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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
フィオーレ公国編

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第23話 おませな公王の孫娘

「初めまして。フィオーレ公王エステル・イワムラ・フィオーレの孫娘、マーガレット・イワムラ・フィオーレと申します。皆様のご活躍はセッテ国王からの連絡で存じております」

「それはどうも……。あ、那須野 雄心です」

「松島 日向で~す。よろしくね、マーガレットちゃん!」

「……弘前 成美」


 僕達がそれぞれ手短に自己紹介を終えると、マーガレットさんはふわりと可愛らしく微笑んだ。


「よろしくお願いします。ではこれから、皆様をピアンタ滞在中にお過ごしいただくお部屋へご案内します。あ、そうそう」


 言いかけて、マーガレットさんは振り返り、僕達の後ろに控えていた大滝君へと顔を向けた。


「大滝さん。実は、以前からお話ししていた温室の用地確保が出来そうなんです。申し訳ありませんが、ちょっと下見に行っていただけませんか?」

「え、ま、まぁいいですけど……」

「ありがとうございます。地図はこちらです。歩いて30分程度の所にありますから」


 地図を受け取った大滝君は、戸惑いながらも僕達に軽く会釈をし、謁見の間を去っていった。

 大滝君を見送った後、僕達はマーガレットさんの案内で宿泊する部屋に向かった。空中に架けられた橋を渡る道中、フィオーレ公国について詳しい話をマーガレットさんから聞くことが出来た。


「祖母は公王としてしっかり公務に励んでおりますが、実は為政者というよりも、学者気質なところが強いんです」

「そうなんですか。ということは、何かすごい研究成果が?」

「はい。植物の品種改良を得意としています。若い頃から研究を重ねていて、あまり土壌を選ばず、かつ圧倒的に収穫量が多い作物の品種を次々と生み出してきました。……今、セッテ王国に魔王が現れても国全体で食糧危機が訪れていないのは、祖母が開発した品種のおかげなんです」


 なんとあのエステル公王、めちゃくちゃ国にとって重要な働きをしていたのか!

 考えてみれば、王都チェントロにいた時から、街の食料品店やレストランで食材が品薄になっている様子は全く無かったが……その安定供給の謎が、こんなところで解けてしまった。


「特に、獣の民からの感謝の声が多いですね。あそこは牧畜が盛んで、家畜の餌となる穀物はほとんどフィオーレ公国から輸出していますので……」

「なるほど、人間だけで無く家畜の食料事情まで丸ごと賄えているのですか」

「はい! ちなみに私の両親は肥料の研究をしていて、祖母が開発した品種の能力を十分に発揮できるようにしています。祖母の品種と、両親の肥料。この二つの研究こそが、今のセッテ王国の食料を根底から支えているのです」


 マーガレットさんは誇らしげに胸を張ってそう教えてくれた。

 そんな感心するような話をしているうちに、目的の宿泊施設へと到着した。


 案内された場所は、ピアンタ城のすぐ隣にある巨大な木に造られたツリーハウスだった。外観は謁見の間の建物を少しシンプルにしたような見た目だが、一目でわかるほど上質で豪華なことに変わりは無い。

 中に入ってさらに驚かされた。広い室内には立派なベッドが三つ並んでいる他に、なんと風呂も水洗トイレも洗面台も完備されているのだ。こんな高所にある木の上なのに、どうやって上下水道を繋いでいるのか不思議で仕方ない。


「このツリーハウスは、フィオーレ公国を公式に訪問されたVIPの方がお泊まりになる来賓用の施設です。ちなみに、大滝さん達フィオーレ組の三人は、ここより少し上の枝のお部屋に泊まっていますよ」

「なるほど。どおりで、ボク達が最初に寝泊まりした部屋と雰囲気が似ていると思った」


 成美の指摘通り、僕達がセッテ王国に転移させられて一番最初に生活していた部屋とグレードが似ている。どちらも『外国や他の公国からのVIPを泊める』という目的が同じだからだろう。

 ただ、ベッドが三人分用意されている点と、家具や壁紙がフィオーレ公国らしく美しい花や植物をあしらったデザインであるという点は大きく異なるが。


 すると、マーガレットさんが少し得意げな顔をして笑った。


「それと、セッテ国王からの連絡ではハッキリと明言されていませんでしたが……皆様の『関係性』については、わたくし、ちゃんとお見通しですよ? これでも13歳、もうすぐ立派な大人ですから! なので、あえて同室で過ごせる三人部屋をご用意いたしました!」


 えっ、と僕達三人は思わず顔を見合わせた。

 隣を見ると、日向は『ナイスだし!』と小さくガッツポーズをしていて、成美は無表情のままコクコクと深く頷いている。いや、君たち否定しないのか。

 一体僕達のどんな関係性を想像しているんだと赤面しつつ……というか、マーガレットさん13歳だったのか……。小柄だし、見た目的にはもう2~3歳くらいは若いと思っていた。


「ところでさ~、マーガレットちゃん。一つ質問いい?」

「はい、なんでしょう?」


 ここで、ベッドのふかふか具合を確かめていた日向が、ふと真面目な顔で質問を投げかけた。


「もしかしてさー、大滝に『聞かれたくない話』があったりしない?」

「……ッ。なぜ、そう思われたのでしょう?」

「さっき、大滝に温室の下見の頼み事をした時さー。なんか、ウチらから彼を『遠ざけたい』って感じがしたんだよねー。まぁ、頼んだ仕事の内容自体は本当なんだろうけどさ」


 日向の直球な指摘に、マーガレットさんは観念したように、ふう、と深くため息をついた。


「……おっしゃるとおりです。松島さんは鋭いのですね。実は皆様に、他でもない大滝さんについて頼み事をしたいんです」 「頼み事、ですか?」

「はい。ご存じかも知れませんが、大滝さんのスキル『植物作成』は、自由自在にあらゆる植物の種を生み出すことができる力です。ですが、あくまで生み出せるのは種だけで、それを実際に生育させるための土壌や水分などの条件は、彼自身の手で見つけなければならない仕様なのです。わたくしは大滝さんの植物の生育条件を探す手伝いをしているのですが――どうやら大滝さんは、わたくし達が把握している以上に、かなりたくさんの仕事を一人で抱え込んでいるようなのです」


 さらにマーガレットさんは、心配そうに眉をひそめて続けた。


「わたくしはなるべく彼の助けになるべく協力を申し出ました。ですが、大滝さんからは『個人的な事だから』と言って、抱えている栽培の半分以上の仕事を、決してわたくしに見せようとも、頼ろうともなさらないのです」

「なるほど……。日向、成美、ちょっといい?」


 僕は日向と成美を部屋の隅に呼び寄せ、マーガレットさんに聞こえないよう小声で話し合った。


(これってさ、間違いなく『そういうこと』だよね?)

(うん、絶対そうだし。大滝が隠してる『個人的な事』って、白川絡みのヤバい薬の栽培の事だよね?)

(同意。白川に渡すバーサクドラッグの材料を作るために、睡眠時間削って無理してる。大滝の目の下にできていた酷い隈は、それが原因)


 日向と成美の推測は、僕の考えと完全に一致していた。

 

 ただ――そうだとすると、一つ大きな疑問が残る。

 白川さんは、すでに完成したバーサクドラッグを飲んで戦っていた。つまり、原料となる植物の栽培自体はすでに成功しているのだから、生育条件を探るフェーズは終わっているはずなのだ。

 もしかしたら育てるのが異常に難しいのかもしれないが、条件さえわかってしまえば、あとはルーチンワークとして育てられるはず。一人で寝る間を惜しむほど、膨大な作業量になるわけがない。だとしたらマーガレットさんの助けを拒んでまで、一人でボロボロになるほど抱え込む理由がわからない。


(――もしかしてバーサクドラッグ以外の、別の薬の材料まで作らされている……?)


 嫌な予感が、背筋をスッと撫でた。

 僕達が密談を終えて向き直ると、マーガレットさんは切実な瞳で僕達を見つめてきた。


「とにかく、これ以上大滝さんの負担が増大すると、いつか必ずお身体を壊してしまいます。同じ故郷からいらした皆様からも、彼のことをどうか気にかけていただけないでしょうか?」

「ええ、わかりました。僕達も彼の様子を注意して見ておくようにします」


 僕が頷いて約束すると、マーガレットさんはホッとしたように胸を撫で下ろした。


 ――だが。マーガレットさんのその切実な心配は、最悪の形で的中することとなる。


 翌日。

 大滝君が、過労で倒れたのだ。

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