第14話 近衛騎士団長からの極秘報告
あれから、一週間が経過した。 あの包囲網突破劇をきっかけに、僕と日向は再びパーティーを組んで、本格的に遊軍としての活動を再開していた。
「いた。あそこだ」
現在、僕達はギルドから依頼された討伐任務の最中だった。指定エリアでモスカの群れが発見されたため、駆除してほしいとのことだ。
まぁ、群れと言ってもボス個体が一体、一般個体が五体という小規模なものだが。今の僕達の敵ではない。
「まずはウチからだし。それっ!」
日向は、アリフレモールで新調した新しい武器を構えた。それは、鮮やかなピンク色の傘。ただし、表面にはまばゆいばかりのラインストーンがこれでもかと敷き詰められた、かわいらしく派手な『改造傘』だ。
もちろん、日向の『デコレーション』スキルで強化された傘が、ただの雨除けや日傘であるはずがない。日向が傘をバサッと開きながら前方に振るうと、敷き詰められたラインストーンが一斉に魔力を帯び青く輝き、無数の水の魔力弾を射出。ショットガンのようにモスカの群れを襲った。
放たれた水弾は広範囲に拡散するため、一発一発の威力は低い。モスカの金属装甲をわずかにへこませたり、表面に細かい傷をつけたりする程度に留まる。だが――それでいい。
「次は僕の番だ!」
僕はバチバチと青白い火花を散らす電気警棒を振り抜き、巨大な電気の斬撃をモスカの群れへと浴びせた。
日向の散弾を浴びたモスカは、全身が水に濡れ、装甲にも細かい傷が入っている状態だ。そこへ超高電圧の電撃を叩き込めば、どうなるか。
結果は火を見るより明らかだった。
ただでさえ電気に弱いカラクリ魔物たちは、水濡れによる導電率の向上で内部回路を完全に焼き切られ、一瞬にしてスクラップへと変わった。
「ははっ! よし、今日も調子いいね!」 「やっぱゆーっちとウチ、相性最高じゃね!?」
日向が笑顔でハイタッチを求めてきて、僕も力強くそれに応える。
ああ、本当に同感だ。最初はスキル相性が悪いと落ち込んでパーティーを一度解散してしまったが、今ならはっきりとわかる。僕達の相性は、控えめに言って『最高』だ。
僕が『休憩所』のモールで現代の特殊な装備とデコレーション素材を調達し、提供する。日向が『デコレーション』スキルでその装備に強力な効果を付与し、強化する。その強化装備を使って、カラクリ魔物を効率よく狩り、動力源の魔石をゲットする。手に入れた魔石を有降町の銀行でVに換金し、さらなる強力な装備や素材を買う。
なるほど、完璧な『強化ループ』の完成だ。そして、このループの最大の利点は、相手や環境によって柔軟に装備を変えられるという点にある。現在は汎用的な対カラクリ魔物戦用の装備で戦っているが、もし敵の特性が変われば、それに合わせて日向のデコレーションを変えればいい。なんなら、モールの潤沢な品揃えを活かして、装備そのものを全く別の物に変更する選択肢すら選べる。
装備選択の幅が無限にあるため、僕と日向の役割を意図的に、かつ自在に割り振ることができるのだ。他のクラスメイト達は自分と仲間のスキルをベースに役割や戦法を組み立てるしかないが、僕達はその逆。『最適な戦法』を先に考えてから、それに合わせた装備を二人で割り振ることができる。
つまり、理論上どんな状況・どんな敵にも対応できる最強の汎用パーティーなのだ。
倒したターゲットたちから手際よく魔石を取り出し、壊れた金属の残骸も余さずリュックに回収して、チェントロへと帰還の途につく。この金属の残骸は傭兵ギルドに売ってセッテ王国での生活費にし、魔石は有降町でVに換金してモールでの資金源にする。無駄が一切ない。
「……日向、どうしたの? なんか考え事してるみたいだけど」
チェントロへと戻る森の道中。日向がどこか上の空というか、沈んだ表情で歩いているのが気になって、僕は声をかけた。
「ごめんね、心配かけて。……なるっちの事考えてたし」
なるっち。僕らと同じく遊軍となった、『ハック&スラッシュ』のスキルを持つクラスメイト、弘前成美さんの事だ。彼女とは一時的にパーティーを組んだこともあったが、僕達のスキル(当時の僕は完全なお飾りだったが)との相性が悪いという理由で、解散を余儀なくされてしまった。
でも、今なら違う。僕の『休憩所』の本当の能力が判明し、日向のデコレーションも真価を発揮できるようになった今なら、当時とは全く違う評価になるはずだ。
そして何より、弘前さんは日向の親友だ。日向が気にかけるのも無理はない。
「弘前さんと、最後に話したのは?」
「ウチらのパーティーが解散した時から、全然連絡取れてないし。どうもなるっち、一人で結構レベルが高い依頼をいっぱい受けてたみたいでさ。達成まで何日もかかるようなヤツ。だから、話したくてもずっと会えなかったんだよね」
そうか、あの日以来一度も連絡が取れていないのか。親友なら、そりゃ心配になるのもわかる。
「弘前さんは強いから、そうそうピンチになったりしないよ」
「ありがと、ゆーっち。慰めてもらっちゃったね」
「でも、どうにかして連絡を取る方法は欲しいよね。傭兵ギルドにお願いして、伝言とか預かってもらえないかな?」
そんなことを話しながら、僕達は王都チェントロの傭兵ギルドへと足を踏み入れた。
するとそこには、見知った顔があった。
「おお! 那須野君! 松島君!」
「あ、ジェームズさん」
僕達を見つけて息を切らして駆け寄ってきたのは、セッテ王国近衛騎士団団長、ジェームズ・ツクバ・オルランドさんだった。彼は僕達遊軍の事を気にかけてくれる数少ない人物の一人で、たまにこうしてギルドまで様子を見に来てくれるのだ。
そして実は彼、有降町に招待した記念すべき『第一号』の客でもある。ジェームズさんは転移者ではないため、有降町で家を買うには1000万Vというとんでもない大金が必要だったのだが、そこはさすが王国の貴族にして騎士団長。個人の魔石貯蓄が恐ろしい量あったらしく、即金でポンと一軒家をお買い上げになったのだ。
ちなみに、有降町を体験した彼の感想は「君たち転移者の故郷の雰囲気を知れるし、珍しい物や装備が手に入るのは素晴らしい! だが……あの便利さは恐ろしい。三日も滞在すれば、私は完全にダメ人間になってしまう!!」とのことだった。
そんなジェームズさんだが――今日の彼は違った。いつもは落ち着いた頼れる大人なのに息を切らして呼びかけたし、表情には焦りが滲みんでいる。どうもただ事ではないらしい。
「ジェームズさん、何かあったんですか?」
僕の問いに、彼は苦渋に満ちた顔で口を開いた。
周囲に聞かれないよう、声を押し殺して。
「落ち着いて聞いて欲しい。弘前君が依頼遂行中に――消息を絶った」




