第86話 偽乳
「他の見てねーから何とも言えねーけど、これ解像度低過ぎねーか?」
今回盗撮に使われた置き時計型カメラ。この中に入っていたメモリーカードから出てきた本人の自撮り(?)画像の画素数があまりにも低い事に違和感を覚えた永遠。
寺西が一重を呼んで確認させると、永遠の睨んだ通り、先の二年生男子が持っていた写真に比べると今回の写真は素人目に見てもわかるくらい明らかに画像が鮮明でないとの事だった。
永遠と寺西の頭にある単語が浮かんでくる。
『模倣犯』
この度学園探偵部が捕まえた彼が過去に誰かの写真を買ったのか、はたまた友人から噂で聞いたのか、そのきっかけはわからない。
永遠たちが把握している表に出た盗撮写真は刹那と彼方のものだけであったが、その二つの盗撮に使われたであろう機材やそれらを用いた手口と比べても、今回のそれは余りにも稚拙なものだ。
「どーしたもんかな」寺西は軽く伸びをした後、そのまま首の後ろ辺りに両手を当て真理と士郎が問い詰めている彼の方を眺めた。
「クソっ!」ある意味では自分の専門分野ともいえる部分で、すぐに気付けなかったという事実。その苛立ちから悪態をついて立ち上がる永遠。
彼はポケットに手を突っ込み鞄も置いたまま廊下に向かって歩き出す。
「おい、どこ行くんだよ?」
「ちょっと一走り頭冷やしてくる。何か買ってきて欲しいもんとかあるか?」
「みんなに聞いて後でメールしとくよ」
最近は型外れな白バイ隊員一重の父の影響で少しずつ緩和されつつあるがそれでも尚、堅物と呼べる程に永遠は人一倍正義感が強い。
結果としてだが、男子生徒たちの性衝動を煽り彼方を傷付けるきっかけを作った真犯人が未だにのうのうと同じ学園内にいるという事実に、またそれをどうにも出来ない自分の力の無さにも嫌気がさした。
永遠がガラリと勢いよくドアを開け外に出ると、慌てて廊下の角に隠れてこちらを伺う人影に気付いた。
一見すると雑なセルフカットの様に見えるが実はバランス良く整えられているクセ毛風の黒髪ショートカット。身体を隠しても少しだけはみ出てしまっている大きな胸はブラウスの生地を引っ張り、パールカラーのボタンが今にも弾けて飛んで行ってしまいそうだ。そのブラウスの第一ボタンはだらしなく開け放たれそこにある筈の学園指定リボンは勿論着けられていない。
一瞬しか見えなかったが永遠がその姿を見間違う筈などなかった。
「刹……」驚いてその名を呼びかけたが、踏み留まる。
「そんなとこで何してんだよ、一期っ?」
永遠に声を掛けられた一期が恥ずかしそうに出てくる。
「流石です、永遠さん。何でわかったんです? 新アイテムまで使ったのに」ブラウスの上からソフトシリコン製のコスプレ用胸パッドを触る一期。
「ちょ、その格好で変なとこ触んなよっ」
「永遠さん。あの、刹那さんの事」
「何だよ、あらたまって?」
「ご、ごめんなさい。僕が早とちりした所為で」
「あいつが怒ってるのは依頼のサービスにしてた事で、盗撮自体じゃねーだろ?」
そう言った永遠に一期はなんて返せば良いか考えた。だが丁度いい言葉は浮かんで来なかった。
「……そろそろ行くわ。お前らみたいなガンマニアがBB弾パラ撒いてすっきりするみたいによ、バイク乗りも走らなきゃって時があんだよ」永遠はいきつけのバイク用品店の店員を真似てキザな台詞を吐いた。
一期は校舎を出て正門へと歩いて行く永遠の姿を窓から見送った後、鞄から金髪のウィッグを取り出した。
いつもの公園に着いた永遠はエイプ100に掛けられたカバーを剥がす。
ヘルメットを被り、公園出口まで押して行き、入り組んで配置されているポールの隙間を器用に避けていく。一見簡単そうに見えるが、12インチ小径ホイールのミニモトと三年間続けた毎日の積み重ねがあって初めて出来る芸当だ。
通りに出た永遠はチョークを引いて、同じホンダのミニバイクNSR50用の物に変更されているキックペダルを軽く数回踏んだ後、一気に踏み抜く。
「ブローン、ボンボンボン」低い音を立てながらアイドリングが落ち着くまで待ちチョークレバーを戻す。
「さてと、行きますか」出発しようとしたその時、ポケットの中のスマホが震えた。そういえばと思い出し、スマホを出して寺西からの買い出し指示メールを確認する。
しかし、届いていたのは寺西からのメールではなく一期からのSOSメールだった。
『永遠さん!大変です、校舎裏で刹那さんが生活指導の先生に乱暴されてます!僕だけじゃ無理です、急いで!』
エンジンを切ってヘルメットを脱ぎかけた永遠だったが、彼の脳裏に数日前の彼方の事件がよぎった。再びヘルメットを被り直してエイプを再始動した。
「刹那っ!」
永遠はエイプのハンドルを正門に向けるとアクセルを全開した。




