47.場に自分の指定クリーチャーがあれば、このカードをフュージョンしなければならない
お兄さんが突如として放ったその言葉を、俺は心の奥底で受け入れてしまっていたのかもしれない。
これでも、昔はカードゲーマーとしてブイブイやっていた人間だ。
運に泣かされた時もあれば、運に助けられたことだって確かにある。
その時どきは「くそしょーもなっ」と思っていても、今思えばあれはあれで楽しい思い出だった。
今こうして干し芋精神統一を果たし、俺たちの“かーなデスマッチ”という現実から目を逸らすという結論に至ったのか、お兄さんのものと思しき少年漫画を読み漁り始めた叶も、きっと同じ気持ちでお兄さんとのデュエルを楽しんでいたのかもしれない。
これは……敵わないな。
すまない、叶。
いつも俺の独りよがりなエタデモに付き合わせてしま――
「しょせんキミは――パワー勝負を人に押しつけ、一人で気持ちよくなろうとしているだけの凡人に過ぎない。その点、僕の作った“ドラクロ・オリジン”は違う。徹底的にかーなを楽しませるために、ここまで研鑽を続けてきた」
――ちょっと待て。
一人で……気持ちよく……?
「この“ストームアローズ・ドラゴン”はその末に生み出した一枚……こいつの攻撃は、壁を破壊したときに手札に送られたキーカードを相手に使わせないという強力なカードだが、決して理不尽な壊れカードではない」
これまでのプレイを思い出せ。
俺はこれまで……本当に自分しか気持ちよくなれないような、独りよがりな遊びしかしてこなかったのか?
「何故か……それは、こいつが通せるか通せないかギリギリの、7000という絶妙なパワーラインだからだ!」
幾千、幾万の記憶の糸を辿る。
そんな、地球誕生46億年の歴史にも等しい時間旅行の末――
「……ククク」
俺は、思わず笑いがこぼれてしまった。
「まだ虚勢を張るか。では、そんな余裕ごと焼き尽くしてくれる! くらえーっ!」
お兄さんが“レオストーム”と“ストームアローズドラゴン”をタップし、ついに俺の壁が一つ破られる。
しかし、俺は動じなかった。
「お兄さん……あなたは二つの勘違いを冒している」
「な、なんだ」
「まずひとつ。そもそも俺のエタデモに――キーカードは一枚も存在しません」
「……は?」
「つまり、あなたの“ストームアローズドラゴン”は、俺の前ではただのパワー7000のバニラクリーチャーでしかないということです」
「……ば、バカな……」
「運ゲーはやーやですからね……キライなルールを弾くのも創造主の勝手でしょう。ククク……」
お兄さんが苦虫を嚙み潰した顔でターンエンドを告げる。
俺は山札から1枚のカードをドロー。
それが“逆転”の一手であることを確信し、失ったパワーを取り戻すイメージで言葉を紡ぐ。
「そして、もうひとつの勘違いは――叶に対するあなたの理解です」
その言葉を放った瞬間、お兄さんの形相が変わった。
漫画を読んでいるはずの叶の肩も、ピクリと反応した。
「な、何を抜かすか! 僕はずっと、かーなと“ドラクロ・オリジン”をプレイしてきたんだぞ!? ずっとずっと、楽しみを彼女に提供し続けてきた自負がある! それを君に“理解がない”などと否定される謂れは――」
「では聞きますが……過去、あなたが叶のために用意したカードをプレイしてもらったとき――あなたの思い通りにそのカードが使われたことはありますか?」
「……はっ!」
お兄さんの眼鏡の奥で、目が大きく見開かれた瞬間を俺は見逃さなかった。
「そう……きっと、ほとんどなかったのでしょう。なぜなら、叶の楽しみ方の神髄は――好きなカードを使って、俺たちの作ったカードゲーム環境を滅茶苦茶にして、快感を得るところにあるからです!」
叶の口を覆っていた漫画がサッと上がって、顔全体を隠した瞬間も見逃さなかった。
「さぁ行きますよ、“神代の石板獣『朱』”を召喚、ターンエンド!」
「ホ、ホイルカードだと!? このロマ……無駄な凝り具合は、まさか!」
「あなただって、薄々気付いていたでしょう。一人で気持ちよくなっていたのは――俺でもお兄さんでもなく、叶の方だったということに!
「ぼ、僕のかーなを……“やべー女”みたいに言うなぁ~! み、“魅惑の山師 メイヴ”を2体召喚!」
叶が顔を漫画で隠している隙を見て、お兄さんがさりげなく繰り出した2枚の美少女カードのテキストは、どうやら山札からカードを1枚ずつ選び、壁のカードと交換するという強力な操作効果のようだ。
「いま僕は残る2枚の壁それぞれにキーカードを仕込んだ! 信じるか信じないかは君次第だが……今攻めれば、きっと後悔すると宣言しよう!」
「信じる……か。妹の叶がそんなやべープレイスタイルじゃないと信じたいのは、あなたの方でしょう。長らく時間を共にし、築き上げられたあなたたちの絆を俺は否定しない――だが!」
俺がプレイするのは、もちろんコイツだ!
「俺はそんな叶が好きなんだッ!! “神代の石板獣『鬼』”を召喚、そして――“神代の融合石板獣『朱鬼』”にフュージョン!」
「なん……あ、頭が……! 『すき』、だと!? パワー30000だと!?」
わなわなと震えるお兄さんの手から――手札が零れ落ちた。
「そ、それ……『しゅき』じゃなくて……『すき』だったの……?」
顔を真っ赤にした叶の手からは――漫画が零れ落ちた。




