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失恋したので隣国へ逃げようとしたら、無表情騎士に婚姻届を突きつけられました  作者: アキラ・モーリング


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番外編2 前半 伝説の珍獣、騎士団に現れる

長くなりすぎたので、

職場訪問は前半後半に分けました(^^)

 騎士団本部へ足を踏み入れた瞬間。


 私は思った。


 ……視線が痛い。


 ものすごく痛い。


 廊下を歩く騎士たちが、全員こっちを見ている。


 なんなの?


 私なんかついてる?


 ペタペタと顔を触ってみるが、お昼ご飯のパンくずがついているわけではない。


「ねぇ」


「なんだ」


「すっごい見られてるんだけど」


「……可愛いから?」


 そう言ってルークが周囲を睨みつける。


「いや、絶対違うでしょ⁈」


 隣を歩く旦那様――ルークは無表情のままだ。


 ちなみに“旦那様”呼びはまだ慣れない。


 朝、「ルーク」と呼んだら、


『旦那さんでもいいぞ。奥さん』


 とか真顔で言われた。


 思い出して顔が熱くなる。


 まったく、何言わせようとしてるんだか!


「おい、あれ……!」


「実際の生き物なのか……?」


「透けて……は、ないな……」


「本当にいたのか?」


「俺はまだ信じない」


 ざわめきの中に混じる不穏な声。


 目線が突き刺さる。


 後ろを向いてももちろん誰もいない。


 待って。


 珍獣なの?


「ねぇ、なんか変なこと言われてるんだけど!?」


「安心しろ。昨日からずっとあんな感じだ」


「何も安心できない!!」


 耐えきれず、脇腹へ肘鉄を入れた。


 ゴスッ。


 いい音がした。


 ルークがこっちを見る。


「痛い」


「もっとちゃんと説明して!」


「……ミレナが可愛いから見てるだけ」


「だから絶対違うでしょ!」


 すると前方を歩いていた騎士たちがざわついた。


「今の見たか!?」


「ルークが怒鳴られて殴られても反撃ひとつしないだと!?」


「結婚したって本当なのか……?」


「実在の人物……」


 ざわめきが大きくなる。


「だから何なのよ!!」


 もう嫌だこの職場。


 ◇◇◇


 そのまま急ぎ足で奥へ進む。


 立派な扉の前でルークが止まった。


「ここだ」


「……なにが?」


「団長執務室」


「……は?」


 嫌な予感がした。


「挨拶する」


「聞いてないんだけど!?」


「言ってない」


「なんでよ!?」


 思わず脇腹へ二発目を叩き込む。


 ゴスッ。


「痛い」


「それならそうと先に言いなさいよ! ちゃんとした格好とか! 手土産とか! 心の準備とか!! いろいろあるのよ!?」


「可愛いから大丈夫……」


「そういう問題じゃ――」


 ガチャ。


 タイミング悪く扉が開いた。


 壮年の男性と目が合う。


 その後ろでは、銀髪の男性が肩を震わせていた。


「っ、はははは!! 噂以上に強ぇ!!」


「副団長、笑いすぎだ」


 銀髪の男が笑いながら片手を上げる。


「悪い悪い。俺は副団長のエリオット・フェルナーだ」


 その隣で、壮年の男性が深いため息をついた。


「団長のクラウス・ヴァレンシュタインだ。……ルークの上司をしている」


「は、初めまして!」


 今の見られてた。


 ルークに助けを求めてチラリと見るが、痛そうに脇腹を押さえたまま、目の前の男性を睨みつけるだけ。


 いやいや、睨んでないで助けてよ。


 仕方なく、私は深々と頭を下げた。


「は、初めまして! ミレナ・グランツです! えっと、しゅ、主人がいつもお世話になっております!!」


 するとルークが突然、口元を押さえて震え始めた。


「……ルーク?」


「主人……」


 まさか、そんな単語ひとつで感動してるの?


 ルークが私を見る。


 薄く目を細めているだけなのに、かなり嬉しそうなのがわかってしまった。


 顔が熱くなる。


「……ミレナ」


 ルークの両手がこちらへ向いたところで、壮年の男性――団長さんが、こめかみを押さえながらため息をついた。


「こんなところでいちゃつくな。……とりあえず入れ」


「あ、はい!」


 私は慌ててルークを押し返し、もう一度頭を下げて団長執務室へ入った。


 あ、危なかった。


 今絶対、抱きしめられるところだった。


 ◇◇◇


 ソファへ通され、お茶まで出してもらった。


 団長さん自ら。


 たしか、貴族だったよね?


 めちゃくちゃ偉い人なのでは?


 これ、本当に飲んでいいの?


 戸惑っていると、団長さんが苦笑する。


「この中じゃ俺が一番茶を淹れるの上手いから、気にせず飲んでくれ」


「そうそう。団長、無駄にお茶だけは上手いんだよなぁ」


「無駄とはなんだ」


 そう言われて恐る恐る紅茶を口にすると、香りが良くて本当に美味しかった。


 緊張がふわりとほどける。


 なのに。


「では挨拶も済んだので帰るか」


「は?」


 ルークが紅茶を一気飲みして立ち上がった。


「な、なな何言ってるの?」


 ルークは私の腰を抱き、そのままドアの方へ向ける。


 団長さんが慌てて立ち上がった。


「待て待て待て!!」


「なんでしょう」


「なんでしょうじゃねぇ!! お前、もうちょっと愛想よくできんのか!?」


「必要ですか?」


「必要だ!!」


 それでもグイグイドアへ向かうので、私はルークの鳩尾へ肘鉄を落とした。


 ゴッ。


「……っ」


 さすがに効いたらしい。


 ルークが止まる。


 私はそのまま胸ぐらを掴んだ。


「あんたの上司なんでしょ!? あんたの失礼は私の失礼になるんだから、ちゃんとしなさい!!」


「……ごめん」


「分かればよろしい!」


 ぱっと手を離し、私は団長さんたちへ向き直った。


「申し訳ありません! 主人、ちょっと愛想が壊滅的で……!」


「すごいなミレナさん」


 副団長が感心したように言う。


「ルークから『ごめん』なんて殊勝な台詞、初めて聞いた」


「え?」


 団長さんなんて目元を押さえている。


「いやぁ……安心した」


「え?」


「もっとこう、儚げなお嬢さんが来ると思ってたからな」


 ルークが素直に謝るなんて……と団長さんがしみじみ呟く。


「ルークに必要なのは、このくらい遠慮なく殴れる人材だな」


「人材扱いしないでください!?」


 副団長がまた笑い出した。


「あんたも笑ってないで何か言いなさいよ!」


「今はちょっと……幸せ噛み締めてるから」


 軽くゴスッと脇腹を小突く。


 慣れてきたのか、ルークは脇腹をさするだけだ。


 そんなやり取りを見ていた副団長が、ふいに目を丸くした。


「……ルーク、笑ってる?」


「ええ。ほら、ちょっと口の端上がってません? 頬も緩んでますし」


「主人……奥さん……」


 ぶつぶつ呟いている生意気な頬を摘む。


「どう見ても真顔だが?」


 団長さんがルークの顔をじっと見る。


 するとルークが私の方へ向き直った。


「……照れてるの?」


 じとっと睨まれる。


 バラすな、という顔だ。


 可愛い。


「少しくらいいいじゃない。睨まないでよ」


 すると顔が近づいた。


 耳元で低い声が囁く。


「……奥さん。俺も反撃していいか?」


 ぞわっと背筋が震える。


 唇が耳に触れるか触れないか。


 甘く痺れる感覚に、一瞬で顔が熱くなった。


 怒りたいのに言葉が出ない。


 口をぱくぱくさせていると、ルークが満足そうに目を細める。


「流石にこれはわかるな」


「ルークの笑ってる顔初めて見た」


明日は後半、18時更新です(^^)


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