46.壁から手札に加える時、コストを支払わずにすぐプレイしてもよい
「ね、ねぇ。私の呼び方を勝手に賭けの対象にしないでもらえるかなっ」
先ほどまで蚊帳の外にいた叶は、怒った様子で手に持った干し芋をブンブンと振りながら、賭けに対する不満を叫んできた。
だが、俺はそんな彼女の気持ちを汲みつつも、断腸の想いで言葉を返した。
「叶……」
「なにさ!」
「俺、メッセージアプリで見た“かーな”って文字が、キミのユーザー名だと初めて知ったとき……」
「がるるっ……」
「正直、凄くかわいいなって思ったんだ」
「か――」
干し芋の動きが止まる。
そして、叶がもう片方の手で持っていた干し芋の大袋の外装が、メリ、メリとゆっくり音を立てる。
俺は再び、目線をお兄さんに向け直す。
「続けましょう。俺たちのカードは、まだまだこんなものじゃないでしょう?」
「生意気にいちゃつきやがって……だが、哀しいかな。君がその言葉を口にすることは、金輪際無いだろう」
彼はそう口にして、一枚のカードを場に繰り出した。
すっかり忘れていたが、次はお兄さんのターンだった。
「何故なら、このデュエルは僕が勝つからだっ。“創世獣イブ・サンローラン”を召喚!」
お兄さんは出てきたクリーチャーの効果で、山札を見てカードを探し始める。
要は、俺の“星滅のホワイトホールドラゴン”と同じ効果なのだろう。
しかし、このようなグッドスタッフカード一枚取っても、やはりお兄さんの技巧が光る。
絶妙にドラクロにいそうな一角獣のクリーチャーデザインもさることながら、何よりネーミングだ。
“創世”に因んだ“イブ”という単語を“サンローラン”と掛け合わせることで、どこぞで聞いたことのある女性向けブランドのような響きに昇華し、女の子でもそれなりに取っつきやすくする命名の妙。
叶は固まってしまっているので反応がないが、きっとおませだった年頃の彼女なら、十分に釣れたのだろう。
さすがは水産学部志望といったところか。
相手の“火焔旋士レオストーム”がこちらの壁にドングリを乗せる様子を眺めながら、俺はそう感じていた。
だが――
「“星滅のホワイトホールドラゴン”を召喚!」
同じ効果でも、俺のクリーチャーの方がパワーは高い!
「お兄さん。あなたはさっき、ドラクロに接続できる緻密さこそ至高とおっしゃっていましたね」
「至高とまでは言っていないが」
「でも、オリジナルカードは本来オリジナルなんですよ。パワーを盛るのも自由、設定を盛るのも自由……僕が目指したエタデモは、ドラクロを超えるカードなんですよ!」
手札に加えた切り札を握る力が、自然と強くなる。
場のダークネスワームが、向こうの壁に向かって攻撃を続ける。
しかし、それでもなお――お兄さんは冷静だった。
「……言いたいことはよく分かった。やはり君は――叶にふさわしい男などではないっ」
啖呵とともに相手の場に現れたクリーチャー。
その姿に、俺は息を呑んだ。
「“ストームアローズ・ドラゴン”を召喚!」
おどろおどろしさも無ければ、身の丈に合わない荘厳な二つ名もない。
それはただ、ひたすらにヒロイックで、まさにドラクロ的。
そして、あまりにも正統派の――カッコいいドラゴンだった。
「……ストームって付くカード多すぎだし……」
少しずつ冷静になってきたのか、叶が顔を伏せながらボソリと何かを口にしたが、あまりよく聞こえなかった。
「ふ、ふん。何かと思えば、たかだかパワー7000のクリーチャーが切り札ですか? パワーが10000も無ければ、一撃で壁も破壊できませんよっ」
イラストのエネルギーに圧倒された俺は、負けじと言葉を吐いた。
それに対してお兄さんは眼鏡を光らせ、「ククク」と笑いながら更に口を開いた。
「パワー、パワー。あぁ、かーながあまりにも可愛そうだ……こんなパワー一辺倒のつまらないゲームに付き合わされるなんて」
「なに……」
「自由である前に、カードゲームは頭を使った楽しい遊びであるべきだ。パワーが高い方が勝ちではなく、どうやって勝ちを通すのかを考えることが肝要だと思うがね」
「ぬかせ~!」
“ダークネスワーム”と“ホワイトホールドラゴン”が、ついにお兄さんの一枚目の壁を破った。
しかし――
「キーカード発動! “灼熱のフレイムストーム”で君の“ホワイトホールドラゴン”を破壊!」
すっかり忘れていた。
彼のカードはドラクロがベース……つまり壁を破壊した時、手札に加える代わりに相手のターン中でも使用できるトラップ――キーカードが使えるということを。
「う、運ゲーだぁ! 運ゲーはクソ!」
あまりの動揺に、俺の心の小学生が暴れはじめた。
すがるような気持ちで叶に目を向けるが、彼女は干し芋をむぐむぐとキメながら精神を落ち着かせることに集中していて、俺のパワーを上げてくれそうにない。
「そもそも、カードゲームと運は切っても切れない関係にある。何故か分かるかい?」
「なっ……」
「それは、最後まで勝負の行方が分からない方が――楽しいからだ!」




