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第20話 軍議

 領主の館、最も奥にある重厚な会議室。 円卓を囲むように、この街の防衛を担う重鎮たちが顔を揃えていた。 領主、衛兵団長、ギルド長バルガス。そして、街の最大戦力である『黄金の獅子団』リーダー、アルカード。 室内の空気は、鉛のように重かった。


「……森の奥に、Sランクの厄災。そしてそれに押し出される形で、無数の魔獣がこの街へ向かっていると」

 初老の領主が、震える手で額の汗を拭った。 Sランク。それは国家規模の軍隊を動員してようやく討伐できるかどうかの、理不尽な天災だ。辺境の一都市がどうにかできる相手ではない。


「はい」

 アルカードが進み出て、卓上の広域地図を指し示した。

「現在、Sランクの『溶岩竜』自体は森の最奥から動いていません。しかし、玉突き事故で押し出されてきたCランク、Bランク、そしてAランクの魔獣の波が、このままいけば明日には街へ到達します。……Sランクの厄災が動く前に、この波を必ず食い止めねばなりません」


「防衛の勝算は、あるのか……?」

 アルカードは、一拍だけ間を置いた。それから、迷いを飲み込むように力強く口を開いた。

「我々『黄金の獅子団』をはじめとするAランクパーティが、最前線となる森の出口に陣取り高脅威度の個体を遊撃します。中衛にはBランク・Cランクの冒険者たちを厚く配置し、波状攻撃で魔獣の進行を削る」


「お待ちください、アルカード殿」

 口を挟んだのは衛兵団長だった。実務を預かる者としての、濃い疲労と焦りが顔に滲んでいた。

「いくら冒険者の皆様が優秀とはいえ、数が多すぎる。Aランクの魔獣まで混ざっているとなれば、前線を突破して防壁に取り付く個体も必ず出てくる。現在の衛兵団の戦力だけで、それを全て――」


「そこはギルドの総力で穴を埋める」

 腕を組んで目を閉じていたバルガスが、遮るように低く言った。


「Dランク以下の冒険者たちを、臨時で衛兵団の指揮下に組み込め。防壁沿いの守りを徹底的に固めるんだ。……あくまで『スタンピードへの対応』という名目で。Sランクの存在は、伏せたままでいい」


 衛兵団長は黙った。反論はなかった。ただ、地図の上の赤い駒を、しばらく見つめていた。

「……凌ぎ切ったとして」

 ようやく、絞り出すように続けた。

「森の奥で控えているSランクが動き出した時、我々はどうすればいいのですか。Aランク冒険者が束になっても、傷一つつけられない相手なのでしょう」


 室内に、沈黙が落ちた。


 誰も答えなかった。どれだけ完璧な防衛陣を敷こうと、最後に控える圧倒的な理不尽の前に、すべてが無駄になる。その事実を、この場の全員が理解していた。


「……隣国ローエン公国に要請した、特大バリスタが四台ある。到着は明日の昼だ」

 領主が、祈るような声で言った。

「到着次第、すぐに防壁へ据え付けよ。……あれがSランクの鱗を貫いてくれることに、賭けるしかない。それまで、何としても防衛線を死守してくれ」

「はっ」「承知いたしました」

 衛兵団長とバルガスが、深く頭を下げる。 アルカードもまた、剣の柄を静かに握りしめ、一礼した。


 バルガスは目を伏せた。

 老いた武人の目には、この場の誰よりも多くのものが映っていた。アルカードの握りしめた拳。領主の震える声。衛兵団長の、言葉にならなかった問い。

 それでも、何も言わなかった。

 言えることは、もう何もなかった。


 街の存亡を懸けた軍議は、こうして静かに幕を閉じた。


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