第83話 誠意
「すいませんでしたっ」
逃げられない様に両腕を後ろ手に結束バンドで縛られ、足首も同様にされ正座のような姿勢で謝罪を繰り返す二人。一人の顔は砂まみれ、ゴミ箱のフルスイングをもろに受けたもう一人も顔が腫れてはいるが見た目よりは軽傷の様子。
スカートの下に真理が持ってきたジャージを履いた彼方は彼らの謝罪には耳を貸さずベンチに腰掛けて無言でスマホを弄っている。
「とりあえず、あんさんらの処遇はあとで考えたるさかい、せいぜい震えながら待っときぃ。悪事の証拠はKSR-1のドラレコでしっかりと録画されとるさかいな」
サイドスタンドを掛けたバイクに腰を掛けている一重がポンポンとフロントカウルの下に設置されたカメラをこれ見よがしに叩く。
そうは言ったものの、いったいどこまで録画されているのかはスマホかパソコンに繋いで確認をしないとわからないのが実情だ。
「そもそもあんたらなんで彼方先輩にこないなことしたんや? 未遂に終わったとはいえ、強制性交っちゃそりゃごっつい犯罪やで?」
一重は証言を取るために、胸ポケットに入れたスマホで先ほどから謝罪の様子を録画し、不自然にならないよう会話誘導しながら自供を促している。
ベンチから立ち上がった彼方がスマホをジャージのポケットに突っ込み、一重の横に来てKSRの狭いシートに無理に詰めて腰を降ろす。そのまま一重の首に腕を回し寄り添うように抱きついた。
ちょっと困り顔をした一重だったが、そっと彼方の手の平に自分の手を重ねた。
するとそのまま一重の顔に自分の顔を近づけて頬ずりをし始める彼方。
「ちょ、ちょ、ねえやん?」
顔を逸らして逃げようとする一重を首に回した腕に力を入れて引き寄せる彼方。
一重の頬に何度もフレンチキスをし始める。
「ちょい、あかん、あかんて。堪忍してぇな」
「ボク今さっき彼氏全員にお別れメール出したの。一重ちゃん、ねぇ」
「や、あかんてー」
「……さて。まずはどうやって写真を入手したのか? 知ってることは全部話しなさい。協力的であればあるほど今後の対応を考えてあげなくもないわ」彼方と一重の様子を横目で見ながら少しだけ呆れ顔になった真理が男子二人の前に仁王立ちしたまま見下ろす。
男子生徒二人は観念した様子で、真理に写真の入手方法について話し始めた。
二人ともそれぞれに知らないアドレスから彼方の画像の購入を持ちかけられ、当初は半信半疑だったが別の生徒が刹那の写真を購入出来たことを知り、自分たちも気になっていた彼方の写真の購入を申し込んだそうだ。
支払いなどはネット経由でギフトカードの番号を送り、受け渡しはその都度学園内の隠し場所を指定され、プリントアウトしたものがそこに置かれているという。場所だけでなくメールアドレスもその都度変わるそうだ。
「これはお手上げね。でも一体どうやってこの子たちが彼方ちゃんを気にしてるってわかったのかしら? メールアドレスにしたって……」
「お前ら、誰かに話した事は?」
士郎の問いかけに首を横に振る二人。
「その、刹那って人がいいって言ってたダチとよくトイレで話してただけで、女子のいる教室なんかじゃ流石に話せないですし」
「もういいわ。せめて精一杯の誠意ぐらい見せて帰りなさい」真理が顎で合図し、それを受けて士郎が二人の結束バンドを十徳ナイフで切る。
「あの、誠意って……」
ふぅ、と溜め息をつく真理。
「精神的な苦痛に対する代償だけじゃなくて、物理的にも制服のクリーニング代、……皆まで言わないとわからない?」
「は、はいっ」
二人は財布にあるだけのお金を全て士郎に渡し静々と帰路に着いた。
「真理先輩、ありがとうございます。的部先輩も」一重に引っ付いたまま、少し落ち着きを取り戻した彼方がペコリと頭を下げる。
「真理先輩、取り上げた写真見せてください」
「でも、貴女……」
「大丈夫です。それより気になる事があるんです」
ブラウスのポケットから真理が写真を渡す。
受け取った彼方が一枚づつ注視していき、その表情から疑問が確信に変わって行く様子が伺われた。
「これ、ある程度時期が特定出来ます。私イベントに向けて髪型とか調整するんで。それに、イベント会場とかの写真が一枚も無くて全部学校の中だけって、私狙いなら変ですよ。コレって犯人は同じ学園の生徒って事じゃないですか?」
真理と士郎が視線を交わす。
同じ学校の生徒による犯行。そのくらいは既に予想出来る事ではあった。だが認めたくはなかった。彼方の意見でそれは確信に変わり、さらに前進要素として時期が絞られた。
「彼方さん、ありがとう。落ち着いたら那由多さんともお話をしてあげて。貴方に来て欲しくないって言われてすごく落ち込んでたから」
一重に抱きついたまま真理の言葉に無言でこくりと頷く彼方だった。




