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クラス転移、もらったスキルは『休憩所』  作者: 四葦二鳥
クラス転移とチート覚醒編

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第17話 激重ギャルと無表情ゲーマーに挟まれて

 死闘の末、特殊魔物『ラーニョ』を討伐した僕達は、その動力源だった魔石と、真っ二つになったラーニョの頑強な金属残骸をすべて回収し、王都チェントロへと帰還した。


「おお! 無事だったか、三人とも!」


 傭兵ギルドの重厚な扉を開けると、真っ先に駆け寄ってきたのはジェームズさんだった。どうやら僕達が威力偵察のエリアに向かってから、ずっとここで待機していてくれたらしい。近衛騎士団団長という忙しい身の上だろうに、本当にありがたいことだ。


「ジェームズさん、お待たせしました。はい、ご覧の通り、要救助者も含めて全員無事に帰還しました」

「ギルドにいれば、前線からの情報が最も早く入るからな。……最悪の場合、軍を編成して救出に向かう覚悟だったのだ。ところで、あのラーニョはどうなった?」

「このとーりだし!」


 日向が自慢げに胸を張り、アイテムボックス仕様のリュックからラーニョの残骸をガラガラとギルドの床に吐き出してみせた。

 無残に二分割された巨大な金属蜘蛛の死骸を見て、ジェームズさんは驚愕のあまり目を見開いた。


「……まさか、討伐までやってのけるとは。君達なら、上手くいけば弘前君を救出して逃げ帰ってこられるかもしれない、程度には思っていたのだが……まさか、あの特殊魔物を倒してしまうほどの実力を身に付けていたとはな」

「ジェームズさん、そんな過小評価してたんですか?」


 僕が少しからかうように言うと、ジェームズさんは「すまんすまん」とバツが悪そうに豪快に笑った。


「いや、君達のスキルは直接戦闘に特化したものではないからな。スキル抜きの純粋な戦闘技術と連携だけで、未知の特殊魔物と渡り合うのはあまりにも危険だと思っていたのだ。……いやはや、良い意味で予想を完璧に裏切られてしまったよ」


 その後、僕達はラーニョの残骸をギルドの査定カウンターへと提出した。

 通常のカラクリ魔物とは異なり、極めて希少な『特殊魔物』の個体であること、さらに技術解析のための研究材料として価値が跳ね上がっていることなどから、正確な買い取り査定には数日かかるらしい。

 

 ただ、弘前さんの救出依頼を無事に達成したことと、特殊魔物討伐の特別功労賞が加算された結果、なんと僕、日向、弘前さんの三人に、それぞれ『200万F』という破格の報酬が数日中に口座へ振り込まれることになった。

 これだけあれば、外の世界での生活費は当面の間、完全に安泰だ。


「では、私は王宮に戻って陛下に事の顛末を報告してくる。君達はゆっくり休んでくれ。それと弘前君、これを」


 ジェームズさんは、懐から一枚のメモ用紙を取り出して弘前さんに手渡した。


「腕が良く、信頼できる診療所の紹介状だ。ここで早急に怪我の様子を診てもらいなさい。治療費は騎士団の方で持たせるように手配しておく」

「……わかった。ありがとう」

「うむ。では、私はこれで!」


 そう言って、ジェームズさんはマントを翻して風のように去っていった。

 

 僕と日向は、弘前さんに付き添って紹介された診療所へと向かった。

 その診療所は、近代的な医学知識とファンタジーの魔法技術が高度に融合した最先端の医療体制が整っており、現代日本の大病院と遜色ない清潔さだった。これも過去の転移者たちが残した多大な功績の一つらしい。

 

 診察の結果、弘前さんは何針か縫う必要のある切り傷や、激しい打撲を数箇所に負っていたものの、幸いなことに命に別状はなかった。数日間安静にしていれば、日常生活にはすぐに戻れるとのことだ。傷跡に関しても、治癒魔法によるアフターケアを何度か受ければ綺麗さっぱり消し去ることができるらしい。女の子だし、本当に傷が残らなくて良かったと心の底から安堵した。


***


 診療所を出たその日の夜。僕と日向は、弘前さんを『有降町』へと招待した。

 光のゲートを潜り抜け、目の前に広がる現代日本のアスファルトや駅前ロータリーの光景を目にした瞬間、弘前さんはいつも崩さない無表情の中に、明らかな動揺を滲ませた。


「……これが、那須野のスキル。すごい……本当にボク達のいた日本の街並みそのものだ」

「でしょ? 住み慣れた現代日本の環境に身を置くことで、異世界生活で張り詰めた心身をリラックスさせるっていうコンセプトの街なんだよ」

「それとねー、ウチら最近、ここにマイホーム買ったんだよねー! なるっち、今日はウチらの家に泊まってってよ!」


 日向が嬉しそうに弘前さんの手を引き、僕達のマイホームへと案内する。

 絵に描いたような一戸建ての我が家に弘前さんは再び驚き、さらにその購入価格を聞いて「住宅ローンの概念が崩壊してる……」と呆然としていた。

 ひとしきり家の中を案内し終えた後、僕達はリビングのソファや椅子に各々腰を落ち着かせた。そこで、弘前さんがふと首を傾げて口を開いた。


「そういえば、ボクはどこで寝ればいい?」


 弘前さんは自分のことを『ボク』と呼ぶ。どうやら、昴田学園に入る前、ゲームに没頭していた頃からの名残らしい。

 そんな弘前さんの至極真っ当な疑問に、日向が当然のような顔で答えた。


「二階にベッド付きの部屋が二部屋あるっしょ? そのうち一つをなるっちが使っていいし」

「……? それだとベッドが一つ足りない。二人は普段、どうやって寝てる?」

「ウチとゆーっちが同じベッドで添い寝するし! 二人で寝ても余裕な広さはあるし、なるっちは気にしなくていーよ」

「ぶっっ!!」


 口に含みかけたお茶を吹き出しそうになった。

 弘前さんは目を丸くして、僕と日向の顔を交互に凝視した。そして、何かを深く納得したようにこくりと首を縦に振る。


「なるほど。ボクが助け出された瞬間から、二人の雰囲気が変わったと思ってたけど……そういうこと。ボクのあずかり知らないところで、二人はすでに大人の階段を登っていたんだね」

「いや、そこまで進んでないから! 一線は越えてないからね!?」


 なんならお互いの裸すら全く見ていない。そこまで僕の覚悟は決まっていないのだと、必死に手を振って弁明する。


「……まぁ、日向との関係を表現するなら、恋人関係が一番近いのは事実だけどね」

「……なるほど。でも、那須野も物好き。日向は胸が大きくなければくびれもほとんど無い、ドラム缶と形容できるような体型なのに、よく付き合おうと思ったね」

「ちょっとおおお!? それ、なるっちが言える立場!? なるっちだってウチに負けず劣らずの幼児体型だし、背だってちっちゃくて小動物みたいじゃん!」


 ……驚いた。弘前さんは普段物静かなイメージだけど、身内に対しては相当な毒舌家らしい。パーティー組んでたときには気付かなかった。そして日向の口調から察するに、この手厳しい毒舌の応酬も、二人にとってはただの日常茶飯事のじゃれ合いのようだ。

 これ以上、女子の体型に関する会話がヒートアップすると、男の僕としては気まずいことこの上ない。意図せず乙女の秘密を聞いてしまう前に、僕は慌てて助け船を出した。


「ま、まあ、恋愛とか結婚って、スタイルは二の次だと思うよ? 一番大事なのは、性格とか価値観の相性じゃないかな」

「お、ゆーっち、めちゃくちゃ良いこと言うじゃん! 聞いた、なるっち?」

「……まあね。日向はちょいちょい愛情表現が重くて独占欲のスイッチが入りやすいところがあるけど、那須野がそこを許容できるなら、いい恋人になれると思う」

「あはは、なるっちってば何言ってるのかなー!?」


 日向が引きつった笑顔で弘前さんの頬を引っ張っている。

 

(……あ、日向が『重い女』だってこと、成美にはとっくにバレてたんだな)


 僕は乾いた笑いを浮かべながら、これからの展望について、ずっと考えていた提案を切り出した。


「ところでさ……考えてみたんだけど、この三人で、もう一回パーティーを組まない? やっぱり僕達、スキルの相性が最高だと思うんだよ」

「……ありえない。ボク達は一度、実戦で失敗して解散した」

「そうそう、なるっちの言う通りかな。一回失敗したパーティーを、そのままの形で何度も繰り返す必要って無くね?」


 そう反論されることは百も承知だった。けれど、今の僕には確信がある。


「前に失敗したのは、僕達がスキルのかみ合わせの順序が逆だったからなんだよ」

「順序が逆?」


 弘前さんが不思議そうに小首を傾げる。


「そう。あの時は『弘前さんのハクスラスキルでデコ素材をドロップさせて、日向が装備を強化する』っていう方針だった。当時の僕はお飾りだったから、その二人のループに頼るしかなかった。でも、本当は逆だったんだ。

 まず、僕が『休憩所』の機能を使って、こちらの世界の強力なベース装備や、デコ用のラインストーン素材を豊富に調達する。それを日向が『デコレーション』で極限まで強化して、戦力にする。その超強化装備を手にした弘前さんが、圧倒的な戦闘力で『ハック&スラッシュ』を発動させて戦う。そうすれば、より高ランクの魔物を倒せて、さらに強力なレア装備や魔石がドロップする。そしてドロップした装備を、日向がさらにデコって最強に仕上げていく――この順序なら、完璧な永久機関ループが完成するんだ!」


 僕の説明を聞き、二人はそれぞれ目を見開いて思考を巡らせた。

 やがて、日向がポンと手を叩き、満面の笑みを浮かべた。


「確かに……! ゆーっちの言う通りじゃん! 順番が逆だっただけで、ウチらのスキルの親和性、本当はめちゃくちゃ相性良いんだよ!」

「同意。その方針なら、リスクを最小限に抑えつつ、コンスタントに全員の戦力を引き上げられる。……それに那須野のことが少し……気になる。ボクのゲーマーとしての勘が、那須野を手放すなって囁いてる。理由はうまく説明できないけど」


 成美は僕をじっと見つめていたが、ふっと視線を斜め下へと逸らした。よく見ると、彼女の小さな耳たぶが、ほんのりと朱に染まっている。

 二人とも、僕の提案に納得してくれたようだ。それにしても、成美のあの意味深な態度と「気になる」という言葉は、一体どういう意味なんだろう……?


「とりあえず、これからは固定パーティーのメンバー同士、そして親愛の証として……ボクのことはあだ名か、下の名前で呼べ。ボクもそうするから」

「あ、それいいじゃん! じゃあ、ウチらは今日から完全に対等な仲間だしね!」

「わ、わかったよ。……これからよろしくね、成美」

「……うん。よろしく、雄心」


 僕が初めて名前を呼ぶと、成美はどこか面食らったように一瞬だけ目を丸くした。それから、少し照れくさそうに口元を僅かに綻ばせ、無表情のまま小さくピースサインを作ってみせた。

 こうして、僕達の人間関係とパーティーの方向性は、これ以上ない形でアップデートされたのだった。


 すると、日向が成美と僕の間に割り込むようにして、僕の腕をぐっと抱き寄せた。


「ま、ウチとしては、大好きななるっちにだけは特別に、ほんっとーにと・く・べ・つ・に、ゆーっちをちょっとくらいシェアしてあげてもいいかなって思うけど……でも、一番最初はウチだかんね!」

「シェア……那須野を、日向と、共有する……?」


 成美は人差し指を顎に当てて、コクリと首を傾げた。しばらく真剣に考え込んでいたが、やがて、すとんと腑に落ちたように小さく頷いた。


「……うん。日向とだったら、別にいい。ボク、日向と争うのは嫌いだし、日向の好きなものはボクも気に入る傾向がある。だから、雄心も日向と半分こ。合理的だし、納得できる」

「ちょっとおおお!? なるっち、なんでそこそんなすんなり納得できちゃうわけ!? もうちょっとこう、嫉妬したり独占したくなったりしないの!? ウチだったら激おこだしソッコーで既成事実作ってでも自分の物にしちゃうよ!?」

「嫉妬? なんで? 二人で大切に共有した方が、那須野を効率よく運用できる。……それに、雄心が日向だけじゃなくて、ボクのこともちゃんと、同じように気にかけてくれるなら……ボクは、それでいい」


 成美は僕の方をちらりと見て、ほんの少しだけ照れくさそうに視線を彷徨わせた。


「ボクにとって那須野は、居心地のいい休憩所。日向と一緒に、ゆっくり休みたい」

「あーーーー! もう、なるっちってばそういう無自覚な可愛さでウチを骨抜きにするの、ホントずるいし!」

「気のせい。ただの、ゲーム的リソース管理の最適解」


「……? シェアってなんだよ、シェアって……。あと勝手に人を変なリソース扱いするな!」


 日向の柔らかい感触と、どこか無防備にこちらを見つめてくる成美の穏やかな視線にドギマギさせられながら、僕達三人の新たな旅路への作戦会議は、夜更けまで賑やかに続くのだった。

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