第21話 壊れた同級生たち
相性最悪のマシントレントを前になすすべがない僕達の前に飛び出してきたのは、同じクラスメイトの白川 麻葉さんだった。
紫色の髪を全体的にゆるいウェーブにしていて、服装はフィオーレ公国によくある花柄のシャツとショートパンツ。その上から、木の皮で出来た公国独自の軽鎧を身につけている。
戦闘装備としてはごく普通に見える。だが――その目が、完全に虚ろだった。
今でも喉の奥から漏れ聞こえている獣のような唸り声と振り乱した髪型のせいで、何かしらの狂気に取り憑かれているかのような異様なオーラを放っている。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」
白川さんは鼓膜を裂くような絶叫を上げると、手に持った手斧を振りかぶりながら一気にマシントレントへと距離を詰めた。距離を詰められたマシントレントは魔法を出せる距離ではないと悟ったのか、極太の枝をムチのようにしならせて白川さんを強打する。
だが、白川さんはその痛烈な打撃をお構いなしに受けながら、一切怯むことなく斧を深く振り下ろした。
ベキベキベキッ!!
強固な樹皮が裂け、内部の魔導回路が露出する。すると白川さんは、露わになったその配線を素手で鷲掴みにし、バチバチと散る火花や感電を一切気にすることなく、肉が焦げる嫌な臭いを漂わせながら、ブチブチブチッと強引に引きちぎったのだ!
致命的な回路を絶たれたマシントレントの一体が、駆動音を停止してドスンと地に伏せる。だが……。
「ちょ、ちょっとこれは……!」
「痛々しすぎっしょ……」
「……ダメージ度外視のゴリ押し。見てる方がキツい」
僕達三人は、その壮絶な戦い方に思わず息を呑んだ。
白川さんの身体は、さっき枝でバシバシと叩かれたため、あちこちに酷い打撲の腫れや裂傷ができている。手は配線を無理やり引き抜いた影響で、痛々しい火傷の跡が残っていた。
ここに現れた時の様子といい、戦い方といい、白川さんの状態は明らかにおかしい。
「……って、まだ二体いるんだった!」
白川さんのあまりに無茶な戦い方に気を取られてしまっていたが、マシントレントは全部で三体。まだ二体も残っている。
僕達が慌てて残りの二体に対処しようと構え直した、その時。
白川さんが飛び出してきた森の奥から、突如として巨大な氷の塊が飛来し、あっという間に二体のマシントレントをガチガチの氷漬けにしてしまった。
「また無茶な戦い方を……!」
「え……郡上君?」
森から姿を現したのは、長身で、花柄のローブを身に纏った真面目そうな男子。白川さんと同じくクラスメイトの『郡上 結人』君だった。
郡上君は手に水色の花を持っており、それをマシントレントに向けている。おそらく、あの花を媒介にして氷魔法を放ったのだろう。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーーーーーーーーーーーーーー!!」
凍りついたマシントレントに対し、白川さんは容赦なく斧を叩き込んだ。表面が氷に覆われたことで斬撃が通るようになったらしく、内部配線まで完全に粉砕するほどのダメージを与えた。
こうして、僕達を苦しめた三体のマシントレントは全て沈黙した。
「あ゙…………」
「おっと。ったく、薬が切れたらコレだからな……。それより久しぶりだな、那須野、松島、弘前」
「あ、うん。久しぶり……」
戦闘が終わった直後、白川さんはまるでスイッチが切れたかのようにガクンと倒れかけた。そこを郡上君がすかさず駆け寄り、上手く抱き留める。
そんなギリギリの状態で普通に話しかけられたものだから、僕はつい呆気にとられたような声で返事をしてしまった。
「お前らがフィオーレに来ることは、セッテ王国の国王からの連絡で知ってた。これからピアンタに向かうんだろ? 俺が案内するよ。ついでに馬車に乗せてくれると嬉しいんだが」
「それはまぁ、いいけどさ」
日向が少し戸惑いながらも、僕達の考えを代弁してくれた。
「悪いな、白川がこういう状態だからな。それと、倒したマシントレントを回収できるんなら回収して欲しい。なるべく研究素材を多く確保せよと、公王からお達しが出てるんでな」
ということで、僕のアイテムボックス仕様のリュックにマシントレントの残骸をごっそりと回収し、僕達は郡上君と気絶した白川さんを馬車に乗せ、再び公都ピアンタへと向けて出発した。
***
「白川の戦い方を見て驚いただろ? 俺も、その戦い方はやめろっていつも言ってんだけどな……」
「ほんとーだよ。白川、一体どしたん? あの戦い方、ヤバすぎっしょ」
馬車の中で、日向のストレートな疑問に郡上君がため息交じりに答えた。
「白川のスキルは『薬品作成』。材料さえ揃えれば、あらゆる調合過程をすっ飛ばして医薬品を作ることが出来るチートスキルだ。だが……こいつは『バーサクドラッグ』っつー劇薬を作り出した。意識を全て戦闘に向け、痛覚を完全に麻痺させ、筋力を限界まで引き上げる薬だ。コイツはそれを飲んで戦ってんだよ」
「色々疑問はあるけど……少なくともそのバーサクドラッグ、どう見てもヤバいバフアイテム。そんな危ないものの原料が、この世界にあるの?」
成美の指摘はもっともだった。元の世界でも危険な薬の原料になる大麻やケシみたいな植物が存在していたように、この世界にもそういった危険な植物がないとは考えにくいが、都合よく見つかるものだろうか。
「バーサクドラッグの原料は、この世界には本来存在しない。原料を『作った』のは、ピアンタにいる大滝だ」
『大滝』とは、僕達のクラスメイトである『大滝 実』君のことだ。白川さん、郡上君、大滝君の三人が、ここフィオーレ公国に所属となったクラスメイト達らしい。
「大滝のスキルは『植物作成』。色々な植物の種を作成できるだけでなく、この世に存在しない大滝の想像した『架空の植物』の種すら生み出せるそうだ。そのスキルを使って、白川にバーサクドラッグの原料を提供している」
「えぇ……? 大滝君、なんでそんなことを……」
「さあな。俺も理由を聞いているが、ハッキリとは答えてくれなかったさ。ただ、俺がいくら原料を白川に渡すのを止めろと言っても、止めるつもりは無いらしいがな」
ちなみに、郡上君のスキルは『花魔法』。花を仲介して強力な魔法を放つことが出来るそうで、さっき手に持っていた花もスキルを使用するための触媒らしい。つまり、フィオーレ公国所属のクラスメイトの中で、本来まともな戦闘向けなのは郡上君なのだ。
なお、その触媒となる花も大滝君から提供してもらっているとのこと。
話を聞けば聞くほど、三人の関係がいびつに思えてくる。
「ううん……」
「お、白川、起きたか」
戦闘後に倒れていた白川さんが、馬車の揺れの中でようやく目を覚ました。
「起きたか。全く、あんな薬に頼るから倒れるんだ」
「郡上か。いいでしょ別に、あたしが代わりにボロボロになれば、郡上の負担も減るんだし。あたしの負担に見合った成果は挙げてるつもりだけど?」
どこか自暴自棄にも聞こえる声でそう言いながら、白川さんは懐から取り出した小瓶の蓋を開け、中身を一気飲みした。 どうやらそれは品質の高い回復ポーションだったらしく、さっきの無茶な戦いで負った痛々しい打撲や火傷が、みるみるうちに消えていった。おそらく白川さんのスキルで自作したものだろう。
「お前はまた、そんな……」
郡上君は感情をこみ上げ、何かを強く言いたそうに顔を歪めたが……僕達の前だからか、結局言葉を飲み込んで口を閉ざした。
それにしても、白川さんは、どうしてあんなに自分を傷つけるような言い方をするんだろう……?
僕達は、フィオーレ組三人の間に横たわる、深く暗い『何か』を感じ取っていた。 その『何か』はまだわからないけど。
気まずい沈黙が流れる中、馬車の窓の外には、僕達の目的地である森の都――公都ピアンタの巨大な門が、少しずつその姿を現し始めていた。




