第74話 秘密
「え? 『助けて』って?」
スマホの画面を見ながら一重が呟いた。
「ちょっと、トイレってどこのよっ?」眉間に皺をよせながら両手でスマホを持って慌てて返信をする。
「どしたん? 一重ちゃん。話聞こっか?」学園探偵部の発足に際して学園の承認クラブ数に制限があったため模型部を廃部にし暇を持て余している寺西が旧ゲーラ模の活動教室、現在は学園探偵部が使用する教室で一恵に声を掛けた。
「なんか一期から変なメッセージ来て。トイレで上級生に絡まれてるって。けど場所も何もわかんなくって……」
「ここに来る途中のトイレなら二年生が利用する筈だから、そこじゃない?」
「さすが先輩! たとえモブでも探偵部員ですね!」
「いやモブて! でも、もしかしたら男子トイレじゃない? タチ悪いのだったらマズイし俺もついてこっか?」
——一方、一期サイド。男子トイレ。
「オイ開けろって!」
ドアを叩く音と怒鳴り声はどんどんエスカレートしていき、痺れを切らした男子生徒がドアを蹴り始める、その時。
「キャーッ! 喧嘩よーっ!」外から女子生徒の金切り声。一期にはすぐに声の主が誰かわかったが、ドアの向こうではヒソヒソと「ヤバいって」とか「行こうぜ」と言う話し声が聞こえはじめた。
「あれ? お前ら何やってんの? なんか女の子先生呼びに行ったみたいだぜ」続いて発せられた声の上から話し掛ける感じから、こちらは通りすがりの上級生であろうことが予想される。そしてこちらも一期が良く知っている声。
「お前、明日覚えてろよ」と個室内の一期に言い残しバタバタとトイレから去って行く男子生徒たち。
優しいノックの音が響き「一期、もう大丈夫だぜ」と言う寺西の呼び掛けの後、個室のドアが開き泣きそうな顔の一期が出てきて寺西に抱きついた。
「寺西先ぱーい、うぅっ。あ、ありがとうございますっ……」
「ちょい、ヤバいって一期! その格好で抱きつかれたら俺も目覚めちゃうって!」と一期の肩を掴んで引き離す寺西。
「オホンッ! お二人さん、私のこと忘れてません?」
「……一重さんもありがとう」
「で、何で絡まれてたんだ?」
「女子トイレが一杯で仕方なくこっち来たんですけど、……えと、この先はここじゃちょっと」
——部活動教室に移動した三人は隅の方に固まり、一期から事の経緯が語られた。
急な腹痛でトイレに駆け込み、その個室には置き忘れられていた刹那の盗撮写真があったこと、そしておそらくその持ち主の生徒が慌てて回収に戻って来て、偶々そこに入ってしまった一期が絡まれたこと。あと、入り口ですれ違った時に顔を見られていて、女装のことも野次られていたので特定をされているだろうことも。……今日の五時間目の後、刹那が気まぐれに一期にくれた手作りクッキーが腹痛の原因かも知れないことは伏せられていた。
「そいつらも別に写真くらいでそんな慌てなくても」
「それがその、言いにくいんですが盗撮写真なんです。それもかなり鮮明な」
「と、盗撮? ま、まぁ、刹那ちゃんかわいいから隠れファンくらいいるんじゃねーかな?」
「僕、刹那さんに話します!」
「えっ、いやソレはマズいんじゃないか……」
「でも……」
「もしかして、寺西先輩心当たりでもあるんですか?」女の勘は鋭い。
「え、っと、いや」一重の質問に動揺の色が隠せない寺西。怪しむ二人。
「もしかして寺西先輩が……」
「いやっ! 俺じゃねーって!」
「俺じゃって、じゃあ誰なんですか?」
「うーん、誤解しないで聞いて欲しいんだけど、あとこれは絶対に他言無用で……」(スマン永遠! これ隠し通すの無理だわ)
寺西は永遠に心の中で詫びを入れたつつ、一期と一重に元祖学園探偵への依頼時に受けられる裏サービスについて話始めた。




