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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
クラス転移とチート覚醒編

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第18話 似た者同士

~国王side~


 王宮の深部、重厚なマホガニーの扉の奥にある国王執務室。そこは、アレクサンダー国王が膨大な国の実務を処理し、経済や社会問題関係の報告から前線からの血の滲むような報告まで、様々な情報を受け取る場だ。

 現在、その室内にいるのは二人の男だけだった。一人は玉座ならぬ書斎仕様の机に座り、書類の山と格闘している若き王、アレクサンダー・ゴルジェ・サク・セッテ。そしてもう一人は、その対面に直立不動で報告を行う近衛騎士団団長、ジェームズ・ツクバ・オルランド。

 ジェームズの口から紡がれる一連の報告を静かに聞き終えたアレクサンダーは、羽ペンをインクスタンドに戻し、ゆっくりと顔を上げた。


「――以上をもちまして、特殊魔物『ラーニョ』に関する事後報告を終わります」

「……うむ。大儀であった、ジェームズ。そうか、王都近郊を脅かしていたあの特殊魔物が、無事に討伐されたか」


 アレクサンダーは深い安堵の吐息をこぼしたが、その直後、どこか複雑な表情を浮かべて皮肉げに唇を歪めた。


「しかし……まさか、余が『遊軍』へと割り当てた――いや、悪く言えば『戦力外通告』を突きつけた者達が、それを成し遂げるとはな」

「はい。那須野雄心は自身の休憩所スキルをようやく覚醒させ、松島日向はその空間から手に入れられる素材を活かして自身のデコレーションスキルを十全に発揮できるようになったそうです。とはいえ、両者ともに直接戦闘に特化したスキルではない。今回のラーニョ討伐は、まさに大金星と言えるでしょう」


 ジェームズはロマンスグレーの髪を揺らしながら、確信に満ちた目で国王を見据えた。そして、信頼している主君だからこそできる、あえて一歩踏み込んだ意地の悪い質問を投げかける。


「陛下。今回の件で、那須野君と松島君がカラクリ魔物との戦いにおいて、極めて有用な戦力であることが証明されました。……それで、いかがされますか?」

「いかが、とは?」

「今からでも彼らをどこかの公国へ所属させますか? あるいは、その特異な能力を他に渡さぬよう、王家で丸ごと囲い込んでしまうという手もございますが」


 近衛騎士団長としての現実的な揺さぶり。

 だが、アレクサンダーは迷うことなく、即座に首を横に振った。


「馬鹿を言うな。そのような恥知らずな真似ができるか。都合良く手のひらを返して、一度見捨てた彼らを都合よく縛り付ければ、我らに対する信用は完全に地に落ちる。最悪の場合、へそを曲げてこの国から出て行かれても文句は言えんぞ」

「……ははっ。さすがは陛下だ。大変、不躾な質問をいたしました」


 ジェームズは口元を穏やかに緩め、深く一礼した。


「君のことだ。余の覚悟を試すために、わざと意地の悪い選択肢を突きつけたのだろう?」

「お戯れを。ですが……陛下が筋を通されるお方で、安心いたしました。ただ、彼らの『遊軍』としての自由な立場はそのままにするとして、今後の戦いについてはどうされますか?」

「うむ。命令ではなく、対等な『依頼』という形で打診する。各公国に配属された他の転移者たちの最終訓練が、いよいよ完了したとの報告が続々と届き始めているからな。……時期は近い。彼らの了承が取れるならば、援軍として各公国へ派遣したいと思っている」

「了解いたしました。さっそく、彼らとの面会の日取りを整えましょう」


***


~雄心side~


 特殊魔物ラーニョとの死闘を終えてからの数日間。僕達は、怪我を負った成美の療養を最優先するため、ほとんどの時間を『有降町』のマイホームで過ごしていた。

 現代日本と同じ静かな環境、温水洗浄トイレ、広く多機能な湯船付きの風呂。そして、コンビニや純喫茶といった見慣れたインフラ。これ以上ないほど贅沢な休憩所での生活は、成美の傷ついた心身を劇的に回復させてくれた。

 そして今日、ラーニョの残骸の買い取り査定が完了したという通知を受け取り、僕達は久しぶりに王都チェントロの傭兵ギルドへと顔を出していた。


「査定額は……1000万Fの値が付きました!」


 ギルドの窓口で提示された買い取り金額を見て、僕と日向は思わず顔を見合わせた。

 1000万F。セッテ王国の基準で考えれば、これだけで何年も贅沢をして遊んで暮らせるようなとてつもない大金だ これだけの資金があれば、当面の間は完全に安泰なのは間違いない。

 だけど――大金を手に入れたからといって、それで万々歳というわけにはいかない。有降町での快適な生活を維持するためには、魔石を銀行で『V』へと換金し続ける必要がある。何より、僕達にはこの世界を脅かす『魔王を討伐する』という、クラスメイト全員に課せられた共通のゴールが存在するのだ。

 大金を手に入れたからといって、このまま有降町に引きこもって一生だらだらとニート生活を送るつもりは毛頭なかった。


「よし、軍資金もできたし、これからの装備を――」

「あの、那須野様、松島様、弘前様」


 僕がこれからの強化プランを考えようとしたその時、受付の女性職員から申し訳なさそうに声をかけられた。


「王宮より、お三方宛てに緊急の面会依頼が届いております」

「王宮から、僕達に……? 何か具体的な理由は聞いていますか?」

「いえ、そこまでは。ただ、先方は『なるべく早急な面会を希望する』とのことでした」

「……わかりました。すぐに向かいます」


 僕達は顔を見合わせて小さく頷いた。 王宮に呼び出された時点で、要件がただの世間話ではないことくらいは容易に想像がついた。


 通されたのは、王宮内にある少人数用のこぢんまりとした会議室だった。

 部屋の中央にある長机で待っていたのは、やはりアレクサンダー国王と、近衛騎士団長のジェームズさんだった。


「三人とも、よくぞ参ってくれた。堅苦しい挨拶は抜きだ、好きな席に座りなさい」


 僕達がそれぞれの椅子に腰掛けると、アレクサンダー陛下はまず、成美を真っ直ぐに見つめた。


「まずは、先日の特殊魔物ラーニョの討伐、実に見事であった。正直に言えば、余は驚愕すると同時に、心からの歓喜に震えた。……弘前成美、怪我の具合はどうか?」

「……うん、大分良くなった。休憩所でゆっくり休ませてもらったから。あと二、三日もすれば、また戦える」


 成美は無表情のままだったが、その声には確かな力が戻っていた。その返答を聞き、成美の隣に座っていた僕の袖口を、彼女の小さな指先がちょんちょんと不器用に、しかしどこか嬉しそうに引っ張る。

  ……う、嬉しいのはわかるけど、王様の前だからちょっと照れくさい。


「それは重畳。……では、回復早々で心苦しいが、本題に入らせてもらう。諸君らは、魔王を守る守護者――『楔の魔物』について知っているかな?」


 『楔の魔物』。その言葉に、僕は背筋を正した。王宮にいた一ヶ月間の座学で、教官の騎士から叩き込まれた重要知識だ。

 そもそも、この世界に自然災害のように顕現する魔王は、最初からこの世界に完全な形で固定されているわけではなく、非常に不安定な存在なのだという。そこで魔王は、自分自身の存在をこの世界に強固に繋ぎ止め、維持するための『楔』としての役割を持つ、極めて強力な魔物を同時に七体召喚する。それが『楔の魔物』だ。

 過去の歴史においても、魔王が顕現した際には必ず各公国と中央に一体ずつ、計七体の楔の魔物が配置されていたという。


「楔の魔物は、いわば魔王を保護する絶対的な障壁だ。この七体をすべて討伐し、楔を破壊しなければ、どれほど捜索しようとも、魔王本体は決して姿を現さない。……そして、各公国へ配属された君達のクラスメイト達の、最終戦闘訓練が完了したとの報告が届きつつある」


 国王は一度言葉を切り、真摯な目で僕達を見つめた。


「つまり、公国ごとに『楔の魔物』を討伐するための、本格的な侵攻作戦が間もなく開始される。そこで、余から諸君らに依頼したい。各公国への援軍として、戦場を自由に動ける『遊軍』たる諸君らを、各地へ派遣したいのだ」


 その言葉を聞いた瞬間、隣にいた日向の雰囲気が一変した。バン、と勢いよく長机を叩き、日向が鋭い声を上げる。


「ちょっと待つし、王様!」

「日向……?」

「なるっちはともかく、ウチとゆーっちのことを『戦力外通告』同然に遊軍へ放り出しておいてさ! 自分たちに都合良く使えそうな戦力だって分かった瞬間、急に『援軍として各地に行って』って……いくらなんでも、ウチらのことを都合よく使いすぎじゃね!?」


 日向の怒りは、至極真っ当だった。 手のひらを返されたような仕打ち。かつて、親の言いなりになる都合のいい人形として扱われ、抵抗すれば暴力と監獄のような学園へ放り込まれた過去を持つ日向にとって、権力者から都合よく扱われることは最も許せない地雷なのだ。


 だが、アレクサンダーは怒る風でもなく、ただ静かに目を伏せた。


「君の言う通りだ。だが、先ほども言ったが、余は君達に命令するつもりはない。これは命令ではなく、対等な『依頼』だ。傭兵ギルドで受ける一般の仕事と全く同じ扱いと思ってほしい。受けるも拒否するも、すべては諸君らの自由だ。無理に受けてくれとは言わん」

「……依頼だろうが何だろうが、そんなの、ハイハイって素直に受けるわけないし。そうだよね、ゆーっち? こんな都合のいい話、断っちゃおうよ!」


 日向がすがるような目で、僕の顔を覗き込んできた。

 僕は静かに、これまでのこと、そしてこれからのことを考えた。


 確かに、日向の怒りは正しい。国王からは、アイテムボックス仕様の便利なリュックや、無制限の通行許可証、そして何より王都アパートの家賃無料といった便宜を図ってもらった。

 けれど、普通の感覚から言えば、最初に『戦力外通告』としてクラスの輪から外されたことへのわだかまりを、それだけで完全にチャラにできるわけがない。日向の感覚こそが真っ当で、普通なのだ。


 でも、僕は違った。休憩所を無事に発動でき、自分の未来に確かな余裕ができたことで、ようやく――僕がこの若い王を、どうしても恨む気になれなかった『本当の理由』が、自分の中で腑に落ちた気がしたのだ。


「……日向。ごめん、僕は、この依頼を受けようと思う」

「ちょっと、ゆーっち!? 正気なの!?」


 日向が驚愕の声を上げ、隣の成美も、静かに僕の横顔を見つめてくる。

 僕は、まっすぐにアレクサンダー国王を見つめながら、言葉を紡いだ。


「うん。……なんだか、自分でも不思議だったんだ。どうして僕は、陛下に対して怒りや恨みの感情が湧いてこないんだろうって。でも、やっと分かった。……陛下と僕って、少し似ているんだ」

「何……?」


 怪訝そうに眉をひそめる若き王に、僕は語りかける。


「僕は、数年前に大好きな両親を突然の事故で失いました。本来なら、その瞬間から家や財産のことに自分で責任を持たなきゃいけなかった。でも、当時子供だった僕は、ただ悲しんで、ショックで引きこもることしかできなかった。……その結果、卑劣な親戚たちに財産も家もすべて乗っ取られて、あの地獄みたいな昴田学園に放り込まれたんです」


 自分の弱さと、甘えが生んだ結末。


「でも、陛下は違った。陛下も、僕と同じように突然のご両親の死を経験した。それなのに、陛下には『悲しんで引きこもる時間』すら与えられなかった。国を背負い、民を守り、魔王という理不尽な災害に一人で立ち向かわなければならなかった。……悲しむことすら許されずに、ずっと戦い続けてきたんですよね」


 アレクサンダーが、ハッと目を見開いた。

 常に完璧な王として振る舞い、誰にも見せなかった心の奥底の孤独を、たった一月前に王都へ来たばかりの少年に見透かされたのだ。その顔には、驚きと――どこか安堵のような色が浮かんでいた。そう僕には見えた。


「似たような境遇を経験したからこそ、僕には……なんとなく分かるんです。陛下が背負ってきた重圧や、どれほどの苦労をしてきたのかが。だから、僕は陛下を恨むことなんてできない。それどころか……少しでも、力になりたいって思っちゃうんだよ」


 沈黙が、会議室を支配した。

 日向は驚いたように、そしてどこか切なそうに僕を見つめていたが、やがて、深いため息をついて肩の力を抜いた。


「……はぁ。もう、ゆーっちってば、本当に人が良すぎるっていうか、お人好しにも程があるし」

「日向……?」

「でも、ゆーっちがそこまで言うんなら、ウチだって協力しないわけにはいかないじゃん。ウチはゆーっちの恋人なんだから、そんな危なっかしいお人好しの隣で、ちゃんと目を光らせておかなきゃだしね!」


 日向はいつものパッと明るいギャル笑顔を取り戻し、僕の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 すると、その反対側から、成美の手がスッと伸びてきて、僕のもう片方の腕を静かに抱きしめる。


「……ボクも、最初から行くつもり。強い装備をドロップさせる狙いもあるし。……それに、那須野がそう決めたなら、ボクも付いて行く」


 成美は表情こそクールなままだったが、その小さな体を僕にぴったりと預けていた。日向の柔らかい感触と、成美の華奢で温かい感触が両腕に伝わってきて、僕の心臓は一瞬で爆発しそうになる。

 ……あ、あれ? なんか結局、両手に花みたいな状態になってないか、これ!?


「諸君……特に那須野雄心。……心から、感謝する」


 アレクサンダー国王は信じられないものを見るような、そして心の底から救われたような表情を浮かべ、僕達に向かって深く、深く頭を下げたのだった。


こうして僕達三人の、各公国を巡る新たな『遊軍』としての旅路が、正式に幕を開けた。

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