第32話 王都到着
ついに、王都へ辿り着いた。
馬車を降り、巨大な「白亜の門」をくぐって石造りの短いトンネルを抜けた瞬間、視界が開けた。
「ちょっと……なによ、これ」
ニーナが口を半開きにして固まっていた。首を真上に向け、空を細く切り取る石造建築の群れを仰ぎ見ている。リガルドやロギスとは比較にならない建物の密度。幾重にも重なるアーチの影。行き交う馬車の音と人々の喧騒が、高い壁に反響して渦を巻いていた。
宗一は羽織の袖に手を入れたまま、視線をあちこちへと動かした。
「……石だらけだな。よくこんなもん建てたもんだ」
かつて暮らした京の都とも、地方の街とも違う。石でできた、知らない都。
「これが、この国の心臓ですか」
お凛もまた、目を細めて白亜の街並みを眺めていた。均一に敷き詰められた石畳が、陽光を照り返している。
「前を見ないと危ないですよ、雇い主殿。撥ねられます」
お凛がニーナの襟首を掴んで引き寄せた。
「だって! あんなに高いところに窓があるのよ。あそこまで階段で登るのかしら。王都の人って、毎日が登山じゃない……」
一行は大通りから一本入った宿へ向かった。
ニーナが手続きを済ませ、鍵を受け取る。案内された部屋に入るなり、宗一は窓際の椅子に腰を下ろした。雪駄を脱ぎ、足を投げ出す。
「石の地面は、土より疲れるな」
「瀬能様、まずは周囲の確認を」
お凛が部屋の四隅を点検し、窓の外の動線を確認する。その横で、ニーナはポーチを叩いて活気づいていた。
「よし、拠点は確保。さあ二人とも、ご飯を食べに行くわよ。お腹空いちゃった」
「そうだな、行くか」
宗一は再び雪駄に足を突っ込んだ。
大通りでは、赤い紋章を胸に付けた衛兵が、手際よく馬車の誘導を行っていた。
「——車列を右へ詰めろ。立ち往生は通行の妨げだ。よし、行け」
その仕事ぶりは正確で、市民に対しても礼儀正しい。だが、どこか周囲を威圧するような鋭さがあった。
その姿を、数歩離れた場所で青い紋章の衛兵たちが眺めていた。彼らは非番らしく、手持ち無沙汰に壁に背を預けて談笑している。
「おやおや、赤組さんは相変わらず丁寧なことで。そんなに念入りにやらなきゃ、御者一人満足に捌けないのかい?」
青い衛兵が、聞こえるように鼻で笑う。赤い紋章の衛兵が、誘導の手を止めずに忌々しげに一瞥した。
「黙って見てろ。今月は我らが王の路を預かっているのだ。お前たちのように、当番中に揉め事を起こすような真似はせん」
「はいはい、ご苦労さん。せいぜい今月のうちに手柄でも作っておくんだな。来月、こっちが預かったら、そのぶん帳消しにしてやるから」
「……なんか、あのお兄さんたち、仲が良いのか悪いのか分からないわね」
ニーナが不思議そうに呟いた。
「仲が悪いというより、見ている方向が違うんだろうな」
些細なきっかけで抜かれるであろう剣の柄を、宗一はじっと見ていた。




