表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の自作黒歴史カードゲームが、まさか潰されそうなキミの逃げ場になるなんて【後篇開始】  作者: とむ
前篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/35

18.あなたは自分の場の壁をすべて墓地に置く


 空がどんよりとした雲に覆われたことで、それまで駅前ロータリーの日陰で歩道ブロックをつついていた鳩たちが、ぽっぽっぽとアスファルトに向かって歩いていった。


 祝日だからか、人の往来も喧騒も、いつもより少なく感じる。

 その分、背後の駅舎から聞こえる列車の『シャキン、シャキン』と響くブレーキ音が、いつもより大きく耳に届いた。


 ロータリーの真ん中に立つメタリックなシンボル時計は、皆が集まるよりもずっと早い時間を指している。


 懇親会はそのさらに向こう、ロータリーを挟んだ先に並び立つテナントビルのうち、一番端っこのビルに入っているチェーンの焼肉屋で行われるらしい。

 ビル四階のファサードには、ひときわ目立つ看板がでかでかと掲げられている。


 海風は今ごろ、隣県の会場に着いている頃だろうか。

 いや、もう何かしらの競技は始まっているだろうか。


 スマホの新着通知は何もない。

 メッセージ画面を開こうとパスコードを打つが、指がおぼつかずに2回も失敗してしまった。


 ため息が、自然と漏れた。



 ◆



『――それは懇親会に行くべきだよっ』



 あの時、屋上出口の前で話したこと。

 海風の返事はごくごく、あっさりしたものだった。



『ほ、本当に大丈夫? その、必要なら応援にでも行こうかと思ったんだけど……』

『いやいや、それはどう考えてもキミのバイト優先だよ。だってみんな、室井くんと仲良くなりたがってるんでしょ?』



 ……拍子抜けだった。

 なんかこう、『ふぅん……』とか『そっかぁ、そっち行っちゃうんだぁ』とか、てっきりそんな第一声が返ってくるものだと思ってたから。



『わ、分かった。じゃあ調整さんにはそう返しておく』

『うんうん。キミは面白いから、参加したらみんな喜ぶと思うよ』


『その面白いっていうの……他意がありそうで、なんか引っ掛かるんだけど』

『そ、ソンナコトナイヨー?』


『む……まぁいっか。とにかく無理だけはしないでね、海風』

『……ありがとう。私はいつも通りに頑張るからさ、キミも遠慮なく楽しんできて』



 そう言って、海風は昼の光で透き通った茶色い髪を揺らしながら、俺に向かってニッとはにかんでみせた。



 ◆



 ロータリーの時計から流れる、10:00を知らせる間延びしたメロディと、歩道信号機から流れるメロディが、ちょっとした不協和音になっている。



『かーながメッセージの送信を取り消しました』


『おはよう!隣県で神魔戦争がんばってきます笑 5:34』



 スマホに表示された、海風からの今日付のメッセージはこれだけだ。

 そして、ちょうどいま通知に飛び込んできたのは、店長からのグループメッセージだった。



『本日はお忙しい中、全員が参加に◯をしてくださり、ありがとうございます。また懇親会の間、シフト入って下さっている人たちも、本当にありがとうございます。この会を通じて、皆さんの結束をより強め、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います。今日はぜひ楽しんでいってください』



 店長が書いていることはお堅いながらも、正しいことだと思う。


 何を考えているのか、どんな人なのかも知らないメンバーの寄せ集めのまま、チームでいい仕事をすることはきっと難しい。

 海風の所属する水泳部の事情を見ていると、とにかくそう思う。


 この手の会を『プライベートの侵害』と嫌がる人の気持ちも理解できる。

 でも、お互いを理解し合いたい、または自分の居場所を作りたい人にとって、交流の場をわざわざ用意してもらえることが――いったい、どれだけ幸せなことか。


 だから、俺は海風の言った通りにすればいい。


 そう思いメッセージアプリを閉じた矢先、スマホがブルッ、ブルッと断続的に震えて、画面上の新着通知に次々とメッセージが表示されていく。



『おはようございます、よろしくおねがい……』

『よろしくお願いします。今日は子供を預……』

『シフト上がってから向かうので、少し遅……』

『あはは、中々うまくいかないね。室井く……』

『今日はよろしくお願いします。今から家……』

『息子が熱を出してます。旦那に引き継い……』



 濁流のように流れるメッセージを、ただぼーっと見つめていた。

 しかし、一瞬だけ表示されたあるメッセージが、俺はどうしても気になった。


 もしかしてと思い、バイト先のグループメッセージではなく、“かーな”のメッセージを慌てて開く。

 新たに増えていたのは、機械的な一文だけだった。 



『かーながメッセージの送信を取り消しました』




 それを目にした途端、足下の感覚が一気になくなる錯覚に陥った。

 足から腕にかけて一斉に立ち上がった鳥肌、そして息苦しさ。

 実感を伴った焦燥を前に、視界が揺れた。


 焼肉屋の看板とビルがぼやぼやとし始めて、波打つように歪んだ町並みを、慌てて見回した。


 やがて、駅の入り口が辛うじて見えた。

 足が一瞬もつれそうになって、立ち直り、そして身体がそっちに向かって、自然と運ばれていく。


 切符を買うのは久しぶりだった。

 青い“大人一人”のボタンを、押さなくてもいいのに、押してしまった。


 改札を抜け、ホームに上がる。

 電光掲示板を見ると、快速はこの時間に走っていないことが分かった。


 やがて、古い鈍行車両が大きなブレーキ音を立てながら、ホームに滑りこんでくる。

 ドアがガコンと開いてから、空調のよく効いた車内に立ち入って、ぽっかり空いたロングシートを目指した。


 それまで糸で操られたように動いていた自分の身体が――ロングシートに深く沈みこんだ。

 同時にポケットのスマホに触れるが、どうにも力が入らない。



 一度だけ、大きく息を吸って吐く。

 そして、さっきの海風からのメッセージ通知を思い出す。



 意を決してバイト先のグループメッセージ画面を開くと同時に、車両のドアはメロディとともに閉じられた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ