第33話:犬猿の仲
さて、藍華になんて説明しようか。すでに付いてきているし、このまま帰すわけにもいかない。こりゃあ、かなり面倒くさそうだな。あぁ! もう、どうにでもなれ!
「ただいま」
「おかえり。兄さん。まずはどうしてその女がいるの? しかも、何? その格好は」
やっぱりな。そりゃあ、誰だってこんな反応になるさ。
「淑女としての嗜みを身につける一環だってさ。一週間。ここで身の回りの世話をしてくれるらしい」
「おかえりください」
「ですよねー。でも、藍華。雑代は恐らくこれで承諾を得られなかったら、永遠に付きまとってくるぞ」
「うっ! それは非常に困る」
『ご主人様っ! ヒドイです!』
「あ、アロン!? お前どうして勝手に!?」
『やっぱり、私のことはいらないのですね! 捨てるのですね!』
「違う!」
『なら、そこにいるのはなんですか!?』
「一週間だけのお前の後輩だ!」
『信じられないです! ご主人様のバカッ!』
「おい! アロン! ……たく。二人とも悪い。アロンを追って、事情を説明してくる。藍華。あとは任せたぞ」
「あんな産業廃棄物なんてほっといて」
さすがに我慢できない言葉についつい、藍華の胸ぐらを掴んでしまう。でも、止めることはできない。止めたいとも思わない。こいつは今、言ってはいけないことを言ってしまったのだから。
「お前、今なんて言った?」
「っ!?」
息を呑む音が聞こえるがどうでもいい。
「アロンは家族だ。産業廃棄物なんかでは決してない。お前はずっとお世話になっても、そんなことを思ってたんだな? 見損なった。俺がいつまでもお前を甘やかしていると思うなよ」
言いたいことは言えたので、アロンのあとを追うことにした。しかし、もう少し時間がかかると思ったがすぐに見つかった。
「待ってくれ! アロン!」
『もう、私のことなんて放っておいてください!』
「そんなことできるわけないだろ! お前は家族なんだから」
『家族を捨てるとか最低ですね』
「だから、それは誤解だって! 少しは話を聞いてくれ!」
もう夜だが、近所迷惑など気にせずに叫び伝えると、ようやく止まってくれた。
今いる場所は住宅と住宅の間の道路だ。だから、二人で話すようなスペースはある。一歩一歩近づいて行く。彼女はもう逃げようとしない。
「まずはごめん」
『いいですよ。ご主人様に謝れるとこちらが申し訳なく思います』
「そうか。ありがとう。なら、事情を説明する」
そう言ってから、今日あったことを素直に話した。もちろん、何もやましいことはないので包み隠さずだ。
数分後にようやく話し終えた。
「相談せずに独断で決めて悪い」
『そういう事情があったのなら仕方ないですね。藍華様にも、そのことを話してくださいね』
「あー。……うん」
『なんですかその反応は?』
「いや、藍華と喧嘩した。正確にいうと俺から一方的に突き放した。お前のことを産業廃棄物と言ったとはいえ、ヒドイことを言った気がする」
『なんて言ったのですか?』
「見損なった。俺がいつまでもお前を甘やかしているとは思うなよ」
『あー。それはすぐに謝ったほうがいいですね。私のことよりも藍華様のことを優先してください』
「うん。わかった。悪いな。それと帰るぞ」
『はい!』
元気な返事が返ってきたので、自宅に向かうことした。
はぁ。なんか今日一日やらかしまくりだろ。俺。少しは大人しくしとかないとな。そうしないとまた色んなことに巻き込まれる。ここ三日間が濃すぎただけか。
♦︎
裕翔が自宅を飛び出した瞬間に藍華は床にへたり込んだ。そんな彼女の宝石のようにキレイな藍色の瞳が揺れている。でも、一筋の雫は流れてこない。まるで枯渇しているかのように。
「あの……藍華ちゃん。大丈夫?」
雑代が心配そうに話しかける。その声を聞いた瞬間に藍華は雑代に掴みかかった。雑代は何一つ抵抗などせずに素直に胸ぐらを掴まれる。
「誰のせいでこうなったと思っているの!」
「えっ……と。藍華ちゃん自身?」
「あなたよ! あなたが悪いのよ! 灼網雑代!! あなたさえ、あんなわけのわからないことをしなければ何も起こらなかったのよ! そもそも何やこれ!? 今までこんなことなかった!! あなたが運命を変えたんだ! まさか!? …………あなたが……【運命者】だったのね!!」
「違う!! わたしはあんな存在なんかじゃない! わたしは【コアを守る者】。運命者は敵よ!」
「どうだか。自分だからそう言っているだけかもしれないじゃない」
「わたしは運命なんて変えられない。変えれるならあんなことさせなかった」
「あんなこと? 何言っているの? あなたがあんなことしたんじゃない」
「してない。したのは濃霧紗凪」
「えっ? あの子は行方不明だったはず」
「あれ? 記憶が食い違っている? 一体どういうこと?」
「そんなの聞かれてもわからないわよ。どうせあなたが嘘をついているのよ」
「いや、そちらが嘘をついているのね」
二人して、犬猿の仲とでも言うかのようにお互いに睨みを効かせる。藍華は会話している最中に雑代から離れたから、お互いに一歩踏み出さない手を出さない場所で二人は睨み合っている。
「あなたなんかに」
「君なんかに」
二人はそう言ってから間を空ける。そして、同時に口を開いた。
「裕翔さんを渡さない!!」
「裕翔を渡さない!!」
♦︎
なんて謝ろうか。アロンに言われた通りのことを言うと誠意が足りないと言われそうだし、だからといって、反射的にとはいえ思っていることを言ったので、反省はしていない。
てかっ、本日二回目かよ。まさか一日で二回も家の前で悩むことになるなんてな。
自分の不甲斐なさに笑っていると突然、目の前に尻が現れた。しかも、メイド服を着ているようなので黒い尻だ。突然すぎて、対処ができなくて尻の下敷きになる。幸せだと一瞬思ったが、あまりの圧迫感に息ができなくなる。今日は疲れすぎて、抵抗もする気が起きない。もう、このまま死ねばいいやとも思う。
「あっ! 裕翔君!? すみません! 今、どきます」
慌てた様子で雑代が離れる。
やっぱり、雑代だったか。まぁ、メイド服だったしそりゃあそうかとしか言いようがないけどな。
「なぁ、一つ聞いていいですか?」
「なんでしょうか?」
「藍華ってオーラを出すことができましたっけ?」
「できてますよ。今更ですね」
「マジっすか。なら、今のあいつの全身から漂っている白い霧みたいなものもオーラですか?」
「そのようです」
「でも、どうして?」
「さぁ、わかりません」
藍華は自我を失っているのか危ない足取りでこちらに近づいてくる。そして、口は笑っているのに目が笑っていない。むしろ、虚ろだ。
「殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「っ!?」
さすがに凄まじいほどの殺気を感じたので、反射的に雑代の前に出る。それも俺なら殺す心配はないという確信でだ。
普通なら殺される心配はないとわかっていても、震えるものだが、俺の場合は震えもしない。でも、どういうわけか内側から熱が出てくる。だからだろうか、ついつい手のひらを妹に向けてしまう。
藍華はそんな俺を見た瞬間にオーラが消え失せて、大きく後退する。そのことに気づくと熱が消えていく。
「おかえり。兄さん。仕方ないからアロンも雑代さんも認めてあげる」
彼女は微笑みながら言い、先ほどの後退した距離よりも広く前に進む。だから、俺の目の前にやってきた。今回は瞬間移動にしか見えないほど早く動いているわけではなく、ちゃんと捉えれている。
「あげるって何様だ」
言いながらも軽く藍華の頭にチョップをする。そんなことをされたのに「えへへ」と照れたように笑い出す。
そんな俺らを見てか、背後から生暖かい目線を感じる。だから、背後を見るとメイドの格好をしているアロンと雑代が本当に生暖かい目線を送ってきていた。
スゴく穏やかに雰囲気だ。先ほどの殺伐とした雰囲気ではないので少し和む。そのあとは人数が増えたとはいえ、いつも通りの生活を送り、その日は終えれた。
♦︎
夢を見ている。またもや、おかしな夢だ。しかし、今回の夢は風景が一切ない。周りに暗くて重い闇が降りているだけだ。だというのに俺の体は温かみを感じる。耳を澄ましても、目を見開いてもそれ以外は何もない。
相変わらずの暗闇。暗闇なのに恐怖も感じない。むしろ、安心すらする。そんな時に一筋の光が俺の手に出てきた。その光から温かみを感じる。だから、温かみの正体を確かめるために自分の手に目を落とす。そこには黄色っぽい赤色の炎があった。その炎に空いている方の手で触れて見たが、熱くない。人を安心させるための炎だ。
しかし、次の瞬間に体全体が炎に包まれる。その炎は熱い。熱過ぎて溶けてしまっている気がする。だが、声を出そうとしても出ない。まるで喉仏を潰されているような掠れた声しか出ない。
だから、自分の体を見ると本当に溶けていた。スライムのようにドロドロだ。
♦︎
「うわああああああ!! はぁ。……はぁ。……はぁ。クソッ! 悪夢すぎだろ……。はっ?」
何者かが俺の上に乗っていた。顔が見えない。体もスレンダーなので性別もわからない。唯一わかるのは髪の長さ。普通に長いが、男でも伸ばしている人がいるので、やはり性別がわからない。
しかし、瞬きするとその者の姿が消えていた。
「一体なんだったんだ?」
疑問に思ったが、気にしてられないのでとりあえず寝ることにした。今度こそ悪夢は見ない気がするからだ。
藍華と雑代が物語の核心に触れるような喧嘩をしていますね!




