第75話 決別
「僕やっぱり納得できません! 永遠さんがそんな事やってたなんて」
寺西から刹那の隠し撮りブロマイドの事を聞いた一期が怒りで震える声で抗議する。
「永遠は永遠なりに刹那ちゃんの事を思ってやってるし、依頼主だってアイドルのファンがブロマイド買うみたいな、そんな気持ちだと思うけど……」
「兎に角、刹那さんにちゃんと話すべきです!」
その時。ガラピシャーン! と、部活動教室のドアが乱雑に開けられた。
「おっつかれー!」
刹那とその後ろに永遠。最悪のタイミングでの登場だ。
「刹那さんっ!」と駆け寄ろうとする一期の腕を寺西が掴む。
「ちょっ、離してください!」
「どしたん? 一期、話聞こっか?」と刹那がふざける。
「寺西、一期嫌がってるぜ」と言う永遠に向かって、片手でスマンというゼスチャーをする寺西。その様子を見て首を傾げる。この時点ではまだ永遠も何が起きているのかわかっていない様子。
「刹那さんっ、話があります! どっかここじゃない場所でっ!」
「ほんとどうしたの一期? 変よ?」
「せ、刹那さんの盗撮写真が出回ってるんですっ!」
一期の言葉に永遠の顔から血の気が引いて行き、ここで初めて寺西の奇妙な態度について理解した。
「一期、ちょっ話……」寺西が離した一期の腕を今度は永遠が掴む。しかし一期の表情があからさまに引き攣る。
「やだっ! 離してください!」まるで汚物でも見るような蔑んだ目で永遠を下から睨付ける一期。永遠の手を振りほどいて刹那の背中に隠れる。追いかけようと手を伸ばす永遠。
しかし刹那の右腕が素早く動き、伸ばした永遠の手首を掴んで捻りを加える。
「痛つっ」堪らず永遠が声を漏らす。
「永遠、あなたもちょっと変よ? 私の元カレに乱暴なことしないでくれる?
行くわよ、一期」刹那と一期は連れだって教室の外へと消えていった。
一部始終に聞き耳を立てていた教室内の面々は沈黙している。
「すまん、永遠。ついさっき一期、二年に絡まれてたんだよ。それでその下級生ってのがその、言いにくいんだけどトイレで刹那ちゃんの写真使ってオナニーしてたみたいで……。話の流れで依頼の時のサービスの事話さざるをえなくなっちゃって……」
「いや、寺西は悪くないよ。元々いつかバレちゃう危険はあった訳だし。ただ、一期はともかく刹那はそういうその、性的な話苦手だから」
「あのー、さっき一期に写真見せてもらったんですけど、やっぱりアレは無いと思いますよ」と一重も永遠を軽蔑の眼差しで見ている。
「あー、さっき俺には見せられないって」
「だってあんなの犯罪じゃないですか。いやらしい」
「え……っと、嫌? らしいって?」一重との温度差に気付いた寺西が聞き返す。
「口にしたくも無いですよ。着替えとかスカートの中とか……」
「えぇっ?」永遠が驚きの声をあげる。
「刹那ちゃんの私服姿とか顔のアップとか、そういうブロマイド的なのじゃなくて?」寺西も驚いて確認する。
「それによく考えたら下級生って言ってたよな? 俺が把握してる中で確か下級生からの依頼って無かった筈……」
ガラ、ガラッ。今度は大人しく開けられたドアから何も言わずに刹那が入り、押し黙ったまま永遠に向かい一直線に歩いて来る。
「刹那、これは違くて……」
「永遠ぁ、あんた私の写真エサにして依頼取ってたって? コレ本当?」
「いや、その、俺はお前のためを思って……」
パァンッ!
刹那が放った平手打ちの音が教室内に響いた。本気の刹那が放つしっかりとスナップの効いた平手をもろに受けた永遠は頬に見事なまでの赤い手形をつけバランスを崩して机と椅子を道連れにして崩れるように盛大に倒れた。
その様子を教室にいる全員が固唾をのんで見守っている。
「否定しなさいよバカっ! あんたとはもうコンビ解消よっ!」
吐き捨てるように永遠に宣言し、教室の外に出て行く刹那。
バァンッと乱暴にスライドドアが閉じられる。振動で嵌め込まれた摺りガラスがビビり音を発する。廊下から「行くわよ」と一期に声を掛けたのが聞こえた。
事情を知る士郎や薄々感づいていた那由多は起き上がらずに呆然としている永遠に声を掛けられずにいた。




