第34話:騒がしい朝
はぁ。眠い。結局は眠れなかった。でも、仕方ないよな。あんな悪夢を見たら寝ようにも寝れないし。って、もうこんな時間か。藍華と雑代を起こさないとな。
部屋を出て、まずは俺の部屋の横の藍華の部屋に行く。ノックをせずに部屋に入る。
ずっと前にノックして入ると距離を感じると言われたので、ノックをしなくなった。あの時は親しい中にも礼儀だろと思ったが、今はそんなことを思わない。むしろ、頭がボーッとしているせいで何も感じない。
というか藍華の部屋に入った瞬間に眠気が凄まじいけど、どういうことだ? まぁ、なんとか我慢できるくらいだけどさ。
そう思いながらも、体を揺する。いや、揺すろうとした。でも、なぜか触れた瞬間に恐ろしいほどの眠気に襲われた。そのせいで藍華の上に体ごと乗っかった。なんとか起き上がろうとしたが、ダメだった。
俺の意識は暗い闇の中に落ちていった。
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重い。一体何が乗っているの? もしかして敵? でも、それだと殺気を感じるはず。殺気を感じないということは敵じゃない? いや、でも殺気を隠すのが上手すぎる人だったら、わたしでも感じられない。よし。すぐに動けるようにしておかないと。
目を開けて、下を見てみる。
「えっ?」
そこにはあまりにも予想外すぎる人がいた。
「でも、どうして? もしかして、襲ってくれる気になったの!?」
思ったことをつい口に出してしまったけど、寝息しか聞こえない。
でも、どうしてわたしの上で寝ているのだろう? こんなこと今までなかったのに。
もう一度、観察してみるがやはり眠っている。
今ならイタズラしても起きなさそうだね。
優しく頭を抱き寄せて額に口づけをする。
「裕翔さん。愛しているよ。世界で一番」
呟くと自分の頬が熱くなるのを感じる。でも、彼を離せない。離したくない。離すとまた遠くに行ってしまう。また自分を犠牲にしてしまう。
今度こそ、絶対に守ってみせる。もう、あんな思いはしたくないから。
裕翔さんを……ううん。まだ早い。まだ。今はわたしの恋人ではなく兄なのだから。まだあの話をしていないから、まだ兄さんだよ。
そう考えると不思議と気持ちが切り替わる。これが演技ということは知っている。でも、今はこれでいい。兄さんを抱き寄せて胸に埋めさせる。
これが兄さんの暖かさ。これが人と触れ合うということ。このことを忘れない。絶対に。そして、もう二度と失わない。失わせない。でも、兄さんが別の女のところに行くのなら仕方がない。わたし……藍華は兄さんの幸せを望むから。藍華といて兄さんが幸せになれないのなら、他の女と一緒になってもいい。兄さんの幸せを望む。でも、絶対に振り向かせる! そのためならなんだってする! してみせる!
「だからね。兄さん。藍華を選んで」
そう言って藍華は服に手をかけ始める。普段ならそのまま普通に脱ぐが今回はどうしたか止まってしまう。
「あれ? どうして?」
質問してみたが、答えるくれる人はいない。でも、答えはもうわかっている。
本当はこういうことをするのは嫌。求められてからじゃないと、したくない。
「兄さん……」
自分でも情けないと思ってしまうほどの声を出してしまう。でも、もう嘘の姿で彼を誘惑したくない。
彼の頭を撫でる。
兄さん。愛しい人。あなたは何度も自分の様々なものを犠牲にして藍華を守ってくれた。……違う。わたしは藍華じゃない。藍華という名はあなたから貰った名前。大事な名前。でも、わたしの本当の名前は違う。でも、言いたくない。藍華のままがいい。
「片時も離れたくないよ。愛してる。愛してるよ。裕翔さん。でも、わたし以外と幸せになれるならそれでいいの。……って、あれ? 何を泣いたんだか」
すると突然、頭に手が伸びてきて撫でてくれた。疑問に思い裕翔さんの方を見ると優しい眼差しでわたしの頭を撫でてくれていた。
「泣くなよ。お前に涙は似合わない。いつものように笑っていてくれ」
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闇から覚めると、なぜか藍華が泣いていた。
あれ? もしかして俺が藍華の胸の上で寝ていたからか? そうなのか? そうだとしたらスゲェ申し訳ないんだけど。しゃーない。少しあやしてやるか。
そう思うと藍華の頭に手が伸びていた。
「泣くなよ。お前に涙は似合わない。いつものように笑っていてくれ」
勝手にそんなことを紡いでいた。
くっさ! くさすぎだろ! どうしてこんなキザなセリフを言ってんだ!? 俺は!? でも、まぁいっか。藍華が泣き止んだし。代わりに自分が言ったセリフがくさすぎて、全身が痒いけど。
「裕翔さん……」
ん?
「なんでそんなにも他人行儀なんだよ? 何かありそうで怖いのだけど」
「う、ううん。何もないよ。ただそう呼んでみただけ。実際にあんなキザなセリフを言われたらこんな反応になるでしょ? 兄さんはカッコいいんだし」
「カッコいいかは知らないけど、確かにあんなセリフを言ったらあんな返しをしたくなるよな」
「そうそう」
「で? どうしたんだ?」
「何が?」
「なんで泣いていたんだ? やっぱり俺がお前の胸の中で寝ていたからか嫌だったか?」
「そんなことないよ! むしろ大歓迎! ようやく藍華を求めてくれたんだよね?」
「断じて違う」
「えぇー。即答ー」
「当たり前だ。俺たちは兄妹だからな。でだ、話を戻すけど、どうして泣いていたんだ?」
「うーん。内緒」
「お前がそう言うと意地でも言わないから、何も聞かない」
俺の意思を藍華に伝えると突然、ガチャっと音を立てて扉が開いた。そして、入ってきたのは昨日と同じメイド服姿の雑代だ。
「朝から兄妹でイチャイチャと禁断の愛ですか? それとも二人とも発情したのですか?」
「断じて違いますよ」
「……即答だと逆に怪しいですよ」
クソ。しくった。
「兄さんが欲情して襲いに来てくれたの」
おい。爆弾を投下するな。雑代の視線が冷たすぎて怖いぞ。
「違いますから。藍華の胸の上で寝たけど違いますから」
「胸の上で寝た?」
俺の言葉を聞いて雑代の視線が刺さるように冷たくなる。
クソッ! 墓穴を掘っちまった!
「それは発情していないのですか?」
『えぇ。発情していないですよ』
突然、背後から声が聞こえたかと思うと瞬間移動でもして来たのかアロンが背後にいる気配をしたかと思うと肩を持たれて引っ張られた。
そのせいでアロンのアンドロイドとは思えないほど、リアルな感触の胸に顔を埋めることになった。
って、あれ? いつの間に藍華のベットの上から床に移動しているんだ?
「ふもふも」
『キャッ! くすぐったいですよ』
おい待て。そんな艶かしい声を出すなよ。二人の視線が怖いから!
「プハッ! 死ぬからな! それとお前瞬間移動なんてできるのか?」
『できるわけないじゃないですか』
「だろうな」
「あっ、そうそう。今日は学校ですから起きてくださいよ」
「もう、そんなに経ったのですか」
「それと一つ言っておきますが、わたしは学校でも裕翔君のメイドでいますから」
「えっ?」
「あっ、安心してください。メイド服は着てないです」
「当たり前でしょう……」
「ちょっと待ちなさい。あなたは生徒会長。そんなあなたが兄さんのメイドなんてしていたら変な噂が広まりますよ。TPOを弁えてください」
「お前には言われたくないと思うぞ」
「藍華は別にいいの。妹の特権だから」
「そんな特権初めて聞いた」
『仕方ないですね。私が監視しております』
「ややこしくなるからやめてくれ」
俺の言葉を聞いて藍華と雑代はうんうんと頷いている。
息ぴったりだな。昨晩の喧嘩が嘘のようだ。
「あっ、いいこと思いついた。今日、学校にいる間は二人とも俺に関わらないというのはどうだろう」
「「却下」」
「二人して同時に言うなよ。それによく考えてみろよ。俺と関わらない生活は新鮮だと思うぞ」
「兄さんエネルギーが切れて死んじゃう」
「長い間そんな生活でしたけど」
雑代のは確かにと思ったけど、藍華のは意味がわからん。ツッコミどころが多すぎるだろ。
「よく考えてみろよ。体育祭のあとは文化祭で忙しくなるかもしれないだろ? なら、関わる時間なんてないじゃん」
「「どうして同じ年に産まれなかったのだろう」」
ホントに仲良いな。まぁ、少し安心したけど。
「それじゃあ決まりな。学校が近づいて来たら俺たちは別行動」
文化祭のことで諦めがついたのか二人は渋々頷いた。




