43.破壊された自分のクリーチャーと同じ数だけ、相手のクリーチャーを破壊する
『――室井って小坊のとき何してたん?』
『もうずっと“ドラクロ”、なんなら今もやってるよ! 今ちょうど黒のアグロデッキ作ってて……』
『ド……ドラクロ……?』
『え、知らない? “創世ドラゴンズクロニクル”……今もう19弾まで出てるんだけど』
『いや、うん。むかし兄ちゃんとやってたけど、5弾くらいでやめた……』
『そう……あ、あぁでも、4弾の時めっちゃ人気あった“紅蓮の神ブリュンヒルト”、幸田くん覚えてる? あれの転生クリーチャーがいま出ててさ、敵対してた“深淵の神シグルド”の転生版と融合召喚ができるようになってて、昔を知ってる人にとってはめっちゃ熱いんだよ。しかも流行の白コンに自然に入れられて、それから――』
『……あ、ごめん、呼ばれてるから行くわ』
『え。う、うん……』
『あいつ、ドラクロやってるって。めっちゃ早口でオススメされた』
『ドwラwクwロw……カードシュバシュバ、鼻息フンフンしてそうでキッショ。陰キャラ移るから離れとけよ』
『……』
◆
『室井くんって、中学のとき何やってたの?』
『俺はね……ほんと広く浅くって感じで、色々かなぁ。フットサルとか、みんなでカラオケ行ってたりとか、もう笑っちゃうくらい没個性だよ』
『へぇ~、何歌うの?』
『“アメカン”とか“パンプ”とか、“EXWELL”とか……うん、洋楽以外ならだいたいなんでも齧ってる』
『へぇ~、やるじゃん。来週みんなで駅前のJAM行くけど、室井君も来る?』
『うん、ありがとう。お邪魔しようかな』
『OK! んじゃ、メッセージ教えて。グループ入れるし』
『ん、りょーかい……ねぇ、横山たちには声かけないの?』
『最悪だわ~、色ソウリュー粘ったのに、ランクマで害悪型めっちゃメタられててさ』
『また積み抜き型にしたらいいじゃん。ソウリューなんてなんぼでも型作れるんだから』
『あぁ、なんか……あいつらずっと教室の隅で“ホネモン”やってるから、別にいいかなって』
『そ、そう……』
『……』
◆
「室井君、申し訳ないけど……そういうのはもう、やめた方が……」
――俺は、弱い。
お兄さんにはっきりと現実を突きつけられて、心の奥底に憤りを覚えてもなお、俺に何かを言い返す資格などないと……どこかに仕舞っていた記憶が宥めるように語りかけてくる。
そんな声に耳を傾けるしかない自分が、ただただ情けない。
そうだ、彼は有名大学の入試を控えた受験生。
普通の遊びにすら現を抜かしている場合ではないのに、ましてや“ガキの所業”たる自作カード作りなんてとっくに卒業しているのは、よくよく考えれば至極当たり前のことだ。
彼の言う通り、俺も卒業するべきなのかな。
叶と繋がる方法なんて、他にも探せばきっとある。
だからもう――
「――えっ!? おにいもう作ってないの!?」
俺の情熱が澱みに沈みかけたそのとき、ちょうどトイ……お花摘みから戻って来た叶が、何とも言えない表情であんぐりとしていた。
そして、叶の言葉を聞いた眼前のお兄さんは、明らかな動揺を見せ始めた。
「か、かーな。僕は受験生だよ? さ、さすがに“アレ“はもう……」
「そりゃそうだけど。でも、私が中学卒業するギリギリまでは遊ばせてくれてたじゃん」
えっ。
中学卒業って、ほんの8か月前じゃん。
「そ、そう……かもしれないけどさ。かーなだって、高校のお友達と遊んだりするのに、カードの話なんてできないでしょ?」
「私、水泳で忙しいし……それに、カード以外の遊び方なんてほとんど知らないもん。忍くんのカードだけが、今の私の癒しなんだよ」
「えぇっ!? それはそれでどうな……」
「じーっ」
急速にしどろもどろになっていくお兄さん。
じっとりとした目で見つめる叶。
いちごケーキを美味しく食べる俺。
「……久しぶりに見せて、おにいのカード。実家帰ったときくらい、素で居させてよ」
「あ、あう」
――俺“たち”は、弱い。
こうして誰かに肯定してもらわなきゃ、自分の好きなことすら大っぴらに息継ぎさせてやれないのだから。
◆
お兄さんがダイニングまで運んできた、表面のシールがボロボロに掠れたお茶漬けの贈答缶が、ボンと大それた音を立てて開封される。
「うっわ……“おにい感”の煮凝りだぁ……」
中を覗き込みながら、叶は目を光らせて感嘆の言葉を漏らす。
……えっと、感嘆の言葉であってるんだよね?
「あぁ、もうこれこれ! うわ~懐かしい~!」
「かーな……」
鉛筆の粉で薄く灰色に染まった、数枚のカードを叶が手にする様子を見て、お兄さんは恥ずかしそうに眼鏡を光らせる。
でも、ふと漏れた彼の声はシスコ……妹への愛情とはまた別のところで、嬉しそうな機微が見てとれた。
「も、もういいだろ。そろそろキミたちも眠る時間だし、僕も受験勉強をしなくちゃいけない。だから――」
さっきから一転攻勢のニヤケ顔が抑えられていなかったのだろうか、お兄さんは俺の顔を恨めしそう見回しながらも、その場を収めようと必死だった。
「ん~でも、こうして見比べてみると……おにいと忍くんのカードって、微妙に方向性が違うね。なんかおにいのテキストは忍くんより、ちょっと大人しめというか……」
「――ん?」
しかし、叶が口にしたその一言を機に――お兄さんの眼鏡が妖しい光を放った。




