、小声で尋ねた。


「マーガレットさん。フィオーレ公国として、あの三人が抜けても大丈夫な期間ってどれくらいですか?」

「休みを取るということですか? それでしたら、予想外の事態が起きない限り、最低でも一週間はカラクリ魔物を食い止められると思いますが……」


 うん、一週間あれば十分だ。

 僕はコクリとうなずくと、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな郡上君と白川さん、そしてオロオロしている大滝君に向かって、よく通る声で呼びかけた。


「ねぇ、僕のスキルのことは知ってるでしょ? 今からみんなを僕の『休憩所』に招待するから、一週間くらい休まない?」


 ピタリ、と口論が止まる。

 三人の視線が一斉に僕へと向けられた。


「ああ、噂は聞いてるよ。日本の街を再現した空間なんだろ? 休みを取れるなら行ってみたいなぁ……」

「まぁ、どうしてもって言うなら行ってあげてもいいけど?」

「だが、俺たち三人が一気に抜けたら、そうなるとフィオーレ公国軍の負担が……」


 大滝君と白川さんからは、予想通りあっさりと承諾が取れた。だが、責任感の強い郡上君だけはまだ懸念を示して渋っている。

 そこへすかさず、マーガレットさんから見事なフォローが入った。


「公国軍でしたら、一週間程度であればカラクリ魔物に十分対応出来ます。そもそも皆様がいらっしゃる前までは、公国軍だけで戦線を維持できていたのですから。意外とこの国の軍って、やるときはやるんですよ?」


 マーガレットさんが茶目っ気たっぷりにウインクをして見せると、郡上君は毒気を抜かれたように息を吐いた。


「そうか。……まぁ、一週間であれば……甘えさせてもらうか」


 ということで、見事に三人からの承諾が取れた。

 それぞれが手持ちの魔石を準備して資金の原資を整え、準備を終えたところで、僕は有降町へのゲートを開いた。

 光を放つ空間の裂け目。僕は、郡上君、白川さん、大滝君、そして一緒に同行することになったマーガレットさんを連れ、ゲートの中へと足を踏み入れた。


***


「すげぇな……」

「本当に、日本に帰ってきたみたいだ……」

「ふーん。結構楽しめそうじゃん」

「これが、大滝さん達の世界の風景なんですね」


 ゲートを抜け、有降町の駅前広場に降り立った瞬間、フィオーレ公国組の四人から感嘆の声が漏れた。

 見渡す限りの舗装されたアスファルト、近代的なデザインの駅舎、そして整然と並ぶ街路樹や看板。森の匂いも、魔物の気配も全くしない、人工物だけで構成された景色。魔法と巨木のファンタジー世界から、見慣れた現代日本の風景への唐突な切り替わりは、彼らにとって凄まじいカルチャーショックだったに違いない。

 大滝君はキョロキョロと周囲を見渡し、白川さんですら少しだけ虚ろな目が輝いている。


 そんな感動の空気の中、パタパタと羽音を立てて見慣れたシルエットが飛んできた。


「いたいた。マスター、お知らせがあるッポ」


 有降町のハト型マスコット――不動産屋のハトピーだ。突然現れた喋る鳥に郡上君たちがギョッとしているのをよそに、ハトピーは僕の肩に止まって首を傾げた。


「お知らせ……? なんかあったの?」

「新しいエリアが開放されたッポ。駅から電車に乗れば行けるから、ぜひ見てきて欲しいッポ」


 言うべき事だけを一方的に伝えると、ハトピーは再び不動産屋の方へ帰っていった。

 それにしても、新エリアか。有降町はただでさえ広大な日本の街を再現しているのに、電車に乗って行ける別のエリアまで追加されたとなると、テンションが上がらないわけがない。


「どうする? 僕としては行ってみたいけど……」

「そうだよね~。ウチもめっちゃ気になるし!」

「とりあえず、あの三人の意見を聞いてみるべき」


 日向、成美と顔を見合わせてから、まだ街の光景に圧倒されている郡上君たちに視線を向けた。


「新エリア? そうだな――俺たちが来客第一号になるんだよな?」

「そうだね……。那須野君達も行ってないエリアって、ちょっと気になるし」

「後であたしらだけ、この町に戻ってきてもいいしね。先に行ってみるのも悪くないんじゃない?」

「わたくしも少し気になります」


 ギスギスしていたさっきまでの空気が嘘のように、四人の意見もあっさりと一致した。どうやら『日本への帰郷』という非日常感が、彼らの張り詰めていた糸を少しだけ緩めてくれたらしい。


 と言うことで、僕達は駅に向かい、新エリアへ移動することになった。改札の向こうで、一体どんな景色が待っているのだろうか。

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