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第32話:お礼としてのお願い

 助けに来てくれたよくわからないオールスターと雑代の間にゴゴゴゴ!! という効果音が背後に見えるほど睨み合っている。


 なんだ? この空気は。ワクワクすっぞ! なんて冗談を言える空気ではないな。それにしても、こんな場合なのにキザなセリフを言いたくなる俺は完全に病気だな。もう、末期だな。救いようがない。俺はあくまでにわかなのに。でも、この空気は変えたいな。いや、別にいっか。非日常ということがわかるんだし。


 それにしても、どうして俺なんかを守ってくれるのだろう? それにさっきヴァンパイアが雑代のことを会長と呼んでいた。ということはヴァンパイアがウチの学校にいるのか!? 誰だ? 一体誰なんだろう?


 少しワクワクしていると脳裏に一人の少女の顔が浮かぶが、すぐに首を左右に振る。


 彼女は違う。絶対に。アレは俺の見間違えだったんだ。あいつのはずがない。あいつはどこにでもいる普通の少女だ。俺なんかとは違い、特異な体質でもない。そうだ。ただの人間だ。


「仕方……ないか」


 ヴァンパイアが何かを呟くと突然、雑代に向かって駆け出す。


 できるかわからないけど、雑代に助けるためにやるしかない!


 立ち上がり、思いっきり溜めてから床を蹴る。すると案の定、ものすごい速度で迫ることができた。二人の間にちょうど入り込めたので、横からヴァンパイアの手首を横から掴む。


 よし! あとは投げるだけ!


 そう考えたのはいいが、ヴァンパイアが重くて投げれない。


 やっぱり無理か。なら、仕方ないか。どうか死にませんように。


 目の前にヴァンパイアがいるというのに神に祈る。でも、十字架は持っていないので殺すことはできない。だから、ヴァンパイアを止めるためにも俺の方へと腕を引く。すると、勢いのままこちらに向かってきて、そのまま突き刺さる。


「グッ! ……スー……セーフ……」


 一か八かヴァンパイアを引き寄せるとなんとか首と心臓の微かな隙間に爪が刺さった。そして、逃さないためにもヴァンパイアを片手で抱きしめると少女特有のか細い体だということがわかった。


「あ……あぁ!! …………裕翔……裕翔裕翔裕翔!!」


「怖い怖い!!」


「わたし以外とベタベタして!! 許さない…………許さない許さない許さない許さない許さない!! ぜったいに許さない!!」


「だから、怖いって! っ!? 飛びついてくるなよ!」


「引き裂いてやる! あなたはわたしだけの物なのだから!!」


「あぁあ!! もう! 寝ぼけているなら、さっさと目覚めろよ! おい! 魔王! 雑代に冷水をぶっかけてやれ! そうしたら目が覚めるはずだ!」


「は、はい!」


『アイスウォーター!!』


 魔王の手からは冷気が漂っている水が生まれて、見事に雑代の頭に直撃した。当たった瞬間に水は弾けたので、さほど痛くはないだろう。


「ヒュー! 呪文なしとはやるねぇ!」


「あ、ありがとうございます!」


「礼儀正しい魔王なこった。てかっ、勇者とパイロットなんもしてねぇ」


「「出番がなかった」」


「まぁ、そりゃあそうだ。パイロットがこの中で一番浮いてたからな。それに恐らく二人とも殺し専門だろ? そりゃあ今回は殺し関係ないし出番が少なくてもおかしくないな」


「「あははは」」


 二人は笑って誤魔化した。


「あ、あれ? わたしは一体?」


「おっ? 気がつきましたか?」


「ゆ、裕翔君? どうしてここにいるのですか?」


「やっぱり寝ぼけていたようですね」


「えっ? あっ? すみません。ご迷惑をおかけしました」


「目が覚めたのなら、さらば」


 ヴァンパイアがそう言ったかと思うといつの間にか俺の腕から離れていて、手を横に振ると空間が裂けた。そして、四人のよくわからないオールスターは揃いも揃って、その裂けた空間の中へと入っていく。


「助けていただきありがとうございます」


 一応お礼を言うと全身が軽く手を上げた。それで四人全員がこの場からいなくなった。


「裕翔君」


「はい? ……ちょっ!? その格好でそれ以上近づかないでください。見えてしまいます!」


「ごごご、ごめんなさい!」


「こちらこそごめんなさい!」


「あっ」


「ん? どうしましたか?」


「ちょっと失礼しますね」


「えっ?」


 雑代は股間の前でしゃがみ込み、そっと手を伸ばしてくる。


 目線を下に向けるわけにもいかないし、動くわけにもいかないのでついつい直立不動になってしまう。


 数秒後に彼女は「完成です」と言い立ち上がるが、何に引っかかったのかつまずき俺の方へと倒れてくる。直立不動だったために足にまるでタックルをかましてきたかのような錯覚に陥り、そのまま倒れてしまう。しかし、どうやら後頭部を強く打ってしまったため意識が薄れて行く。


 俺は本日二度目の気絶をした。


 目に差し込んできたオレンジ色の光で目が覚める。ズキズキと痛む頭を抑えながら、横を見ると窓から綺麗なオレンジ色の光が差し込んできていたので、ついついそちらを眺めてしまう。久々に見た気がする外の景色に少し感動を覚える。しかも、その久々に見た景色が夕陽と来た。これはなんともロマンチックだと自分で思う。


 ボッと夕陽を見ていると脳が覚醒して来たので今、自分がどういう状況かと確認するために左右を見る。ここはどこかの一室のようだ。でも、拷問部屋とかではなく普通の部屋なのでとりあえず安心した。


 このデカさは普通なのか? 完全に豪邸の一室じゃん。まさか俺がこんなところに来ることになるなんて予想だにしていなかった。


 すると、コンコンとノックの音が聞こえてきたので「どうぞ」と応答すると「失礼いたします」と落ち着いた声でメイドさんが入ってきた。


 いや、待て。本当にメイドさんか? 確かに服はメイドさんだ。それは間違いない。でも、どうしてこんなにも聞いたことがある声なのだろう。


「裕翔様。お目覚めになられましたのね」


「やっぱり! その声雑代だ!」


「左様でございます」


「でも、どうしてそんな堅苦しそうな口調をしているのですか?」


「これも淑女らしい立ち振る舞いの修行ですよ」


「そうですか。さすがお金持ちですね。でも、雑代は今のままでも充分淑女らしいと俺は思います。ただ、拷問趣味さえなければの話ですが」


  「重々承知しておりますよ」


「なら、いいのですが」


 自分で拷問趣味はダメとわかっているなら、別に問題ないや。


「突然ですが、裕翔君。本日は多大なご迷惑をおかけいたしました」


「いえ、気にしないでください。元はと言えば俺のことを心配してくれていたことですしね。おかげで充分元気が出ました」


「それはお喜ばしい限りです。しかし、それだとわたしが納得できません」


「なら、どうすれば?」


「この格好を見て何か思いつきませんか?」


「いいえ。何も。ただ、頑張っているなと思うだけです」


「そう……ですか。でしたら、わたしから一つ断る権利がない提案があります」


「その場合は提案と言わずに強制と言うのですよ。まぁ、それはいいとしてその提案とはなんですか?」


「本日より一週間。わたしがあなたの使用人を勤めさせていただきます」


「えっ? それだと僕は一週間この屋敷にいないといけないの?」


「そういうわけでは一切ありません。ただ、わたしが使用人としてあなたについて行くということです」


「非常に困るのですけど」


「まだ遠慮しますか。でしたら、これはわたしが淑女らしい立ち振る舞いを身につけるための修行の一環だと思ってください」


「うっ。そういうことならお手伝いさせていただきます」


「ホントですか!? これから一週間よろしくお願いいたします!」


 一切断れる雰囲気がなかったので、俺は渋々彼女の淑女らしい立ち振る舞いを身につけるための修行の一環を手伝うことになった。


 これ、なんてゲーム?

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