第80話 油断
「ねえ、ちょっと聞きたい事あるんだけど?」
彼方に話しかけられた男子が彼方の顔をみて動揺する。隣にいた友人を肘で軽く小突いて目配せをする。
「何だよ?」
「二、三日前、すぐそこのトイレで騒いでたのってキミたちでしょ? その時の事詳しく聞きたいんだけど?」
二人の男子生徒はこそこそとお互いに耳打ちした後「学園じゃ話しにくいから」と彼方について来るように言って教室を出て歩き始めた。
その様子を不審に思ったのは彼らの友人、最近刹那に懲らしめられた彼だった。
友人と言っても、先日刹那に懲らしめられた際、彼をおいて逃げた二人とはそのまま険悪になり口を訊いていないから元友人といった所か。
彼は窓から二人とその後ろについて行く女の子の姿を確認した。
嫌な予感がし、ポケットから刹那に手渡されたカードを出す。
そこに書かれている学園探偵部の活動教室を確認する。場所が二年教室の並びだとわかると足早に向かった。
騒動の始まりの男子トイレを素通りし、目的の教室前に着くと一度深呼吸してからガララッと扉を開いた。
教室には元ゲーム愛好会の会長の高橋と、同じく元部員の藤原、真理と士郎、寺西と那由多の姿。元ラジオ研究会の二人はまだ来ていないようだ。
ドアを開けた男子生徒に見覚えのある寺西が声をかけた。
「お前、この前のトイレの? ちょうど良かった。今からお前んとこ行こうと思ってたんだよ。ちょいと聞きたい事あってよ」
「あの時はすいませんでした先輩。あの後、次の日に刹那先輩にこっぴどく絞られて……。あ、じゃなくて! もしかしたらあの子ヤバいかも!」
「あの子って?」
「あのコスプレとかしてるって噂の、あの子ってここの部員なんスよね?」
読んでいた少年漫画誌を机の上に放り投げ那由多が立ち上がる。
「ちょっと! それって彼方のこと?」
「カナちゃんコイツの友達に写真の件で話聞きに行ってる筈だ! 隣のクラスだとかで」
「アイツらその彼方って子のSNSとかネットの掲示板とか見てて、ある事ない事間に受けてて、傍から見ててもちょい拗らせてる感じで。でもまさか、いやわかんない。でもあの子連れて学校から出てったから」
不安な顔で立ち尽くす那由多の顔が青ざめていく。寺西は頭を掻き、一人で行かせた事を後悔している。
事態を把握した真理が声を張る。
「士郎!」
すっと音もなく立ち上がった士郎が駆け出す。
「この辺だとおそらく永遠たちがバイク隠してる公園だ!」士郎の背中に向かって寺西が叫ぶ。
「お願い間に合って」那由多が祈る様に手を合わせる。
——男子生徒の後をついて行く彼方が連れてこられたのは学園近くの公園。
「ねぇ単刀直入に聞くけど、キミたちってトイレで刹那さんの写真持ってた子の友達でしょ? あの写真ってどうやって手に入れたか知ってる?」公園内に入った後、彼方は早速本題を切り出した。
「写真なら俺らも持ってるよ」とブレザーの内ポケットから数枚の写真を取り出し、表側をわざと彼方に見せない様にし、自分たちでニヤニヤと写真と彼方を交互に見る二人。
「ちょっと、何よ感じ悪」と言って近づいて写真を奪おうと腕を伸ばす彼方。
写真を奪われないように高々と掲げ、それを取ろうと更に伸ばした彼方の両腕が男子生徒に掴まれる。
「ちょっ、何すんのよ、離して」
男子が彼方の腕を掴む際に手放された写真がヒラヒラと彼方の頭上から舞い落ちる。
腕を掴まれてつま先立ちになったまま目線を下に落とす。
地面に落ちた写真にはトイレに座って用を足している所やスクール水着に着替えている最中の胸が露わになっている姿、その他にも授業中椅子に座っている所をローアングルから狙われスカートの中が鮮明に写っているものまであった。
そしてその胸も下着も幾度となく見てきた見慣れたもの。
彼方の顔が引き攣る。
「こ、これ、ボクの写真……」




