第66話 ディティクティブ刹那
ウィポポポポッ!
順調にターゲットをヒットしていく一期。
滑り台を滑りながらコーラ缶をヒットした一期がシーソー前のサークル内で立ち止まる。
出番を待ち構えていた寺西が勢いよくシーソーに乗っかり、反対側に乗せられていた空き缶が宙を舞う。
ポポポポッ。
カカカン、カカッ。コーラ缶に当たったBB弾の内のいくつかの弾が跳弾となって同時に宙に舞っていた青い缶に当たる。
「あっ」思わず声を漏らした一期だが、すぐに気持ちを切替え水飲み場まで走っていく。
「今まで跳弾が当たらなかったのがそもそも奇跡なのよっ! 私なら最初からセミオートで行くわっ」刹那がすかさず解説を入れる。
一期が走りながらスライド後部のレバーをセミオートに変更する。
すぐに水飲み場に到着した一期。
「えっ、それ反則じゃねーの?」水飲み場の目の前まできてほぼ接射の状態になりトリガーを引く一期の姿を見て永遠が思わず声に出す。
ウィポッ。カンッ。と音を立てて赤い缶のみが地面に落ちて行く。
「終了ーっ!」
刹那の声で高橋がストップウォッチを止める。
「いや、今のって?」
「永遠、何年私の相棒やってるの? そんな事じゃ助手失格よ。最後のターゲットにサークルの中で、とか撃つ場所の指定ってあった?」
「あっ、言われりゃまぁそうだけど……」
「瞬時に状況を理解して虚を突けないと学園探偵失格じゃない? 先攻で気付けたんだもの大したモンね」
「タイム、58秒35っ!」高橋がタイムを読み上げる。
五個の赤缶をヒットしたが、青缶一つ誤射したのでトータル17秒マイナスで41秒35が一期の記録となった。
「永遠くんコレって……」
「いや、そもそも基準がねーから何とも。でも見てる分には刹那の方が射撃の腕は上に見えるし、アイツは陸上部にも負けないくらい脚も速いし。負けるとは思えねー、……んだけど」那由多に聞かれ永遠が自分なりの分析結果を伝える。真剣な表情から贔屓目は無さそうだが、何か心配事がある様子だ。
「やるじゃない一期!」と話す刹那。しかしながらその瞳は一期に向けられていなかった。
一重を睨みつけながらスカート裾から中に手を入れ、太股に付けられた彼方謹製レッグホルスターからタナカ製の旧カート式リボルバー、コルトディティクティブスペシャルを抜いた。
バレル側から下に落とすように勢いをつけてクルクルとガンスピンをした後、ピタリとグリップを握って止めると銃身先端のフロントサイトの辺りにチュッと口づけをしてウインクをした刹那が一重に言い放つ。
「ハンデよ、ハンデ」
「うわちゃー、ダメだこりゃ」永遠が手のひらで両目を覆って天を仰ぐ。
「なになに? どうゆうこと?」「先輩、それがなんでハンデになるんですか?」
那由多と一重が不思議顔で尋ねる。後ろでは寺西が黙々と空き缶を並べ直している。
「最近のリボルバーは命中精度が良くなってきてはいるんですど、それでもまだオート拳銃スタイルの方が圧倒的に当たるんですよ。ましてや刹那さんが使ってるのは昔のカートリッジ式のヤツで基本的に命中精度が悪いんです」と一期が答えた。
「じゃ刹那先輩はなんでそんなの使ってるんですか?」
「それは……」と一期が答え始めたが、
「浪漫よ!」刹那が一期に被せるように答えた。
「高橋! カウント準備はいい?」刹那の呼びかけに髙橋が頷きふじももが号令を出す。
「ちょい待ちっ!」
「何よ永遠? 水挿さないでよ?」
「いや、細けーことだけど。ジョンって18歳以上推奨じゃなかったっけ? あと少しっちゃ少しだけど俺ら誕生日まだだろ? スモルトSSだとまだパワー的に大丈夫とか言ってなかったっけか?」
「パワーっていうかジュールね」
刹那が渋々コルトD.S.をホルスターに収め、ハイウエストホルスターから抜いたスモルトセツナスペシャルに持ち替える。
「これじゃ命中率良すぎてハンデにならないのよね……」小声でぶつぶついいながらカートリッジを普通のBB弾が込められたものに入れ替えてスタートラインで構える刹那。
「じゃぁ、よーいどん!」
藤原百花の合図で刹那がブランコに向けて飛び出していく。
凄まじいスタートダッシュで足元には砂煙が舞う!
走りながらスモルトSSの撃鉄を起こす。刹那的にハンデのつもりなのかレーザーサイトのスイッチは入れられていない。
「シングルアクションの方が命中率が上がる!」一期が感嘆の声を上げる。
ブランコ前でザザッと一際大きな摩擦音と砂塵を上げて止まる刹那。
その速度が一期のそれよりも明らかに速いのは一目瞭然。
リボルバーを構えて首を軽く回してから初弾を発射する。
「ちょ、ロジャー撃ち! 今そのアクションいらねーからっ!」ギャラリーの誰もわからなそうなので刹那に付き合わされて散々アクション映画を観せられてきた永遠が突っ込みを入れる。
バシュ。カンッ。
すぐに方向転換し銃口を滑り台上に向ける。
バシュ。しかしBB弾は空しくコーラの缶の左上辺り上空へ消えていく。
ガシャッ、バシュ。カンッ。二発目はダブルアクションでヒットさせる。
すぐに滑り台に向かって走っていきハシゴ階段を二段飛ばしで駆け上がる。
「刹那さん凄いっ!」
「なにが凄いの、一期?」
「二段引きって言って、トリガー引くのを途中で止めちゃう普通は良くないって言われてる引き方なんだけど、先にシリンダーを回しきってからハンマーを落とす、シングルアクションに近い撃ち方にして命中精度を上げてるんだよ!」早口で興奮気味に話す一期だが、その場で意味がわかっているのは、さんざん刹那の練習や蘊蓄話に付き合わされている永遠ぐらいのようだ。その他全員は無表情で聞き流している。
滑り台の天辺にあるバーをかがんでくぐった刹那がおもむろに立ち上がる。
「危なっ」誰とも無く声が上がる。
立ったまま滑り始めた刹那が二十センチも下降しないうちにすぐに木の枝上の缶を打ち落としそのまま滑り台を駆け下りる。立ち上がることで距離のマイナス分を稼ぐ効果を狙った荒技。滑りやすいようにブランコ前の減速でスニーカーの裏に多めに土をつけたのはこの為だった。よい子はマネしない方が良いだろう。
あまりにもな予想外の動きと速さでブランコ前のサークルに到着した刹那に寺西の反応が一瞬遅れたがすぐに二つの缶は空中に舞い上がった。
放り投げられたターゲットを狙う際、確実なのは放物線の頂点に到達した瞬間だろう。現に先攻の一期はそこを狙った。だが刹那は上がり初めの先の先を読み、上昇してくるライン上に狙いを定めて躊躇無くトリガーを絞った。
バシッ。
が。タイミングはドンピシャだったにも関わらず、またしてもBB弾は空を切り刹那の耳に「外れたっ」とか「あぁっ」という溜め息混じりの歓声が聞こえてきた。
「クッ! そ」と奥歯を噛みしめて唇の端を歪めた表情の刹那が二射目を放つ。地面すれすれでヒットし、すぐにスモルトSSをスイングアウトしブレザーポケットの口を拡げて金属製のカートリッジを全て放り込む。
水飲み場まで走りながら、ポケットの中にあらかじめ入れていたBB弾数発にカートリッジの先端を押し込み一発だけシリンダーに装填してすぐに押し込む。
バシッ。カンッ。
水飲み場に到着しラストターゲットをダブルアクションで接射した。
ストップウォッチを止めた高橋が「終了っ! タイム、1分と13秒20っ!」と声をあげた。




